『Sticky Fingers(スティッキー・フィンガーズ)』ローリングストーンズ – レビュー[解説感想,評価,名曲]

2017年11月30日

『Sticky Fingers(スティッキー・フィンガーズ)』(1971年)文句なしのキャリア最高傑作!
★★★最高傑作★★★

スティッキー・フィンガーズ

『Sticky Fingers(スティッキー・フィンガーズ)』 – もくじ

  • アルバムレビュー・解説感想
    • ギターリフを全面に押し出した作品
      ルーツ・ミュージックを独自解釈
    • ローリングストーンズ新体制
    • ミックテイラーの多大な貢献
    • ソングライター3人体制
    • 収録曲/名曲を動画で試聴
  • 各曲解説・感想
    1. ブラウン・シュガー
    2. スウェイ
    3. ワイルド・ホース
    4. Can’t You Hear Me Knocking
    5. ユー・ガッタ・ムーブ
    6. Bitch
    7. I Got the Blues
    8. シスター・モーフィン
    9. Dead Flowers
    10. Moonlight Mile

アルバムレビュー・解説感想

ギターリフを全面に押し出した作品
ルーツ・ミュージックを独自解釈

 本作ではギターの音がでかくなり、ギターリフの多用が顕著である。このアルバム以降、キースはオープンチューニングでのギターリフで展開する、独特の演奏法を手に入れている。とりわけ印象的なのは#1,4,6など。#4「Can’t You Hear Me Knocking」はカリブ海のレゲエにも通じるような独特のリズム、#6「Bitch」はファンクのリズムを取り入れた曲だが、どちらもギターリフを協調することでストーンズの音に変わっている。取り入れる音楽は濃いのだが、それに負けない個性を持ったというのが、前作との大きな違いかもしれない。

 一方で、お得意のブルース#5「ユー・ガッタ・ムーブ」#7「I Got the Blues」やグラム・パーソンズの影響が見られるカントリーの#3「ワイルド・ホース」#9「Dead Flowers」もしっかり入っている。特に黒人霊歌のカバーである#5は、ストーンズのセンスが光る。アルバム中で一つだけ選べと言われると、これを選んでもいいくらい。

ローリングストーンズ新体制
アメリカ南部のルーツへの傾倒

 本作制作にあたって、ストーンズの周辺でいろいろな動きがあった。

 音楽的には「ベガーズ・バンケット」「レット・イット・ブリード」の2作でバンドのルーツを再確認し、音楽性を深めていったストーンズ。とりわけアメリカ南部の音楽、ゴスペルサザンソウルファンクカントリーといったものが曲に取り入れられた。そこには数々のアーティストからの影響がある。

参考:『ザ・ローリング・ストーンズ ライナー・ノーツ』寺田正典(2014)株式会社ミュージック・マガジン,pp10-11

ミックテイラーの多大な貢献

 忘れてはなわないのは、ミックテイラーの存在だ。クレジットはされていないものの、曲作りにも多大な貢献を見せ、随所でそのテクニックを披露している。#2「スウェイ(Sway)」#10「Moonlight Mile」などいい意味でストーンズぽくない楽曲はミック・テイラーが曲作りに大きく関わっている。また、同じく#2と#4では曲の後半で素晴らしいギターソロを見せている。#4ではネチネチとした独特のリズムを生み出し、後半部分でボビー・キーズのサックスとのジャムを3分にも渡って披露。レコーディング中のジャムが素晴らしいということで採用されたというほど。

 ちょうどボビー・キーズのは話が出たが、彼のサックスプレイも見どころの一つだ。楽曲をゴージャスに演出し、アルバム全編に渡って美味しいところを持っていっている。#6ではサックスによるリフで曲を引っ張り、ギターと渾然一体となって雪崩れるように曲が終わる。

 その他、キースとのギターの掛け合いは#9「Dead Flowers」で思う存分楽しめる。#10では独特のトーンと東洋風のメロディーで曲の雰囲気作りに大いに貢献している。

ソングライター3人体制

 ストーンズのメインソングライターはキースとミック(ジャガー)だが、テイラーの加入で実情は3人体制とも言っていい状況だったと思う。このアルバムでも少なくとも2曲(#2,10)はテイラー作と言ってもいいし、その他の曲でもクレジットしていいほどの貢献をしている。

 かつてブライアンがリーダーとして君臨していた最初期のストーンズ時代か、あるいはそれ以上に第三のメンバーの力が大きくなっている。ブライアンは作曲にはほとんど貢献しなかったのを見ても、それは言えるだろう。そういうわけで、アルバムは非常に中身の濃い内容となっている。最高傑作と呼ばれるのも納得だ。

 今作の前後を見ても、3人がこれほど力を出し切っているアルバムは無い。自作はキース主導だし、それ以降はキースとミックの対立が激しくなってそれどころではない。しかし、傍らにはテイラーがいて、いつも二人のどちらかの曲作りに貢献していく。こうしてみると、70年代のストーンズをある意味支えたのがテイラーとわかる。望むことならあともう一作だけ、3人がフルに力を出し切った作品を見たかったものだ。とんでもない傑作になっていただろう。

収録曲/名曲を動画で試聴

【収録曲】
  1. ブラウン・シュガー(Brown Sugar)
  2. スウェイ(Sway)
    ファンの間で人気の名曲
  3. ワイルド・ホース (Wild Horses)
  4. Can’t You Hear Me Knocking
    終盤でミックテイラーとサックスのジャムセッションが楽しめる。
  5. ユー・ガッタ・ムーブ(You Gotta Move)
    黒人霊歌をもとにしたフレッド・マクドウェル録音バージョンのカバー。エアロスミスなどもカバーしている作品。
  6. Bitch
  7. I Got the Blues
  8. シスター・モーフィン (Sister Morphine)
  9. Dead Flowers
  10. Moonlight Mile
【おすすめ曲・Youtube検索】

各曲解説・感想

1.ブラウン・シュガー(Brown Sugar)

 アルバムの顔とも言える、キースのギターリフから始まるシングル曲。楽曲中盤でのサックスも非常に良いアクセントとなっている。以降のストーンズのライブでの定番曲となる。この楽曲にも見られるように、ギターリフの繰り返しで展開する楽曲は、今後のストーンズのいわば「十八番」となる。この傾向は21世紀の現在まで続く。そういった意味合いも含めて、この時代のストーンズは自らのスタイルを確立したと言って良い。

2.スウェイ(Sway)

 ストーンズファンの間で人気があり、ライブでも度々演奏される。ミック・テイラーのリラックスした演奏が曲の雰囲気づくりに貢献している。そもそも、この曲はテイラー作と言ってもいいほどの貢献度だったが、クレジットはされていない。アルバムでは彼の貢献度が高い曲がいくつかあり、これまでのストーンズにはない曲調を提示する。それによって、アルバムのバリエーションを豊かにしている。

3.ワイルド・ホース (Wild Horses)

 カントリー調の静かなバラードは、グラム・パーソンズの影響が色濃い。彼のカバーバージョンもあるほどだ。キースの12弦ギターの豊かな音色が寂しくも柔らかい印象を曲に与えている。

 一方で歌詞は、ミック・ジャガーと本作の前後で別れた恋人のマリアンヌ・フェイスフル、キースとその恋人アニタ・パレンバーグの影響があると言われている。歌詞を見ると別離の歌だが、「野生の馬は俺を引っ張っていけなかった」とわけのわからんフレーズが繰り返される。世間のイメージとは違って奔放な女性であったマリアンヌなのか、はたまた自他共認める自由な女性アニタだったのか。当時アニタとキースはドラックにどっぷり浸かっていたが、まだ問題は表面化していなかった。マリアンヌは本作#8について後に訴訟問題で揉めることになる。この辺の話が関係してくると思うのだが、歌詞についてはなかなか理解が難しいところである。

4.Can’t You Hear Me Knocking

 印象的なギターリフに、ミック・テイラーのネチネチとしたリズムが絡まり、アメリカ南部~カリブ海の独特のリズムを表現している。楽曲はそのまま終わるのかと思いきや、後半で民族的なリズム(トンガ)が加わり、ボビー・キーズのサックスソロが1分にも渡って続く。そして終盤にはミック・テイラーのソロだ。このソロは必見であり、楽曲を初めと終わりで全く別物に変身させている。これまでのストーンズにはなかった流麗なフレーズが響き渡り、新たな時代の到来を強烈に印象づけている。

 本作はジャムセッションの中で生まれた曲であり、そこでテイラーが素晴らしいプレイを披露し、それをそのままレコーディングに採用したとのこと。結果的に曲は7分を超える大作となり、対極的な次曲を目立たせる効果も果たしている。

5.ユー・ガッタ・ムーブ(You Gotta Move)

 本作で最もクールな楽曲は、間違いなくこれである。黒人霊歌のカバーというのもすごいが、完全にストーンズのものにし、全く古さを感じさせない。こんなカバーができるのがストーンズの良いところだろう。キースとテイラーのスライド・ギターも加わり、カントリーやブルースの泥臭さをこれ以上なく表現している。

6.Bitch

 ギターリフにサックスの掛け合いというのが、本作のカラーと言ってもいい。この曲でもボビー・キーズが大活躍し、印象的なリフを奏でている。キースはリードギターを担当し、終盤でギターソロを披露している。テイラーとの比較にもってこいだ。キースのプレイはギラついていて泥臭く、この曲には合っていたのかもしれない。しかし、やはり本作ではギターソロに関してはテイラーのプレイに期待してしまう。この曲も#4のようにすることもできただろう。

7.I Got the Blues

 サザン・ソウルを感じさせるバラードナンバー。ジム・プライスのトランペットが前半で非常にいい響きを奏でる。ビリー・プレストンのハモンド・オルガンが後半から加わり、これでもう役者は揃ったといったところだ。オーソドックスなバラードを名プレイヤー達が盛り上げる。なんとも贅沢な一曲である。

8.シスター・モーフィン (Sister Morphine)

 モルヒネ中毒者について歌ったいわくつきの曲。マリアンヌ・フェイスフルと揉めることになり、それも楽曲にプラスに働いたと言っていい。ライ・クーダーのボトルネックギターが奇妙な響きを見せ(参考:『ザ・ローリング・ストーンズ ライナー・ノーツ』寺田正典(2014)株式会社ミュージック・マガジン,p.15)、楽曲に謎めいた印象を与えている。

9.Dead Flowers

 前の曲とは打って変わって、明るい曲調だが、歌詞はそうでもない。

Take me down little Susie, take me down
I know you think you’re the queen of the underground
And you can send me dead flowers every morning
Send me dead flowers by the mail
Send me dead flowers to my wedding

連れっててくれスージー
お前が地下の女王だって知ってるんだ
枯れた花を毎朝送ってくれ
郵送で頼む
結婚式にも頼む

Ah, I’ll be in my basement room with a needle and a spoon

俺は針とスプーンを持って地下室へいくよ

 ご覧の通り、なんとも怪しい歌詞である。「針とスプーンを持って地下室」と聞けば、それが何を意味するかわかる。

 カントリータッチの、キースとテイラーのギターの掛け合いが心地よいのだが、どうしてこんな歌詞なのか。そしてこの曲は多くのアーティストにカバーされる。確かに、この美しい音色に怖い歌詞を乗せれば、誰もが放っとくわけにはいかないか。

10.Moonlight Mile

 静かなアコースティックギターから始まる曲は、後半に大いに盛り上がりを見せ壮大な曲へと代わる。ラストに相応しい曲だ。ミック(ジャガー)の堅実なリズム・ギターで曲は展開し、間もなくテイラーの印象的なトーンのギターが加わる。テイラーが作曲に大きく貢献したが、クレジットはなし。

 キースがより東洋風なフレーズをもつ原型となる曲を書き、それをミック主導でテイラーに即興でアレンジをさせた(Moonlight Mile – Wikipedia(en))、とのこと。原曲とはかなり変わっているようで、テイラーの特異な即興性によって書かれたとなれば、他のバンドならテイラー作になっているだろう。やはり、このアルバムにおいてはテイラーがポイントとなっているのがわかる。