北野映画の全てがここにある!『その男、凶暴につき』北野武 – あらすじ[解説,考察,感想]

2018年3月7日

後の名作『HANA-BI』へとながる、記念すべきデビュー作!


その男、凶暴につき [ ビートたけし ]

  • 1989年8月12日公開(北野武監督1作目)
  • 監督:北野武、脚本:野沢尚
  • 出演者:ビートたけし、白竜、川上麻衣子
  • 音楽:久米大作
  • 当初は深作欣二監督、ビートたけし主演、野沢尚脚本という予定のところ、紆余曲折あって自らメガホンを取ることになり、監督デビューを果たした。

北野武監督まとめ

あらすじ・ストーリー

凶暴な刑事と数少ない理解者たち

 刑事の我妻(ビートたけし)は、捜査のためには暴力も辞さない人物であり、凶暴な一面をもっている。そんな彼には精神病を患う妹(川上麻衣子)と、数少ない理解者である同僚の岩城(平泉成)がいた。ある日、警察署管内で麻薬の密売人が殺され、走査線上に実業家の仁藤(岸部一徳)と殺し屋の清弘(白竜)が上がった。しかし、その一方で、ある人物が彼らに麻薬を横流ししていたことが明らかになる。それは、我妻と公私共に親しい岩城であった。

二人の異常者が野に放たれる

 事実を知った我妻は岩城と話をするも、その直後に口封じのために麻薬組織に殺されてしまう。我妻は清弘をでっちあげの罪で拘留し、署内で暴行を加えて岩城を殺した事実を吐かせようとする。清弘の一言で逆上した我妻は拳銃を取り出すも、すんでのところで署員に止められる。清弘は釈放されるも、我妻に強い憎しみと恐怖を覚え、我妻は警察をクビになる。

 岩城を殺された悲しみと怒りを抱えつつ、我妻はパチンコや美術館、映画館などをフラフラする日々を送るが、ある夜に清弘にナイフで襲われる。すんでのところでその手から逃れた我妻。仁藤は清弘の暴走に愛想を尽かしてクビにするも、直後に我妻によって銃殺される。

すべてを失った男の決着

 いよいよ二人だけの戦いになった我妻と清弘。そんな中、清弘の手下たちが我妻の妹に乱暴を加えてしまう。もう後戻りのできないところまできた清弘は、銃撃戦を覚悟し我妻を迎え撃つ。失う者のない我妻は、清弘を銃殺するも、目の前には薬漬けにされた妹。我妻は悲しい顔をすることもなく、無表情で妹を撃つのだった。

解説,考察,感想

 初監督作品ながらその完成度が高く、後の北野映画の原型とも言えるのが「その男、凶暴につき」です。セリフの少なさ、突発的な暴力、予定調和のないリアルな描写など、北野映画の特徴がしっかり出ています。また、主人公は警官ですがヤクザが登場するということで、北野映画の代名詞である「ヤクザもの」でもあります。

 さらに、ヴェネチア国際映画祭でグランプリを受賞する「HANA-BI」との共通点が非常に多いです。警官が主人公で、病気の女がいて、大切な同僚を失い、個人的な事情から辞職し、ヤクザと殺し合いをする。このように、「HANA-BI」の原型とも言える作品でもあります。

 個人的には、初めて見た北野映画ということで、強く印象に残っています。これまで何度も見てきましたが、無駄な説明が無く、テンポよく進んでいくストーリーは、いつ見ても新鮮です。

北野武監督のインタビューから見る『その男、凶暴につき』
(解説・撮影秘話・映画論)

引用元:「物語」(北野武)より

撮影のきっかけについて

「その男、凶暴につき」は、俺じゃなくて、野沢尚さんの脚本なんだよね。最初は深作(欣二)さんが監督で、俺が主演ってことで始まったんだけど、深作さんが俺のスケジュールと合わなくて、結局、俺が監督やることになって。すると、「この台本じゃ、俺、やる気ない」って。それで、刑事(ビートたけし)が主人公で、「その男、凶暴につき」というタイトルだ、ってとこ以外はどう変えてもいい、ってことになったのよ。

引用元:「物語」(北野武)より

  この話は有名で、元となった脚本はあるものの、北野監督が完成させた映画はほぼ別の話になっています。脚本家の方は後にその不満を漏らすなどしています(脚本家は元のストーリーを小説として出版⇒『烈火の月』)。

 偶然から映画監督の道に進んだたけしさん。結果的にこれが「世界の北野」を生むのですから、人生というものはわからないものです。

ストーリーのつくり方について

  • まず、ハッピーエンドには、絶対ならないっていう。それで、暴力使う奴は死ぬ、っていう設定だから。だから、主人公は殺されるか、死ぬか。で、不幸な女がいる、っていう。まあ3人いるじゃない、キャスティングが。それが前提で、じゃあストーリーをどうしようって、新聞の4コマ漫画みたいに考えるの。そうすると、妹も本人も死ぬってのは、起承転結の「結」になるじゃない? で、その4コマ漫画の題材が刑事ものってなると、刑事、悪い奴、ひっくり返った、死んだって、って作るだけだよね。
  • 話をおもしろくしようってことは、考えなかったね。刑事の主人公が、ああいうマヌケな死に方で死んでいくなんてのは、日本の映画としては新しいだろ、っていうようなのはあったけど。途中の、便所でボコボコ殴るシーンとか、ああいうのは絶対おもしろいと思ってた。おもしろいっていうか、今までにない撮り方だろうなあって。
  • しゃべんなくていい、っていうのが、映画の基本だと思うんだよね。(中略)普通の映画で、セリフ多いのあるでしょ? あれは映像が悪いんだよ、と思うしね。

引用元:「物語」(北野武)より

 ここで語られている手法は、北野映画の基本ともなることばかり。一作目でその多くを使用し、映画として一定の評価を受けたのだからすごい。

 北野監督の手法として「セリフが少ない」「無駄な描写はしない」「加減のない暴力」といったものがあります。これは芸人時代にネタの中でよく話していたことと関係します。映画は不自然なセリフが多かったり、予定調和のストーリーになっている。また、アクション映画でも主人公だけ絶対に死なないという点や、暴力がリアルじゃないと語っていました。そういった、映画の素人から感じていたものを活かし、非常にリアルな映画を完成させたという背景があるのです。

イントロとラストの橋のシーンについて

  • たとえば、「その男、凶暴につき」の、最初の1枚の写真は……あれは、タイコ橋のシーンだよね。丸い木の橋。あれを上ってきて、頭からだんだん見えて、2回目は違う奴が上がってくるっていう、あの画かな。(中略)イントロがあって、あそこを我妻が歩いてくると。で、最後に我妻の部下の奴があそこを歩いてくる、っていうのは、サンドイッチみたいに、最初と最期をこれではさんじゃおう、って
  • あそこはね、かなり象徴的なのよ。タイコ橋に上がってきて、頭がちょっと見えてきて、全体が見える、っていう。それで今度は、横歩きになる。で、顔が見えなくて、首から下だけになる、とかね。

引用元:「物語」(北野武)より

 本作ではまた、当たり前のシーンを一風変わった角度から撮影する場面が多いです。ここで紹介されている冒頭のシーンも、何気なく見れば気がつかないのですが、言われてみると特殊な映像になっています。

 こういった映像の構図に工夫を凝らす手法は、北野監督の得意とするところです。本作ではまだ荒削りなところもありますが、中期の作品では見事な表現として結実していきます。

まとめ

 ここまで説明したとおり、本作は北野映画を語る上でも欠かせない要素が満載です。とりわけ、デビュー作にして北野映画の基本となる手法が多く確立され、その後のキャリアへつながる要素が多いです。作品自体も、後の『HANA-BI』の基本形にもなっています。インパクトが強く非常に面白い作品なので、是非ともおすすめしたいです!


烈火の月

※野沢尚作。映画の元となった脚本の小説化。