「ヴィヨンの妻」(太宰治)のあらすじ(要約)[考察(解説),感想]

2017年10月23日

遊び人の夫と朗らかでたくましい妻
「斜陽」へつながる後期の作品

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

ヴィヨンの妻 (新潮文庫)

太宰治「ヴィヨンの妻」 – もくじ

  • 太宰治「ヴィヨンの妻」 – あらすじ・要約
  • 太宰治「ヴィヨンの妻」 – 考察(解説)
  • 感想
  • 参考文献

太宰治「ヴィヨンの妻」 – あらすじ・要約

 「ヴィヨンの妻」は、1947年、太宰が38歳の時に発表された、後期~晩年の名作の一つです。太宰は前年、疎開先の地元津軽から三鷹の自宅へ戻り、そこから多くの短編を発表します。

あらすじ

 「ヴィヨンの妻」は、病身で発育の悪い4歳の子と、遊び人の夫を持つ、ある女性の物語です。
 酒飲みの夫は、いつものように夜中になって家に帰ってきます。しかしその日は、珍しく子の体を心配するなど、妙に優しくします。すると間もなく、玄関の方で声がして、客がやってきます。五十代の男と、四十前後の夫婦です。彼らは夫を見るなり、「泥棒」と言い、夫の方は「ゆすりだ」と返します。何やら言い合いをしているうち夫は隙を見て家を飛び出し、どこかに消えてしまいました。

 とりあえず、妻は夫婦を家に入れ、事情を聞くことにします。その初老の夫婦は、中野で小料理屋を経営しています。20年前に田舎から出てきて、細々と店を営み、戦時中の混乱も乗り切り、何とか今に至ると言います。そこに3年前現れたのが、さきほどの夫「大谷」です。彼は初め、料理屋の夫婦と知り合いの、バーの女給と共に店へやって来ます。それから数日後に今度は一人で現れ、いきなり数万を渡し、酒をたくさん飲み、釣りももらわず帰ります。大谷が金を払ったのはそれきりで、そこから3年もの間、金を払わず料理屋で飲み続けてきたと言います。

 大谷は、自分は貴族の生まれであり、日本一の詩人で、学者でもあるなどと言い、それもまんざら嘘でないような口の上手さを持っていました。それでいて、普段は無口で礼儀正しく、人に金を払わせてしまうような人間だと、料理屋の夫婦は言います。戦争が終わってからは、大谷はさらに酒を飲むようになり、口も悪く、喧嘩もし、毎日のように別の女を連れてくるようになりました。そしてこの日、今年も残り僅かという時に、大谷は料理屋に上がりこみ、仕入れのために置いてあった大金を盗んでいったのです。

 実際、大谷は詩人でありましたが、酒飲みで遊んでばかりいて、4日に一度くらいしか家に帰ってこないようなありさまです。当然、家には金が入って来ず、夫婦は出版社の人に生活費を助けてもらうような生活をしていました。

*

 妻はとりあえずその日は話をつけ、翌日、子を連れて料理屋に行きます。妻は金の都合ができたと嘘をついて、料理屋で手伝いを始めたのでした。その日はクリスマスイブとあって、店はお客で賑わいます。九時頃になって、帽子を目深にかぶった夫が、女を連れて店にやってきます。話を聞くと、夫は昨晩、金を持ちだして知り合いの家に泊まり、そのままなじみの京橋のバーへ行き、バーの女の子や知り合いを相手にプレゼントをあげパーティーを始めたのだそうです。バーのママが不審がって話を聞き、今こうして夫の代わりに金を立て替えにやってきたのです。

 何はともあれ一件落着。妻はそれから、残りの金を返すべく、料理屋で働くことにします。夫も時折店に寄り、閉店までいて一緒に帰るようになります。どうしようもない遊び人の夫をもちながらも、妻はこれはこれで毎日を楽しんでいました。そんなある日、店にやってきた大谷のファンだという若い男が、ひょんなことから家に泊まることになり、そのまま一夜を共にします。

 翌朝、妻が店へ出ると、夫が店の中で酒を飲みつつ、新聞を読んでいました。そして夫は、あの晩の出来事について言い訳をするようにして、「子供のためにパーティを開くつもりだった」と言います。そんな夫に対して、妻はただ一言「私たちは、生きていさえすればいいのよ」と言うのでした。

考察(解説)

  タイトルの「ヴィヨン」とは、15世紀のフランスの詩人、フランソワ・ヴィヨンからきています。作中に登場する詩人「大谷」と同じく、無法者で放蕩の人生を送った詩人だそうです。
 作品が書かれた当時は、戦後間もない混乱の時代とあって、それが物語に反映されています。作中に登場する料理屋も、戦前から店を始め、戦中の酒の不足した時代から戦後は闇の酒屋として経営しています。戦中に多くの店が閉店する中、この店は運良く溜め込んでいた酒があり、知り合いのバーから金持ちの客を紹介されるなどして、何とか生き延びたのです。

 そんな時代にあって、子持ちでありながら酒飲みで女遊びの詩人大谷の存在は際立ちます。そしてそれ以上に、そんな夫をもちながら明るくたくましく生きる妻が目立ちます。太宰は女性を主人公にした作品を多く書いていますが、共通するのは「強い女性」を描いていることです。

 この作品でも、あらすじだけ見れば不幸な女性に見えますが、実際に作品を読んでみると暗い雰囲気はほとんどありません。夫の女遊びも酒飲みも気にせず、金を返すために料理屋で働き、最期は行きずりの男と一夜限りの関係をもってしまうあたりなど、妻のたくましさがよく表れています。

 そして何より、妻が最後に言う「私たちは、生きていさえすればいいのよ」というセリフが、この作品の全てを表していると言っていいでしょう。

おわりに(感想)

 感想としましては、この作品は同じ年に発表される太宰の最大のヒット作「斜陽」に通じるところがあります。斜陽も舞台は同じく戦後の日本であり、貴族の息子と、作家との子をもつ女性が登場します。

 詳しくは斜陽を実際に読んで欲しいですが、斜陽の主人公である「かず子」が、この作品に登場する大谷の妻とよく似ています。いずれにしても、太宰の晩年の作品は、作家として成熟した傑作ぞろいだと思います。

 

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参考文献

太宰治

Posted by hirofumi