『世間はやかん』(立川談志)のレビュー・感想

天才落語家の楽しいお噺!鋭い視点と老練な思考で世の中を斬る!

世間はやかん

もくじ

『世間はやかん』のもくじ

 

内容説明

世の中の「善」と「悪」、とことん見据えた語り下ろし。

目次

其の1 だから教えねえほうがよかった
其の2 嫌なことはしないほうがいい
其の3 雨の日は寝てようよ
其の4 あやかりたい首吊りたい
其の5 幸福の基準をきめよ
其の6 夜明けを待つべし
其の7 花火屋のローレンス
其の8 たいした事はない心配することもない

引用元:世間はやかん / 立川 談志【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア

 

『世間はやかん』のおすすめポイント

落語調の構成で、2人の登場人物が社会のあらゆるものを語る

 以前から談志さんの本を読もうと思っていて、今回が二冊目。出版年は2010年ということで、比較的新しい本です。2008年に癌になり、2011年に亡くなった談志さん。死を翌年に控えて、高座に立つ機会も減ってきた中で書かれた本です。しかし、内容はすごく明るく、笑わせてくれるものとなっています。

 本の構成は、冒頭に前口上があり、そこからは2人の登場人物が様々なテーマについて語り合うという、落語調のものとなっています。一人が隠居(これが談志さん)で、もう一人が「八五郎」。八五郎があれこれと隠居に質問をして、隠居が面白おかしく返答していきます。このような落語調の会話形式の構成なので、内容の面白さも相まって、一気に読み進んでしまいます

 

落語論から人生論・哲学まで

 内容は実に多岐に渡ります。年寄りが新聞片手に、世の中についてああでもないこうでもないと話しているのを想像してもらえばいいでしょう。具体的なテーマをあげていくと、科学の発展と文明、人間と本能、常識、宗教、芸術、男女などなど。テーマに統一性はないものの、各テーマについて核心をつくような言葉を次々と吐いていきます。この辺は「さすが談志さん」といったところ。

 談志さんの凄いところの一つは、言葉の鋭さだと思います。この本は最晩年とも言っていい時期、体調も好ましくない中で書かれたものだと思いますが、それでも言葉の鋭さは一級品。2人の人物が絶え間ないジョークの掛け合いをしつつ、要所で鋭い言葉を投げかけてくるので、まさに落語、あるいは漫才を見ている時のような感覚になります。非常に心地いいリズムを刻んでいます

 

本書の要点抜粋

学問・科学について

  • 学問なんて貧乏人の暇つぶしである
    (立川談志(2010)『世間はやかん』初版第一刷、春秋社、p.8)
  • 人間の知っていることなんざ、本当はたかが知れてるよ。目に見えることしかワカンナイんだから。(p.17)
  • ノーベル賞なんてあんなものは、ノーベルんところに金持ってってるから、順に順に廻ってるだけの話なんだよ。ミス日本とおんなじだよ、あんなもの。(p.22)
  •  学問は貧乏人の暇つぶし。同ンなじことよ。テレビはヤラセ、新聞は嘘。
    (中略)
     物事ってなァ手前ぇで見たものだけが「本物」だ。
     アトは噂噺よ。

 

落語家と常識

  • ”人間を常識から解放させる”存在が落語家。その役割をやりたいと思ったやつが落語家になった。(p.55)
  •  つまり人間、生きていく為にこの”常識”というのを覚える。面白くねえが死なねえ為に、他の奴と連携して社会の中にいる為にだ。それを演るより仕方ない。一人ぢゃ生きられないしな。
     だから根本的にゃ、”常識”ってなァ不快なのだ。
    (中略)
     それで”常識”に対して”非常識”というのが発生する。しかし”非常識”を認める訳にゃいかない。でも、これをどこかに入れないと人間、参っちまう。
    (中略)
     非常識な振る舞いをする人間が、落語には登場する。そして落語と称う”非常識”なモノを、社会のアウトローである落語家が、「寄席」という空間で喋ったんだ。
    (pp.56-58)

 

馬鹿、若者、大人について

  • ――莫迦(ばか)って何ですか。
     状況判断が出来ない人間のこと。状況に対する判断が出来ていないから、当然の結果として処理を間違える。
    ――低能ってのは。
     知識の少ない、考えのない奴。
    ――努力って。
     莫迦に恵(あた)えた夢。
    (p.96)
  • ――若者に未来はありますか。
     無い。時間があるだけ。
     ハンバーガーみてェな文明的な残飯喰ってて、長生きするはずがない。
     それが証拠に、若いやつで長生きしている奴ぁ一人もいないだろ。
    (pp.97-98)
  • ――大人とは?
     一言でいやあ、ここにいる”この人間”が、”ふつうの人間”とつきあえるってこと。それをできる人間が、大人。
     そいつがどんなに立派な人かも知れない。世間的な評価、たとえばノーベル化学賞をもらったとか、世界ナントカ賞をもらったか知れないが。その人間とふつうにちゃんと話ができるかってこと。
     別の角度から言えば、ユーモアがワカるってこと。ユーモアがワカらない奴は外国行って、外交官と話したって通じるわけがないもの。
     日本には大人はあまりいないというこった。
    (pp.102-103)

 

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