「龍三と七人の子分たち」のあらすじ・解説

2017年10月1日

元組長がオレオレ詐欺にひっかかり……かつての仲間を集めて組を再結成!
街のチンピラや詐欺集団を相手に、老人たちが大暴走!

「龍三と七人の子分たち」あらすじ/ストーリー

かつてヤクザの組長を務めた龍三は息子・龍平のもとで隠居生活を過ごしているが、ヤクザの息子と白い眼で見られていた過去から家庭の中でも窮屈な生活を 送っている。連休に龍平が妻の実家へ帰省、留守を預かる最中に半グレ京浜連合からオレオレ詐欺の電話がかかる。示談金が揃えられない龍三は元子分のマサと 詫びとして指つめを行おうとし受取人は恐れをなして逃げ出す。その夜、かつての仲間だったモキチも京浜連合とトラブルを起こし、マル暴の刑事村上から彼ら の存在を知った三人はかつてのヤクザ仲間、敵対した組長達と暴力団『一龍会』を結成し京浜連合と抗争を開始する。

引用元:「龍三と七人の子分たち」(Wikipedia)

 今作は、北野武監督としては珍しい、ほぼ完全なコメディ作品となっています。ここ数年の監督作品を見ていくと、やはりアウトレイジシリーズの印象が強いです。アウトレイジは監督が得意のヤクザもの。その中でも、シンプル、わかりやすい、大衆向け、台詞が多いといった特徴を持っていました。特に、アウトレイジビヨンドにその傾向が強く、豪華な俳優陣を多数共演させ、ヤクザ同士の強烈な口喧嘩を全面に押し出し、興行成績も好調でした。

 そんなアウトレイジと今作の関連性は、「大衆向け」ということです。とにかく見ている人を楽しませようという作品になっています。ストーリーもわかりやすいですし、時事的な要素も入っています。ヤクザともヤンキーともつかない、若い詐欺集団、オレオレ詐欺、高齢化社会。作品の中心に元ヤクザの老人を据え、これらの要素を散りばめることで、コメディ作品となっています。

 実は、北野武監督の作風は、アウトレイジ・ビヨンドから大きく変わってきています。それまでの作品は台詞が少なく、無駄な説明が無く、描写もハードであり、芸術性を意識した作風でした。アウトレイジ・ビヨンドで大衆性を全面に打ち出し、それが見事に成功。そして今作は同じ大衆作品でも「コメディ」に舵を切り、こちらも大成功。前作の興行収入(約15億)を超え、北野作品でも歴代2位のヒット作となりました(1位は座頭市)。

 

 前述のあらすじだけ見ると、北野映画でおなじみのハードな作品では? と思ってしまいますが、実際に映画を見ると印象は全く異なります。完全なコメディです。笑えます。北野映画ではどの作品でも小さな「ギャグ」の要素を取り入れていますが、今作ではそれを全面に押し出しています。馬鹿馬鹿しく、ありえないギャグの連続ですが、それが作品のバランスを崩さないのはさすが。思い切りふざけつつも、作品としてのリアリティは高く、完成度の高いコメディ映画となっています。

 

「龍三と七人の子分たち」感想

初めて(?)のコメディ作品

 北野武監督は、これまでにコメディ作品をいくつか発表してきました。1つめは「みんな〜やってるか!」、2つめは「監督・ばんざい!」です。ただ、「みんな〜やってるか!」はビートたけし名義の作品であり、「監督・ばんざい!」は監督としての自身をパロディタッチで振り返った作品となっています。北野武名義で、かつ一つのストーリーをもった完全なフィクションのコメディ映画となると、実は今作が初めてというわけです。

 過去のインタビュー等を見ると、北野監督は「コメディが一番難しい」と話しています。お笑いで頂点を極めたからこそ、コメディを中心にして映画にまとめる難しさを知っているのでしょう。映画監督として国内外で輝かしいキャリアを積み、今は監督としてベテランの域に達しています。そこでようやくコメディ映画を完成させたということで、監督のキャリアの中でも非常に意味のある作品だと思います。

 

これからコメディ作品が増える?

 今作を見て思ったのは、「まだまだ手の内は出しきってない」ということです。コメディと言っても、その種類は様々あると思います。今作は老若男女誰でも楽しめる、王道のコメディと言っていいでしょう。ただ、北野監督のこれまでの作風を振り返れば、「真剣なコメディ」「社会風刺のコメディ」なども期待できます。観た人が大笑いするのではなく、「なるほど」と唸ってしまうようなコメディ。あるいは、社会を痛烈に皮肉ったコメディ。

 今作ではギャグが満載ですが、しっかり「ツッコミ」があります。そして、ギャグの一つ一つはわかりやすいものです。ここをさらに進めて、ツッコミを排除したり、一見するとギャグなのか本気なのかわからないギャグ、シュールなコメディをつくっていくことも十分考えられます。ハードボイルドでバイオレンスな北野映画の要素を、コメディに昇華させれば、今作とはまた違ったコメディ作品ができると思います

 

役者「ビートたけし」が控えめな作品

 北野映画の見どころの一つは、役者「ビートたけし」の存在です。役者としてのたけしさんは、存在感が尋常ではありません。自身の映画意外にも、テ レビドラマ、あるいは他監督作品にも役者として出演していますが、どの作品を見ても存在感が大きく、その作品の雰囲気を決定づけてしまうほどです。

  そんな役者「ビートたけし」は、今作では少々控えめです。存在感というよりも、単純に出演シーンが少ないです。元ヤクザのジジイ立ちと旧知の仲のベテラン 刑事という配役ですが、冒頭とラスト、そして途中に何度か短いシーンで登場するのみで、ほとんどは超ベテラン俳優陣が中心の作品です。

 こ れは作品の趣旨と関係があるかと思います。今作は何と言っても「ジジイの暴走」がメインテーマです。元ヤクザのジジイ達は、始めのうちはまともな存在とし て描かれています。ヤクザなのか何なのかよくわからない詐欺集団の若者たちに対して、無法者でも仁義は尽くしていた昔ながらのヤクザといった立ち位置で す。しかし、組を再結成し、次第にやりたい放題になっていき、最後はバスジャックして商店街を暴走し始めます。これに対して、ジジイ達を一歩離れた所から 監視しているのがたけしさんとなっています。刑事役としての出演はこれまでにも何度もありましたが、今作ではいたって普通の刑事。バイオレンスでもなければ、何か心に闇を抱えているわけでもなく、個性はそれほどありません。

 

次回作以降で、どのような作品が生まれるのか?

 いずれにしても、今作は「これまでにない新しい作品」となっています。アウトレイジシリーズでもその傾向は表れていましたが、今作はガラリと雰囲気が変わりました。

 北野監督のこれまでの作品を振り返った上で、今後はどのような作品が生まれるのか気になります。得意のバイオレンス映画を再び撮るのか、「アキレスと亀」のような大作を撮るか、「TAKESHIS’」のような難解な作品に再挑戦するか、あるいは商業的な作品をさらに続けるか。アウトレイジから数えて、3作連続でヒットが続いた北野映画。ここでそろそろ、少々難解なバイオレンスを撮って、王道の「北野映画」を多くの人に見てもらうというのも良いかと思います。