『野球へのラブレター』(長嶋茂雄)のレビュー・感想

2017年11月3日

天才の素顔は理論派で野球博士!?

野球へのラブレター (文春新書)

もくじ

『野球へのラブレター』のもくじ

 

目次

1stイニング 松井とイチローの個性
2ndイニング あきらめないこと、信頼されること
3rdイニング 巨人の誇り
4thイニング 打者と投手の領土争い
5thイニング 五輪とWBC
6thイニング ああ監督
7thイニング 伝統の一戦
8thイニング グローバル・ワールドシリーズ
9thイニング 特別対談・長嶋茂雄×加藤良三(日本プロ野球コミッショナー)―「天覧試合」あの四打席を語ろう

引用元:野球へのラブレタ- / 長嶋 茂雄【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア

 

『野球へのラブレター』のおすすめポイント

イチロー選手のことが気になって仕方がない

 長嶋さん松井秀喜選手の師弟関係は野球ファンならずとも有名ですが、イチローとの関係性はあまり耳にしません。テレビ番組、あるいは雑誌などで対談をしてもよさそうなのですが、これまでそういう場は無かったと思います。

 一方で、イチロー選手と長嶋選手は「似ている」という人が多いです。例えば野村克也さんは「本当の天才はイチローと長嶋」と語っていますし、長嶋さん自身も「僕の打撃理論はイチロー君と似ている」と語っています。新旧のスター選手で言うと、王さんや松井さんはフォームをしっかり固定し、ボールに対して毎回同じ形で打とうとします。一方で長嶋さんやイチロー選手は、来た球を打つ、ボールに合わせてバッティングを変える、悪球打ちといったスタイルを持っています。走攻守全てを兼ね備えている点も似ています。

 

 

 前置きが長くなりましたが、本書の冒頭では、長嶋さんが松井・イチローについて語っています

 松井もイチローも、日本人が組織の中の理想的人間として思い浮かべる二つのタイプをそれぞれ代表している気がする。
 松井は忍耐強く、自分を抑えて黙々とその役目を果たし、決定的な場面で実に頼りになる働きをしてくれる。どの会社にも、どの部署にも周囲の状況にかかわらず、いつもどっしり構えたそんな人物がいるだろう。
(中略)
 さて、イチローだ。イチローには驚かされる。いまの野球記者たちは選手がフォームお少し変え、結果を出すと「進化」と書くけれど、進化とはそんな簡単なものではあるまい。それをいうなら「進歩」だよ、と言いたくなるのだが、イチローの場合は「進化」が誇大表記ではなさそうなのだ。ぼくは、とにかく「すごい」と言うだけだ。

引用元:長嶋茂雄(2010)『野球へのラブレター』文芸春秋,第一刷,pp.10-12

 引用文からわかるように、長嶋さんはイチロー選手をべた褒めしています。実際に読んでみるとわかりますが、イチロー選手が気になって仕方がないという感じです

 このほかにも、怪我無くプレーし続ける点、走攻守の技術の突出度、常人離れしたバットコントロール、記録の比較対象がシスラーからピートローズまで、大リーグの歴史を包括する点など、すべてが素晴らしいと語っています。

 

常識の隙をつく独特の理論

 攻めのピッチング=パワーピッチングの速球勝負ではない。時速百五十キロ台の速球を持たない投手が、真っ直ぐで勝負をして欲しいと待ち受ける打者に直球で向かっていっては正面衝突の自殺行為だ。
(中略)
「攻めのピッチング」とは、多彩な球種のコンビネーションでも、内角、外角へのボールの出し入れでも、スピードの変化でも構わない。投手が守る側のただ一人の攻撃者であることを自覚して、自分こそが試合の主役なのだとのプライドを持って、自分のベストピッチで打者と勝負すること、それこそが攻めのピッチングになる。

引用元:長嶋茂雄(2010)『野球へのラブレター』文芸春秋,第一刷,pp.45-46

 解説者でも選手でも、「直球勝負こそ真剣勝負」などと言う人がいますが、それはあまりにも考えがなく、幼稚な考えにも感じてしまいます。むしろ、この長嶋さんの話の方が納得できますし、投手を「守る側の唯一の攻撃者」と表現するあたり、鋭い観察眼を持っているなあと感じます。

 余談ですが、例えばオールスターなどでも直球勝負を挑む選手がいます。しかし、僕はオールスターだからこそ、直球と変化球を駆使した「普段通りのピッチング」をすべきだと思いますし、それこそが「真剣勝負」だと思っています。

 

 

 この他にも、日米の野球の比較を随所でしています。長嶋さんは現役時代からメジャーリーグに興味を持っており、メジャーリーグの情報にはかなり詳しいようです

 例えば、日米の練習についての話。メジャーはキャンプが短く、練習時間も少な目です。これは裏を返せば「自己管理が必要」ということであり、常に自分で考え、練習をする必要があるのです。キャンプが短くても選手は開幕までにしっかり体を仕上げますし、練習時間が少なくても、驚くようなプレーを見せてくれます。

 日本では集団での練習時間が多い一方で、自分で考えて練習を工夫すること、自分で考えてプレーすることが苦手なところがあります。メジャーリーグの「自由」の裏には、自己管理、自己責任の精神があるのだと、長嶋さんは語っています。

 

選手時代のエピソードも豊富

【守備へのこだわり】

こんな風にやればファンに楽しんでもらえるのではと日頃練習してきたことがハマったとき、ファンと一緒に喜べるのが面白かった。(中略)打撃は瞬間の連動で”遊び”ができにくい。守備は、考え工夫した事を動きとして表現しやすい。

華麗であってダイナミック、凡ゴロを捕ってもかっこよく見せる。派手に捕って、派手に送球する。送球した後も右手がヒラヒラとたなびいている、当たり前のプレーを誰もができないように演る”長嶋流”だ。

引用元:長嶋茂雄(2010)『野球へのラブレター』文芸春秋,第一刷,pp.29-30

 現役時代の長嶋さんといえば、派手な守備、魅せる守備で有名ですが、それを狙ってやっていたという話。当時から「ファンサービス」を意識していることがすごいですし、「表現」という言葉を使っているのも独特です。野球は技術が重要で、確実性を追求するというのが常識ですが、そこに「芸術性」を追求していた長嶋さんは、やはり天才。 他の選手とは別の次元でプレーしていた選手なのです。

 

 

 さらに、守備についても、イチローの話をしています。

いまの選手で、フライの捕球で「芸」が入れられるのはイチローぐらいではなかろうか。練習の時の手をわまして補給する”背面捕り”には舌を巻くが、さすがに本番ではやっていない。けれどもライン際やフェンス際の打球をスライディングキャッチする時のカッコいい姿勢、あれは明らかにイチロー流で計算されている。打球を追う時のランニング・フォームひとつとっても他の外野手とは違う、イチローでなければできない魅せるスタイルだ。

引用元:長嶋茂雄(2010)『野球へのラブレター』文芸春秋,第一刷,p.30

 天才同士は通じるところがあるのでしょう。イチロー選手の守備の美しさ、格好良さは「意識したもの、計算したもの」と言い切るところがすごいです。イチロー選手は、自分のあらゆるプレーに「理由」「根拠」を持っている選手です。これらの守備の特徴についても、あくまで合理的な理由があると言うでしょう。こればかりは本人に聞いてみなければわかりません。

 ここでは、高いレベルでの「合理性」は「芸術」に通じるところがある、と考えておけばいいのではないでしょうか?

 

【ドジャースからオファーが来ていた!?】

 これは野球ファンの間では結構有名な話です。新人時代に日米野球に参加し、チームは大敗したものの、長嶋さんは活躍。それから8年後にドジャースが来日した際、ドジャース会長から正力松太郎氏へ、長嶋さんを譲ってくれないかとオファーがあったそうです。

正力社主が「彼がいなくなると日本の野球が十年遅れる」と断ったという話を聞かされた。ぼくは、「オレがオーナーでも出さないだろうな」と納得した。自分なりに日本球界での”わが商品価値”は十分承知していた。

引用元:引用元:長嶋茂雄(2010)『野球へのラブレター』文芸春秋,第一刷,p.53

 1966年当時、ジャイアンツはV9時代の2年目、長嶋さん自身は、すでに首位打者を5度、本塁打王と打点王を2度ずつ獲得。球界のスターとして活躍していた時期です。それにしても、自分で「わが商品価値」と言ってしまうのはすごい(笑)。それが許せてしまうのも、長嶋さんの実力とキャラクターあってのことです。

 

感想

 タイトルの通り、野球への愛情が感じられる内容です。雑誌への連載をまとめたものであり、サクッと読み進めていけるのもポイントでしょう。読み進めるごとに「長嶋さんは本当に野球が大好きなんだなあ」としみじみします。野球の雑学も豊富なので、おすすめです!

 

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