月見呟(8)「月見が惚れた男」

「スター性はお金じゃ買えない」

SHINJO [DVD]

 

 世の中にはお金じゃ買えないものがたくさんある。お金で買えるものはもっとたくさんある。

 お金で買えないものの中でも、お金でも努力でもどうにもできないものに、スター性がある。スター性は両親から受け継いだ遺伝子と、生まれ育った環境と、出会った人が大きく関わってくる。これは後から変えようと思ってもどうにもならない。意識して得ようとしても限界がある。

 スター性の要素は、サービス精神、発想力、自信、容姿、表現力などなど。これらをすべて兼ね備えていなければならない。そして、スターというからには特定の分野での実力と実績が必要だ。これがないとただのムードメーカーかお調子者で終わってしまう。

 そういうわけで、スター性と愛はお金じゃ買えないのだ。

 

 

コンピューターの申し子

「月見 呟(つきみ つぶやき)」

月見呟は、調理法から飲食店経営に至るまで、数々の革命を起こした料理人・経営者である。

料理に関する幅広い技術・知識・経験を生かして数多くの人材育成をし、世に数多くの名料理人を輩出したことでも知られる。

40代で料理人として一線から身を引き、様々な形で食に携わった後、50代で経営者・人材育成の道へと進む。そこで数多くの食材、人材、店舗の再生・復活を成功させ、後に月見再生工場と呼ばれるようになる。

経営者としての集大成は、日本有数のフードサービス・IT企業「コケックス」。その始まりは小さな弁当屋だった。元事務員で後に右腕となる昔田、元運転手で後に人事部長となる飯口など優れた人材を発掘し、事業を拡大していく。

 

 弁当屋のおばあさんとの出会いから約5年。月見は、実業家になって初めて失敗をした。思えば、この時期は月見にとって不遇の時代だったと言える。事業の軸となっていたフードサービスは安定していたものの、目標としていたほどの成長は果たせずにいた。加えて、彼が発掘した人材の中には、転職や独立をするものも出てきた。特に目をかけてきた昔田と飯口も例外ではなかった。飯口は料理人としての独立を真剣に考えていたし、昔田はどこに行っても活躍できる優秀な人間だったため、彼を引き抜こうと考える企業も少なくなかった。

 

 そんな中、月見はある若者と出会う。新城という、昔田と同い年、30歳を目前に控えた働き盛りの男だった。かつて新宿の有名ホスト店でナンバーワンに君臨し、その後インターネット・金融事業を行う企業を設立し短期間で成功するも、脱税で逮捕。2年の服役を終えたばかりという、異色の経歴の持ち主だ。

 

 彼の生い立ちを見ていくと、子供時代は何でも分解するという、少々変わった子供だった。特に、粗大ゴミ置き場から不要になった電化製品を拾い、分解するというのがお気に入り。その過程で、彼は様々な電化製品の構造を理解し、自宅の電化製品が故障するとすぐさま修理するという特技を身につけた。親はそれを見て、将来は機械系の技術職にでもつくのだろうと思っていた。ところが、ある日拾ったパソコンによって、彼の新たな能力が開花したのだ。

 

 その時拾ったのは、画面の壊れたパソコンだった。さっそく分解を始めた少年時代の新城は、こともあろうに、カバーを外した状態でパソコンを起動。指で微細な電気信号を感じつつ、キーボードのあらゆるボタンを連打。それを毎日数時間続けることで、電気信号を通じて、物理的にパソコンのシステムを理解した。

 

 彼の言うことに親は半信半疑だった。ある日、少年新城は「ホームページをつくった」と言いだした。どんなページか聞くと、彼は画用紙にトップページを描いて見せた。そこで、親はモニターを購入しパソコンと接続。すると、画面には彼が描いたトップページがしっかり表示されたのだ。これに両親は肝を冷やし、そのままモニターを与えた。それ以降、少年新庄は通常の方法でパソコンを利用。彼の特殊能力が表沙汰になることはなかった。

 

 後にインターネット関連の企業を立ち上げた際、彼が語った面白い言葉がある。

「パソコンを単なるメディアとして利用するのが文系でしょ。そんで、パソコンのプログラムを組むのが理系。じゃあ、肌で感じる僕はなんだろうって考えたら……体育会系じゃない? 」

 

  幼少期の彼はまた、時代を先取りする才覚も持っていた。小学生時代、放送部員だった彼は、お小遣いが欲しくなると全校に向けて欲しいものと値段、その理由を理路整然と述べたという。そうやって、1人10円ずつのカンパを求めた。これは最初期のクラウドファンディングだと言われている。また、仲のいい友達にやたらと「いいね」と言う癖があり、暇があれば隣の女の子の耳元で短文をつぶやき、テンションが上がると「ヤフーヤフー」と叫んでいたという。

 

 まったく、末恐ろしい少年である。

 

続く

今日の格言

「憎まれっ子世にはばかる」