「斜陽」(太宰治)のあらすじ(要約)[考察(解説),感想]

2017年10月23日

 

戦後に没落していく貴族を描く
ベストセラーとなった太宰治の代表作!

斜陽 (新潮文庫)

斜陽

もくじ

  • 太宰治「斜陽」 – あらすじ・要約
  • 太宰治「斜陽」 – 考察(解説)
    • 日本版「桜の園」
    • 戦後の貴族の没落
    • 立場の逆転による人格の表出
  • 参考文献

太宰治「斜陽」 – あらすじ・要約

 『斜陽』は太宰の晩年の作品の一つです。1945年に東京空襲があり、7月に実家の津軽へ疎開。翌年11月に自宅のある三鷹へ戻り、その翌年に完成・発表された作品です。太宰は当時で38歳、翌年には『人間失格』を発表し、遺作となる『グッド・バイ』の草稿を残したまま、6月13日に玉川上水にて入水自殺します。

 発表された年月からすると、人間失格のような自省的で暗い作品をイメージするかもしれません。しかし、『斜陽』は決して明るい作品ではないにせよ、才能あふれる作品で、まさか翌年に自殺をするとは思えないほどの、傑作となっています。

あらすじ

 主人公は貴族の家の、29歳の娘「かず子」です。かず子は母と二人、伊豆の山荘で暮らしています。以前は東京の西片町に住んでいましたが、終戦直後の混乱を受け、その年の12月に自宅を引き払い、伊豆へと移ってきたのです。現在はそこで初めての春を迎えています。

 それ以前の一家については、10年前に父が亡くなって以来、叔父の支援を受けて生活していました。その間、かず子は6年前に離婚、時を同じくして、当時学生だった弟は麻薬中毒になって借金をつくり、その後戦地においてもアヘン中毒になり、いまは消息不明となっています。

 父が残した資産も底を突き、徐々に生活が困窮していく中、かず子と母は、編み物と読書、そしてたまの畑仕事をしながら暮らしています。そしてかず子は、以前の生活を思い出しては、現在の自分をみじめで落ちぶれていると嘆きます。

 そんな中、叔父から連絡があり、弟の生存を知らされます。それと共に、これ以上の支援は苦しいとの旨を伝えられます。戦後の財政難の影響から、預金の封鎖に加えて、高率の財産税などが貴族に科せられるようになったのです。そしてかず子は、叔父から、皇族の屋敷での女中の仕事を勧められます。しかし彼女はそれを拒否します。その後、母とのひと悶着があった末、こんなに苦しい思いをするくらいなら、着物をどんどん売って思い切り贅沢をしようと決めます。

 一方、戦地から帰った弟の直治は、アヘン中毒からは脱していたものの、酒飲みになっていました。そして、帰ってくるなり母からお金をもらい、学生時代に知り合った小説家の上原を訪ねて、東京へ行ってしまいます。

 上原については、かず子はかつて、一度だけ会ったことがあります。そして、成り行きから上原とキスをしました。当時、かず子はすでに結婚しており、元々良好でなかった夫婦仲もあって、上原との一件がきっかけで離婚したのです。そんな上原に、かず子は恋文を書き、「金が欲しいのでも、小説家の妻になりたいのでもなく、ただあなたの子供が欲しい」と伝えます。

 その後、夏の間に、かず子は三通の手紙を送りますが、返事は返ってきません。そして直治は相変わらず、金を持っては東京に行き、酒を飲んでばかりいます。そんな中、秋が近づくころに母が結核にかかり、そのまま死んでしまいます。

 葬儀が終わると、かず子は上原に会うために上京します。しかし、6年ぶりに会った上原の風貌は以前とは全く別であり、容姿は大きく乱れていました。上原は金持ち連中と派手に飲んでおり、直治のことも話題に上がっていました。貴族出身である一方、生活力が無く、遊んでばかりの直治を、金持ちの連中は馬鹿にしていました。

 上原はまた、容姿だけでなく、心も乱れてしまっており、金はあっても仕事への情熱は失っていました。そんな上原を前に、かず子の恋心はすっかり冷めてしまいました。しかし、行くあてもない彼女は、屈辱を感じながらも、上原と一夜を共にします。そんな中、ちょうどその翌日の朝に、直治は自宅で自殺してしまいます。

考察(解説)

日本版「桜の園」

  この作品は、ロシアのチェーホフという作家の「桜の園」という作品をモチーフにしたそうです。日本版の『桜の園』と呼ばれることもあります。 また、この作品に限った話ではないですが、作品のエピソードや登場人物などは、太宰の私生活とリンクしています。特に、かず子は太宰の愛人であった「太田静子」がモデルとなっています。

 かず子と静子の共通点を挙げればきりがありません。例えば名家の生まれであり、子が生まれて間もなく死んだことや、バツイチであること。加えて、当時すでに妻子持ちであった作家である太宰と恋仲にあり、彼の子を授かります。そして、作中の日記、あるいは手紙は、静子が送ったものや、あるいは太宰が依頼して書かせたものがほとんどそのまま登場しています。

 その他にも、当時の時代背景がそのまま作中で描かれています。作品が発表されたのは1947年の12月ですが、当時は戦後の混乱期にありました。特に身分制度に注目すると、1945年8月の終戦後、翌年に預金封鎖や財産税が課され、さらに翌年には、日本国憲法の制定とともに、華族(貴族)は廃止されます。作中では、終戦の翌年の春から物語が始まり、かず子の叔父からの支援が無くなり、翌年の貴族の廃止に至るまでの、貴族たちの没落の様子が描かれています。

戦後の貴族の没落

 この作品は当時の時代背景がポイントとなってきます。

 戦争を境にした、当時の日本の時代背景について見ていきましょう。戦前および戦時中は、天皇を中心に考え、国のために尽くすという思想がありました。そして、皇族-華族-士族という身分制度がありました。 その一方で、戦時中から社会主義思想が存在し、戦後になって権力や大組織への反発として勢力を拡大していきます。また、敗戦後には、アメリカの占領下に置かれ、今度は資本主義や民主主義が流入してきます。 しかし、敗戦後に半ば強制的に別の思想を取り入れることとなり、日本は混乱状態にあったと言います。そんな中、民主主義のために身分制度は解体され、財政難から貴族は財産を奪われます。

 そんな中にあって、主人公の一家も、時代の流れに翻弄されます。ただ、一つ特徴的なのは、かず子や母をはじめ、貴族でありながら貴族らしくないです。人間の肩書とその内面、人格的な部分は必ずしも一致しない、さらに言えば裏腹だということが、物語を通して描かれています。小説家の上原にしても、小説家でありながら、出身は田舎の農家となっています。

 そして、戦後の社会の大転換の中で、かず子たちは金を失い、上原は裕福になっていきます。ただ、生活が苦しくなっていく中で、かず子たちはむしろ、その貴族としてのプライドをより強くしていくように見えます。その一方で上原は、芸術への情熱を失ったような発言をしています。

立場の逆転による人格の表出

 もともと肩書きと人格とが裏腹であった登場人物たちは、戦争を経て、立場を逆転させます。それも、肩書きと人格とを裏腹なままに、転換していくのです。そのために、登場人物たちの本質的な部分が見えてくるのです。

 日本という国もまた、戦時中は理想主義のままに無理な戦いを続けて大敗し、戦後には表面的ながらも民主主義、あるいは現実主義というものを受け入れて、国を立て直そうとします。  いずれにしても、肩書きと人格・内面、理想と現実という対比が作中に何度も登場します。これがこの作品の中心的なテーマではないでしょうか。

斜陽 -まんがで読破-

参考文献

太宰治

Posted by hirofumi