「藪の中」(芥川龍之介)のあらすじ[考察,解説,感想]

2017年10月25日

あらゆる説を考察! これでみんなスッキリ!
犯人はこいつだ!


藪の中(講談社文庫)

もくじ

  • 考察(解説) – 考えられる3つのパターン
    • 1.夫婦の証言が嘘
      (=犯人は多襄丸)
    • 2.(1)多襄丸ホラ吹き&妻が旦那にキレた説!
      (=全員嘘つき/犯人は妻)
    • 2.(2)多襄丸&霊媒師ホラ吹き説!
      (=勧善懲悪のまっとうなオチ/犯人は妻)
    • 3.思わず納得!映画界の巨匠「黒澤明」の説!
      (=全員嘘つき/犯人は多襄丸)
    • 未だに未解決
    • 作品が難解である理由
    • 罪と羞恥心
  • 藪の中 – あらすじ
    • 木こりと放免の証言
    • 多襄丸の自白
    • 妻の証言
    • 霊媒師による夫の証言
  • 感想
  • 参考文献ほか

 考察(解説)

嘘をついているのはこいつだ!
考えられるパターン3つ!

 本作はその真相を知りたいという人が非常に多いと思うので、いきなり解説から開始。まずは、この記事を読んでいる人も推理できるよう、とりあえず全員の証言を書き出してみる。

【目撃者・関係者の証言】
  • 木こり:
    「胸を刺された男の死体。刀は無く縄が落ちていた」@山科の竹藪
  • 僧  :
    「前日の昼、殺された男を見た。馬に女を乗せ、刀と20の弓所持」@滋賀から山科へ向かう途中
  • 刑事 :
    「昨夜8時頃、多襄丸を確保、刀と17の弓所持」@山科と都の中間、栗田口。
  • 被害者の義理の母:
    昨日、娘は夫とともに馬で若狭(福井県)へ向かっていた。男は気立てのいい人間だった。
【被疑者(多襄丸)の証言】
  • 「男は殺したが女は殺していない」
  •  昨日の昼すぎに夫婦をみかけ、女を奪おうと考え、男を竹藪へ誘い出した。
    ①男を襲い木の根元へ縛る
    ②女を呼び、男の目の前で乱暴
    ③女の言うままに男と戦い、男を刺し殺す
    ④女は逃げた
【殺された男の妻の証言】
  • 乱暴された後、夫から侮蔑の眼を向けられ失神。気がつくと多襄丸は姿を消していた。
  • 「共に死のう」と持ち掛け夫を刺殺し、再び失神。その後は縄をほどいてその場を去り、現在に至る。
【殺された男の証言(霊媒師による)】
  • 妻は多襄丸の「自分の女になれ」という誘いに乗り、「夫を殺せ」と依頼。しかし、不意をついて逃げ出し、多襄丸もその場を去った。その後自ら胸を刺した。しばらく後、何者かが自分の旨から刀を抜き去った。

1.情を抜きにして考えると、夫婦の証言が嘘(=犯人は多襄丸)

 藪の中を推理する上で重要なのは、「情に流されない」「被害者が正直であるとは限らない」という2点。ここからいくと、目撃者・関係者の証言、そして多襄丸の証言をまず基本にすべき。

 そうなると、まずは多襄丸の言う通り、

  •  昨日の昼すぎに夫婦をみかけ、女を奪おうと考え、男を竹藪へ誘い出した。
    ①男を襲い木の根元へ縛る ②女を呼び、男の目の前で乱暴 ③女の言うままに男と戦い、男を刺し殺す ④女は逃げた

 となる。では、なぜ夫婦の証言が異なるか? まず女の方は、多襄丸をその気にさせて夫に復讐してもらおうとした。しかし、夫が負けてしまったために逃亡。自分も被害者とは言え、夫を犠牲にして逃げたことは恥ずべきことなので、例え寺の住職を前にしても、真実は語れなかったというわけだ。都合の悪いところでは「失神」したことにしているのも、その為だ。

 つまりこの女は、自分が夫を殺したことにしてまでも、夫を犠牲にして逃げたことを隠したかった、というわけだ。

 さて、夫の証言はどうか。夫の証言はそもそも霊媒師のもので疑わしいが、ここは事実としよう。つまり、霊媒師の体を借りて、夫は嘘の証言をしたということだ。なぜ嘘をついたか? 男にとって一番ショックだったのは、妻がどういう風に考えていたにしろ、自分を置いて逃げたことだ。加えて、多襄丸に色目を使ったことへの不信があった。妻が逃げたことをそのまま伝えるだけでは自分の無念は晴らせない。ならば、妻をとことん悪者にしてしまおうという気持ちが働く。結果、妻の裏切りを強調するような証言に至ったわけだ。

 気になるのはどうして「多襄丸と切りあって死んだ」と言わなかったか。それは、刀を持つ者としてのプライドがそうさせたのかもしれない。盗賊に負け、妻にも逃げられる。それでは、男として情けなさすぎるというわけだ。

2.(1)多襄丸ホラ吹き&妻が旦那にキレた説!(=全員嘘つき/犯人は妻)

 この辺から話はややこしくなる。この説は、多襄丸が武勇伝を語りたいが為にホラを吹いたという説だ。女を乱暴したまでは本当だが、目的を果たしたのでそのまま逃亡したというのが真実。この説だと妻の証言との整合性もある程度つく。

 ただし、妻の証言は一部嘘である。やはりここでも「失神」が怪しい。真実はこうだ。妻は自分を守れなかった夫にキレたのだ。そして、所持していた小刀で縛られたままの夫を刺し殺し、その場を立ち去った。

 そんなことをされた夫はどうだろうか? 例え死後に霊媒師の体を借りての証言であっても、「まんまと騙され妻を襲われた」「最後は逆上した妻に殺された」となれば、男として二重の恥だ。となれば、自ら嘘のストーリーを語るしかない。彼にとってはもはや妻が一番の悪かもしれない。「何も殺すことはないだろう」と。そういうわけで、多襄丸よりもさらに悪の妻を描き、最後は自殺ということにして、自分のプライドを少しは保ったというわけだ。

 そして、この説だとラストの「何ものかが胸から小刀を抜いた」というのも納得がいく。足がつくのを恐れた妻が、思い出したように現場に現れ、夫の胸から小刀を抜いたのだ。

2.(2)多襄丸&霊媒師ホラ吹き説!(=勧善懲悪のまっとうなオチ/犯人は妻)

 先ほどの説にはもう一つの可能性が考えられる。多襄丸がホラ吹きであるまでは同じだが、妻の言ったことは本当という説だ。多襄丸が逃げた後、妻は夫と共に死ぬことを決意。しかし、自分はうまく死ねず、最後は寺で懺悔する。ここまではいいだろう。

 では、旦那はなぜあんな無茶苦茶な証言をしたか? それは、霊媒師がイカサマというだけ。霊媒師はおそらく、事前に事件の情報を入手していた。そして、いろいろな証言を聞いたうえで、皆が納得するようなストーリーを仕立て上げたのだ。ここでは霊媒師は、多襄丸の証言に目をつけ、そっちに話を寄せていったのだ。結果、全くの善人である夫婦が損をするというオチだ。悪人は悪人であり、胡散臭い霊媒師もイカサマ、そして被害者はあくまで善人という、勧善懲悪のまっとうな説である。

3.思わず納得!映画界の巨匠「黒澤明」の説!(=全員嘘つき/犯人は多襄丸)

 あの黒澤明監督の映画「羅生門」では、藪の中の真相の一説が描かれている。それを最後の説としてここに紹介。

(中略)多襄丸は強姦の後、真砂に惚れてしまい夫婦となることを懇願したが、彼女は断り金沢の縄を解いた。ところが金沢は辱めを受けた彼女に対し、武士の妻として自害するように迫った。すると真砂は笑いだして男たちの自分勝手な言い分を誹り、金沢と多襄丸を殺し合わせる。戦に慣れない2人はへっぴり腰で無様に斬り合い、ようやく多襄丸が金沢を殺すに至ったが、その間に真砂は逃げていた。

3人の告白は見栄のための虚偽であり、(以下略)

羅生門 (1950年の映画) – Wikipedia」より引用

 どうだろうか、この考察。さすが、巨匠黒澤明である。芥川龍之介は他の作品でもそうだが、ハッピーエンドなどない。増してや、芥川はその生い立ちやエピソードを見ればあくまで善人であるが、非常に頭がいいがために「悪」がなんであるかを知っている。人間の中に潜む悪を熟知しているとも言っていい。だからこそ一癖ある小説をいくつも書いた。そう考えれば、悪人であろうとなかろうと、多襄丸も夫婦もそれぞれに人間としての悪の部分を持ち、それが見栄によって表出したというのは、非常に合点がいく。

 私が考察した2.(1)は「3人とも嘘つき」であり、「保身のために嘘をついた」という点では黒澤明の説と共通点がある。しかし、引用部の「武士の妻として自害するように迫った」は、当時の社会的背景をしっかり含んでいるし、「戦に慣れない2人はへっぴり腰で無様に斬り合い」というのはいかにも人間味があって良い。加えて、やはり「嘘は見栄のため」というのは、人間の真相心理を突いている。

 というわけで、とりあえずは黒澤明の説を模範解答とするのが、ちょうどいい。ああ、これでスッキリした!

未だに未解決

 さて、藪の中については、一般人から学者まで、多くの人がこれまでにいろいろな推理をしてきたようです。それでも尚、はっきりした結論は出ていないそうです。結論を出そうとすること自体無意味とか、そもそも結論のない話だとか、あるいは事件そのものに実体が無いなどといったところまで、物語そのものに対してはいろいろな見方があるようです。

 私は推理ものは大の苦手で、ちょっと頑張って見ましたが推理は全く進みませんでした。推理ものが嫌いというより、推理するのが苦手といった方がいいでしょう。ですから、考察でも推理結果を書くのではなく、どうしてこの話はこんなに複雑で厄介なのかについて書こうと思います。推理は苦手でも、分析はまあまあ得意だからです。

作品が難解である理由

 ポイントとなるのは、やはり夫婦と多襄丸、三人の証言についてでしょう。これらを見ていくと、一つの共通点が浮かび上がります。まず大前提として「三人の証言はすべて疑わしい」ということです。しかしながら、誰かが嘘をついているにしても、仮に嘘の証言をするならば、自分に有利な発言をするのが普通です。しかし、「三人の証言はすべて、自分にとって不利な内容である」ということです。

 順番にいくと、多襄丸が一番わかりやすいです。殺人を自白した上に、極刑にしてくれと頼んでいます。わざわざこんな嘘をつく者はいませんから、彼の証言は真実のように思えます。しかし、そうなると夫婦の証言と思い切り矛盾します。

 妻については、三人の中にあって、死んでもいませんし、逮捕もされていません。強姦はされていますが、それでも今後、社会の中で人並みの生活をできる可能性は最も高いのです。そしてなにより、彼女は一番の被害者です。夫を裏切ったり、あるいは殺したとしても、嘘をついて罪を免れることは簡単そうです。しかし彼女は自分にとって最も都合の悪い証言をしています。

 夫についてもそうです。死んだ人間が嘘をつくはずはないと判断したいところですが、まるで全ての罪を自分が被るかのような発言です。どうせ嘘をつくなら恨みを晴らすために、妻に罪をきせてもいいところでしょう。

罪と羞恥心

 改めて考えますと、三人の証言の中の最大の矛盾点は、「三人はすべて自分を犯人としている」のです。繰り返しになりますが、「どうせ嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ!」と言いたくなる内容です。

 もう一つ、この物語を複雑にしているものに、三人の価値観があります。三人の証言を見ると殺人という事実や罪よりも、羞恥心や恨みといった感情を重視しています。多襄丸の証言では、男との格闘シーンに誇張が見てとれます。例えば、実際はもっと汚い方法で殺したのに、「激しい格闘の末に殺した」と、見栄を張っているように思えます。妻についても、羞恥心、あるいは侮蔑といったものに拘りすぎている感があります。夫については、妻が汚れてしまったことにひどくショックを受け、果てには彼女を恨みまでします。

藪の中 – あらすじ

 物語は、ある殺人事件について、検非違使(平安時代の京都で、警察業務を担当していた役人)による関係者への尋問を並べる、と言う形で進んでいきます。

木こりと放免(刑事)の証言

 まずは、死体を発見した木こりの証言です。死体は京都の東、山科の人気のない竹やぶにて、胸を刀で突かれた状態で発見されました。しかし、男のそばには太刀はなく、その代わりに縄が落ちてあり、周囲の草や落ち葉は踏み荒らされていました。これに、前日の昼に殺された男を見かけたという僧の証言が続きます。彼は滋賀県の方から山科へ向かう途中、女とともに馬に乗った男を見ました。男は太刀と共に、弓と20あまりの矢を携えていたそうです。

 次は、放免(検非違使の部下であり、今で言う現場の刑事)の話です。彼は容疑者と思しき盗賊「多襄丸(たじょうまる)」を捕まえました。彼は昨夜8時頃、山科と都の中程、都に入る際の入口となっている粟田口の石橋にて、多襄丸を捕まえました。多襄丸はその時、太刀と弓、それから17本の矢を携えていました。また、彼が無類の女好きであることなども、ここで述べられます。また、被害者と一緒にいた女の母親の証言もあり、馬に乗っていた男女は夫婦で、女の行方は不明となっています。

【目撃者・関係者の証言】
  • 木こり:
    「胸を刺された男の死体。刀は無く縄が落ちていた」@山科の竹藪
  • 僧  :
    「前日の昼、殺された男を見た。馬に女を乗せ、刀と20の弓所持」@滋賀から山科へ向かう途中
  • 刑事 :
    「昨夜8時頃、多襄丸を確保、刀と17の弓所持」@山科と都の中間、栗田口。
  • 被害者の義理の母:
    昨日、娘は夫とともに馬で若狭(福井県)へ向かっていた。男は気立てのいい人間だった。

多襄丸の自白

 さて、次は多襄丸の自白内容となります。彼は男は殺したが、妻は殺していないと言います。彼は昨日の昼過ぎ、山科の駅の近くにて、夫婦を見かけます。そこで彼は、「女を奪おう」と考えます。多襄丸は「古塚から宝が出たので、それを安く売りたい」などと、言葉巧みに夫婦を誘い出し、竹やぶへと連れて行きます。

 馬に乗った妻を藪の前に残し、男と多襄丸は藪に入っていきます。藪の奥にて、多襄丸は不意をついて男に襲いかかり、そのまま木の根本へ縛り付けます。口には竹の葉を押し込め、多襄丸は女のもとへ引き返します。そこで多襄丸は「男が急病を起こした」といって妻を藪の中に引き連れます。そして男が見ている前で、妻を襲います。

 事が終わると、多襄丸は逃げ出します。しかしそこで、女がすがりつきます。二人の男に恥を見られたのは死ぬより辛く「夫か多襄丸か、どちらかに死んでほしい」と言います。そして「生き残った方に連れ添う」と言います。そこで多襄丸は女を妻にしたいと思うと同時に、卑怯な殺し方はしたくないということで、男と斬り合うことにします。長い闘いの末、多襄丸は男の胸を突きます。しかしその間に女は逃げてしまいまいた。多襄丸は太刀と弓矢を奪って藪を出ると、そこには女の馬が残っていたので、それに乗って逃げました。

 これが多襄丸の自白内容です。そして彼は、「自分を極刑にしてくれ」と言います。

【被疑者(多襄丸)の証言】
  • 「男は殺したが女は殺していない」
  •  昨日の昼すぎに夫婦をみかけ、女を奪おうと考え、男を竹藪へ誘い出した。
    ①男を襲い木の根元へ縛る
    ②女を呼び、男の目の前で乱暴
    ③女の言うままに男と戦い、男を刺し殺す
    ④女は逃げた

妻の証言

 今度は妻の証言です。妻の証言には「清水寺に来れる女の懺悔」という題が付けられています。ある寺に逃げ込み、そこで住職に懺悔をしたというところでしょうか。妻は、多襄丸に乱暴された後、夫のそばに走り寄ろうとします。そこで彼女は、夫から蔑むような冷たい目を向けられます。そのショックで彼女は気を失います。目を覚ますと、多襄丸はすでにその場を去っていました。妻はそこで、夫の態度と自らの恥を理由に、共に死のうともちかけます。そして小刀で夫の胸を突き、再び気を失います。目覚める夫は死んでおり、彼女は縄だけほどいてその場を去ります。その後は死ぬに死にきれず、現在に至ったというのが彼女の証言です。

【殺された男の妻の証言】
  • 乱暴された後、夫から侮蔑の眼を向けられ失神。気がつくと多襄丸は姿を消していた。
  • 「共に死のう」と持ち掛け夫を刺殺。その後は縄をほどいてその場を去り、現在に至る。

霊媒師による夫の証言

 最後は、霊媒師の口を借りての男の証言となります。こちらも、妻が乱暴された直後からの話をします。彼は目配せをして妻を慰めようとしますが、妻は何やら多襄丸の話に聞きいっています。目の前で辱めを受けては、夫との中も上手くいくまいと、自分の妻になるようもちかけていたのです。妻は「好きにしてくれ」と言い、果てには「夫を殺してくれ」と頼みます。しかし、妻は不意をついて逃げ出してしまいました。多襄丸は仕方なく、太刀と弓矢を奪ってその場を去ります。残された男は、自ら胸を突きます。薄れゆく意識の中で、何者かが彼の胸から小刀を抜き去るのを見てから、男は息絶えます。

【殺された男の証言(霊媒師による)】
  • 妻は多襄丸の「自分の女になれ」という誘いに乗り、「夫を殺せ」と依頼。しかし、不意をついて逃げ出し、多襄丸もその場を去った。その後自ら胸を刺した。しばらく後、何者かが自分の旨から刀を抜き去った。

おわりに(感想)

 藪の中の推理について、ネット上でもいろいろな人の意見が見られます。その中でも、一般の方のブログの内容と、藪の中をモチーフにした黒澤明監督の映画における推理が、共に内容は違えどしっくり来るものに思えました。結論を知りたいという方、筋の通った推理の幾つかを見たいと言う方は、そちらを参照ください。


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『藪の中』に『羅生門』の話をミックスさせた黒澤明監督の映画

参考文献ほか

参考文献

作品の舞台をGoogleマップで見てみよう

 事件の起こった「山科」、多襄丸が捕まった「粟田口」、そのほか旅法師の証言にある「関山(逢坂山)」などを地図にまとめました。


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