『Who Built the Moon?(フー・ビルト・ザ・ムーン?)』ノエル・ギャラガー[感想,解説,新作]

2018年3月7日

Who Built the Moon?(フー・ビルト・ザ・ムーン?)』(2017)
OASIS時代のメンバー召集!
これまでにないノエルの曲が満載の新境地!

【更新情報】
  • 楽曲解説加筆・追加(2017.11.22)
     これまでのノエルのキャリアで最高傑作と言える出来。必聴。
  • 英BBCでのTVライブ動画等追加(2017.11.19)

 

レビュー・解説・感想

メンバー、プロデューサー、曲調

オアシス時代のメンバーが集結!

 解散前のオアシスのメンバーであるクリス・シャーロック(ドラムス)、ゲム・アーチャー(ギター)がメンバーとしてレコーディングに参加。キーボードを担当するのはオアシス時代からノエル曲作りに参加しているキーボーティスト。

ダンス,サイケ,エレクトロ,ソウルetc…
多彩な楽曲群で新境地に突入!

 そしてアルバムの曲調を決定づけているのはプロデューサーのデヴィッド・ホルムス。U2プライマルスクリームといったイギリス圏の大物アーティストの作品のリミックスを担当し、映画音楽の世界でも数多くの実績を残している(「オーシャンズ」シリーズなど)。テクノエレクトロニック界ではビッグネームのサウンドプロデューサーとあって、ノエルの新作の曲調もそちらに寄っていると予想できる。

本国レーベルのプレス・リリースによると、ベルファストとロンドンで制作された新作本編となる11曲は「フレンチ・サイケデリック・ポップ、クラシック・エレクトロから、ソウル、ロック、ダンスまで、洗練されたアドベンチャー」がサウンドに凝縮されているという。

引用元:ソロ第3弾アルバム『フー・ビルト・ザ・ムーン?』日本先行発売が決定

 これまでのノエル・ギャラガーのサウンドはミドルテンポのスタンダードなロックが多かったが、ダンスやエレクトロといった打ち込みサウンドが楽しめそう。

収録曲紹介

1.Fort Knox

 サイケデリックサウンドにインドやアフリカを連想させる音と女性コーラスが交わり、ノエルの数行の詩のリフレインが遠くで響く。当初はアルバム収録予定がなかったが、アフリカ出身のフランス人ボーカリストを入れることで、アフロビート・アフロファンク的な仕上がりになった。ビック・ビート風のアレンジも光る。ヒップホップミュージシャンであるカニエ・ウェストの「fade」からインスピレーションを受けたとノエルが語っている。

2.Holy Mountain

 ポール・ウェラーがオルガンで参加
ブラスの音と共にスタンダードなロックのリズムが続くが、サビにかけてポップなサウンドへと変化する。全編に渡るスクラッチノイズが懐かしさを感じさせる独特のサウンドを生み出している。ティン・ホイッスルのおどけたサウンドが拍車をかける。

 

3.Keep on Reaching

 こちらもファンク・ソウルの要素を含む楽曲。キレのいいノエルのボーカルは、マーヴィン・ゲイを意識したものとなっている。確かに、やさしく透き通る歌声は似ているところがある。

 

4.It’s a Beautiful World

 ビートルズの「トゥモロー・ネバー・ノウズ」を彷彿とするドラムループを基本に、流れるようなギターフレーズとノエルの歌で前半は展開する。サビではお得意のびやかな声が楽しめる。ケミカルブラザーズとコラボした「レット・フォーエバー・ビー」にも似た、ビッグビート風の曲とも言える。終盤で流れる女性のセリフは、50年代のパリでのコンサートアナウンスが音源。最後は幻想的で幸福感にあふれたサウンドへと変化していく。

「テロリズムや憎しみのある現在の世界を考えると、音楽をもっと世界にもたらすべきだし、そういう曲は喜びを秘めた曲であるべきなんだ。そしてソングライターとして喜びの曲を書くということは物事に屈しないということだ。酷いことや憎しみに直面しても、“美しい世界だ”と言えるというのは、物事に屈しないというメッセージだと思う」

引用元:ノエル・ギャラガー、「世界にもっと音楽を」

「喜びを歌う」というのはアルバム発売前からノエルが繰り返し語る、本作のテーマとも言っていいフレーズ。命と宇宙を感じさせるこの曲は、まさに人類にとってのテーマを語るに相応しい。*

 

5.She Taught Me How to Fly

 60年代70年代のクラシカルなロックを感じさせる、爽やかなナンバー。ライブではローリング・ストーンズのような肩の力を抜いたリラックスナンバーになっている。一方、アルバムでは疾走感あふれるサイケ・ポップにダンス系の雰囲気も混ざる曲になっている。
 ノエルによると、70年代のブロンディというバンドをイメージしたとのこと。*

 

6.Be Careful What You Wish For

7.Black & White Sunshine
8.Interlude (Wednesday Pt. 1)
9.If Love Is the Law
 ジョニー・マーがギターとハーモニカで参加。
10.
The Man Who Built the Moon
11.End Credits (Wednesday Pt. 2)

【世界版ボーナストラック】

12.Dead in the Water(Live at RTÉ 2FM Studios, Dublin)

【日本版ボーナストラック】

13.God Help Us All

初回限定生産盤付属DVDは必見!

1.Who Built The Moon? Track By Track(ノエル・ギャラガーによる全曲解説)
2.Noel Gallagher Discusses The Past And Looks To The Future
(ノエル・ギャラガーがこれまでのキャリアと未来への展望を語る!)

ノエルのインタビュー等

社会批判など無意味。俺は喜びに満ちた歌をつくる。

「ギターでやってる連中にとって、ギターを手に取ってニュースで報じられているようなことを歌うっていうのはすごく簡単なことだと思ってるんだ。そうしたことにすべて意味があるのか分からないね。今日この時代においては、喜びと希望に満ちた歌を書くほうがよほど革命的だと思うね」

引用元:ノエル・ギャラガー、フーファイやグリーン・デイを例に挙げてギター・ミュージックの現状を批判

 社会批判的な歌詞をもったアーティストが増えていることに対して、喜びや希望を歌うことのほうが革命的だと発言。確かにノエルは、これまでそういった歌詞を書いたことは無かった。これはノエルの音楽的嗜好とも関係するだろう。ノエルが好むのは60年代、70年代のクラシカルなロック。当時のアーティストで例えばビートルズならば、日常の些細な出来事を歌った曲が多かった。日常のラブソング、日常のバラード、子供や家族のことを歌った曲、バンドを取り巻く環境を歌った曲、生まれ育った街を歌った曲、知人のアーティストのことを歌った曲、メンバーのことを歌った曲。すべては日常の自分が見聞きした出来事をもとにしており、それは「リアル」である。一方で、社会批判的な歌詞は、はっきり言って自分で見聞きしたことはなく、メディアを通じて間接的に見たものだ。他国の世情を歌う曲だって腐るほどある。それらははっきり言って「リアル」ではない。現実ではあっても。

お馴染みのアーティストいじり

「ギター・ミュージックはどんどん叫ぶものになってきているように思うね。例えば、デイヴ・グロール、彼は何について叫んでるんだ? グリーン・デイは、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジは、何について叫んでるんだよ? 奴らが叫んでるのはニュースだろ。誰がニュースについてなんて歌いたいんだ?」

「ニュースなんて退屈だよ。ドナルド・トランプなんてマジで退屈だしさ。政治なんてつまらないね。北朝鮮のチビで太った奴、あの見た目は笑えるけどさ、でも退屈だな。なんでニュースについての曲なんかを書きたいかね? 喜びと希望に満ちた曲を書くことこそすごく革命的だと思うね。だろ、絶対そっちのほうが革命的だよ」

引用元:同上

 デイブ・クロールはフー・ファイターズのフロントマン。グリーン・デイは昔からノエルがよく批判している相手。グリーン・デイは社会批判をテーマにしたアルバムを発表し、グラミー賞を立て続けに受賞している(『アメリカン・イディオット』『21世紀のブレイクダウン』)。グリーン・デイがアメリカン・イディオットを発表した時は、2001年の同時多発テロからイラク戦争あたりをテーマにし、素晴らしい作品を作った。あそこまでの大事件はメディアを通したものであってもアメリカ国民にとっては「リアル」だった。あくまでわかりやすい相手として、グリーン・デイが挙げられているというわけだ。

 日本でも社会批判的なアーティストは増えてきていると思う。そして、今ではやや食傷気味な感じもする。その時々のニュースを比喩も使わずにモロに歌詞に出して、偽善的な立場から言葉を吐いているのは、正直聞いていてうんざりする。テーマが見えなくなるくらい比喩を使って、批判するというよりも「茶化す」くらいのスタンスがちょうどいいのではないか。そして、社会批判はそれくらいにして、日常のリアルな話を歌った方が、結局は聞いている人に伝わるものがあるのではないか。

賛否両論が”狙い”のアルバム

ノエル・ギャラガーは先日、新作『フー・ビルト・ザ・ムーン?』について賛否両論になることを狙っていたと明かし、「パーカーの猿ども」を喜ばせることについては気にも掛けていないと語っている。

“Holy Mountain”が「ファンを二分している」ことについてマネージメントから知らされたことを明かして、ノエル・ギャラガーは次のように語っている。「言っとくと、それが狙いだったんだ。一方は『こんなのクソだ。“Live Forever”を書いた男であるわけがない』とか言うんだろうけど、もう一方は『これは素晴らしい』っていうね。これまで到達したことがない地点だよね」

 新作に収録の「Holy Mountain」は、これまでのノエルの曲には無かった独特の要素、サイケデリックとポップを混ぜたようなサウンドになっている。ここまでポップなノエルの曲はこれまでに一度も見たことがない。現時点で公式に発表されている曲は2つだが、どちらも新境地を開拓したものとなっている。

 どこまで新しい方向に舵を切っているか、それがアルバムの評価を左右するだろう。中途半端な舵の切り方では誰も満足はできない。一部のファンを置き去りにしてでも、一部のファンを熱狂させるような新たな作品になることを期待したい。

ノエルのアルバムおさらい

ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ』(2011年[1st])
OASIS時代のデッドストックあり、名曲揃いの一枚!!

 2009年のバンド解散後、ソロデビューの一作。アルバムの曲調は中期~後期のオアシスサウンドと考えればいい。中にはオアシス初期を感じさせる曲もあり、クオリティは抜群。バンドで発表していればベスト盤やライブの定番曲になってもおかしくない曲もある。何より強調したいのは、やはりノエルの声が良いということ。ベテランになっても声の伸びは健在で、ソロキャリアを通じてどんどん上手くなっていく。

 ノエルの声は独特なものがあり、彼が歌うだけでその世界観に引き込まれる。このアルバムもまた然り。全体の統一感があり、アルバムを通して彼の世界を存分に楽しむことができる。アコースティックなナンバーも多く落ち着いた曲調がメイン。初めて聞く人への入門版として、ぜひともおすすめしたい。

【収録曲】
  1. Everybody’s on the Run – 5:30
  2. Dream On – 4:29
  3. If I Had a Gun… – 4:09
  4. The Death of You and Me – 3:29
  5. (I Wanna Live in a Dream in My) Record Machine – 4:23
  6. AKA… What a Life! – 4:24
  7. Soldier Boys and Jesus Freaks – 3:22
  8. AKA… Broken Arrow – 3:35
  9. (Stranded On) The Wrong Beach – 4:02
  10. Stop the Clocks – 5:04

チェイシング・イエスタデイ』(2015年[2nd])
バリエーション豊かになった傑作!

 前作はオアシスの雰囲気を残していたということで、今作を本当の「ソロデビュー」と捉えてもいいかもしれない。それにふさわしい充実した内容となっている。より本国イギリスの一癖のある「ブリティッシュ・サウンド」になったと言ってもいい。前作に比べると曲のバリエーションが豊かになっており、これまでに培ってきたサウンドに加えて、新たな世界観を生み出した曲もある。オアシス時代を感じさせる#4,9、前作の雰囲気を踏襲した#5,7、新たなサウンドを見せる#1,6、オアシス初期から温めてきた#4など、曲の背景を見てもこれだけ多種多様である。

 ソロアーティストとしての進化がはっきり見える作品であり、前作と比べるとアルバムのクオリティも向上した傑作だ。自作以降のアルバムに非常に大きな期待を持たせてくれる。

【収録曲】
  1. Riverman – 5:41
  2. In the Heat of the Moment – 3:29
  3. The Girl with X-Ray Eyes – 3:20
  4. Lock All the Doors – 3:41
  5. The Dying of the Light – 5:11
  6. The Right Stuff – 5:27
  7. While the Song Remains the Same – 4:16
  8. The Mexican – 3:46
  9. You Know We Can’t Go Back – 3:46
  10. Ballad of the Mighty I – 5:15