洋楽ロックの歴史と名盤(2) – 70年代プログレ

2017年11月4日

エマーソン・レイク・アンド・パーマー(’70~’80) – ロックとクラシックの融合、ギター不在のロックバンド

 ELP(略称)は、プログレバンドである前に、いろいろな独自色を持っている。まず一つは、ギター不在で、キーボード・ベース・ドラムのトリオ編成という点。楽 曲に全くギターを使用しないということではなく、ギターパートが不在ということ。ただ、ロックバンドとしては異色。ギターはロックの核でもある楽器であ り、バンドの中でのギタリストは、作曲家であったり、バンドのリーダー、スターであることが非常に多い。そんなギタリストの代わりに、優れたキーボーディ スであるキース・エマーソンがいるのがELP。

  キース・エマーソンは、シンセサイザーをロックに導入した人物のひとりとしても有名。ちょうどシンセサイザーが注目され始めたのが1960年代末あたり で、僕の知っている限りではザ・フーなんかも同時期に導入している。ザ・フーの楽曲のイントロを聞けば、シンセのイメージが湧くと思う↓

 シンセ、キーボード、ピアノなどの鍵盤楽器を全面に押し出した楽曲も多く、その点で他のプログレ・バンドとは一線を画す存在でもある。殆どの曲で、とにかく軽快なリズムのキーボードが鳴り響き、楽曲を引っ張っていく。多彩な音が使い分けられており、ギターの役割もしっかり担っている。その辺が非常に面白い。ギタリストの不在を全く感じさせないほど、ハードな楽曲もこなす。もう一つ言っておくべきことは、ELPのボーカルは、元キング・クリムゾンのグレッグ・レイク。ただ、クリムゾンとは曲調が正反対のバンドであり、声は一緒だけど曲はポップということで、その辺の比較も面白い。

タルカス』(’71)


タルカス

 バンドの説明が長くなったけど、まずおすすめしたいのは初期の名作『タルカス』。これはジャケットに描かれている架空の生物をテーマにしたコンセプトアルバムなんだけど、ややこしいのでその辺は省略。前半20分ほどが組曲で構成されていて、リズム主導でどんどん進んでいく。組曲というだけあって、一連の曲構成、起承転結がしっかりしていて、非常に聴き応えがある。ELPのもう一つの特徴である、クラシック音楽の導入も、何となく頷ける一枚。

  • tarkus」#1~7/full album(前半部分を占める組曲)

展覧会の絵』(’71) – ロックとクラシックの完全融合!!


展覧会の絵

 ELPが他のプログレバンドと違うのは、キーボードの存在と、クラシック音楽の導入。それがはっきり現れたのが、このアルバム。19世紀のロシアの作曲家、その組曲のカバーと言ってもいい作品。

原曲は、19世紀のロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーが作曲した同名のピアノ組曲「展覧会の絵」。原曲以外にもラヴェル等によるオーケストラ・アレンジがあり、日本の冨田勲もシンセサイザー音楽にアレンジしている。ELPによる本作はラヴェル版の編曲を元にしており、全パートではなく抜粋、それにオリジナル曲を追加した構成になっている。

引用元:展覧会の絵 – Wikipedia

 ムソグルスキーという名前は聞き慣れないけど、冒頭の曲を聞けば「知ってる!」となる。そして、アルバムのラストはあの有名なチャイコフスキーの『くるみ割り人形』の一節が登場。このように、ある曲ではクラシック音楽をほぼカバー、ある曲ではアレンジ、その間に数曲のオリジナル曲を挟むといった構成となっている。クラシック音楽をロックでカバーしているといる点が斬新。こういう実験的な試みは、アイディア倒れになりがちだけど、完全に作品として成立させているところがすごい。前編を通して非常に緊張感があるし、アルバムのストーリー性も素晴らしい。後半にスピードを増していき、どんどんテンションが上がり、最後は誰もが聞いたことのあるクラシックで〆る。

 そして肝心なことがひとつ。実はこれ、ライブアルバム。当時急に人気が出始めたことで、急遽発売を決めた作品だった。そのため、ライブ音源を取り急ぎで作品としてまとめたというわけ。そのわりには完成度がかなり高い。結果、イレギュラーなアルバムであるにも関わらず、ELPの代表作の一つとなっている。

恐怖の頭脳改革』(’73) – キャリア集大成の傑作!!


恐怖の頭脳改革

 ELPのキャリアの中で、最高傑作にあげられるのがこの作品。キャリア全体で見れば初期から中期にかけての作品だけど、ELPの良いところがうまくまとまっているアルバムだと思う。特に、デビューから前作までにやってきたことが、このアルバムにすべてつめこまれている。その上で、個々の曲の完成度もこれまでの作品よりも高くなっている。その辺が、「最高傑作」と呼ばれる理由だろう。

 冒頭ではイギリスの聖歌聖地エルサレムのロックアレンジ。2曲目には『展覧会の絵』で見せたクラシック音楽(アルベルト・ヒナステラの曲)のロックアレンジ。クリムゾン時代を髣髴とさせる、グレッグ・レイクの哀愁ある歌声をフィーチャーした3曲目。そして、アルバムのラストを飾るのは『タルカス』で見せた組曲形式の大作。壮大なストーリー性と、ELPらしいドラム・ベース・キーボードのトリッキーで激しいリズムが存分に楽しめる。

 わかりやすさで言えば、『タルカス』や『展覧会の絵』の方が上かもしれないけど、ここまでのキャリアを知った上で聞けば、断然この作品が完成度が高い。お洒落でおとなしいアルバムにも聞こえてしまうけど、そこにきちんとポップさがあるのが、ELPらしい。他のプログレ・バンドは、キャリアを積むに連れて難解なテーマに挑むようになり、あまりにも深く、暗く、壮大過ぎる世界に行ってしまうことが多い。それはそれでプログレらしいのだが、ELPはいい意味で行きすぎず、ポップさを残すギリギリのところで踏みとどまっている。そういういわけで、やはりELPというバンドは、「ポップ」という点で他のプログレ・バンドと一線を画すという印象を受ける。

ラッシュ(’68~) -カナダ出身、最高レベルの演奏力を駆使した実力派バンド

2112』(’76)


2112

 ラッシュはカナダ出身の3ピースバンドで、名実ともに世界的なバンドであり、本国では音楽界を代表するほどの超大物。そんなラッシュは、ジャンルとしてはプログレ、ハード・ロック、メタルあたりに分類される。ラッシュの存在を世に知らしめたアルバムが、この『2112』。タイトルやジャケットからして、SFっぽい感じがするけど、実際の中身もその影響を多分に受けている。70年代前半にピークを迎えたプログレッシブ・ロックと、当時流行だったSF小説の世界観をミックスしたという感じ。

 このバンドはとにかく個性的。バンド編成はギター、ドラム、ベースとオーソドックスだけど、ベースがボーカルも兼ねる。そして、各パートの演奏力が非常に高い。まずは、かなりのハイトーンをほこるボーカル。人によっては拒絶反応を起こしかねない金切り声。ただ、そのテクニックはすごく、マシンガンのように言葉を連打したかと思えば、女性のような声でメロディーを奏でることもできる。ほぼメタルのボーカルをイメージするといい。そして、ドラムとギターも素晴らしいテクニックを誇る。極端な話をすれば、多少陳腐な曲でも圧倒的な演奏力で名曲に変えてしまえるようなメンバー。中でもドラムのニール・パートはロック界屈指の名ドラマーであり、いわゆる「歌うような」ドラムが特徴的。加えて、曲の中盤で見せるソロが圧倒的。思わず聞き惚れてしまう、手数の多いうねるようなドラミング。

 他のバンドでも似たような話はちらほら聞くけど、バンドのメンバーはザ・フーからの影響も強く受けているそう。曲調は違えど、手数の多いドラムや、自己主張の強いベースなどは、ザ・フーと非常に似ている。SFなどへの好奇心や、大作嗜好もそう。アルバムの冒頭はプログレらしく15分ほどの組曲で始まるのだが、そこでいきなりラッシュの演奏力の高さを知ることになる。曲の構成も素晴らしく、まさに「圧倒的」の一言。まずはこの組曲を聞いて、ラッシュがどんなバンドなのか知ってほしい。

  • 2112」#1/full album(冒頭を飾る20分の組曲)

A Farewell To Kings』(’77)


Farewell to Kings

 ラッシュが最もプログレにハマった時期の一枚。これまでの作品と異なる点は、ボーカルの声、そして楽曲がやや上品になったこと。『2112』では少々荒削りながらも圧倒的な演奏が目立ったが、今作では粗さがほとんどない。激しさはそのままに、これまでよりも「洗練された」演奏となっている。人によっては少々おとなしくなってしまったと感じるかもしれないが、懐の深くなった演奏は聴き応えあり。よりプログレ色を強めた次作『Hemispheres』もおすすめ。

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