洋楽ロックの歴史と名盤(1) – 60年代

2017年11月4日

ザ・フー(64~82)
– プログレ、ハード・ロック、パンクの先駆け!?

【演奏力とコンセプトアルバム】

 ビートルズやストーンズと比べると、日本では知名度がやや劣るザ・フー。しかし、本国イギリスやアメリカはもちろん、世界中で知名度が非常に高く、実力、影響力の点から言っても疑いのないロック界のレジェンド。ザ・フーを一言で言い表すのは難しいけど、個人的に言えば「作品の完成度」と「演奏力」がとにかく高い。全盛期のアルバムの多くは「コンセプトアルバム」になっているのもその証拠。そのうちの1枚は、あまりに壮大なコンセプトを掲げたため、作品としてまとめることができなくなり、最終的には上手く編集して普通のアルバムとして発表したり。そんな感じで、同時代の他のバンド、とりわけビートルズやストーンズと比較する際にはその2点がポイントになる。

 初期のザ・フーはモッズ・ムーブメントに乗ったバンドの一つであり、音楽性はシンプルかつポップで、やや攻撃的な面もある。特にザ・フーはパンクの元祖なんて言われることもある。その後、バンドはとりわけ演奏力の面で急速に成長し、完成度の高い作品を次々と世に送り出す。例えば、ザ・フーの演奏を見たストーンズのメンバーを嫉妬させたり、「どちらのよりハードな曲を書けるか?」とポール・マッカートニーが対抗心を燃やしたり。そんなエピソードがたくさんある。

【ボーカルが一番目立たないという特異なバンド】

 バンドの演奏力を語る上で欠かせないのは、ドラマーのキース・ムーン。ロックの歴史の中でも3本の指に入る名ドラマーで、その独創的すぎるドラミングは「再現不可能」と言われるほど。自分が初めてザ・フーを聞いたのは10代の頃。もちろん音楽に関しては素人。それでも「なんだこのドラム!?」と驚いたほど。とにかく手数が多くて、まるで歌うようなドラム。あまりに目立つんで「リード・ドラム」なんて呼ばれることもある。そして、そのドラミングに負けず劣らずインパクトのあるキース・ムーンのキャラクター。この辺はwikiなり、ネットで検索して欲しい。

 他のパートもすごい。ギター担当でほぼすべてのソングライティングをしているピート・タウンゼントは、こちらもロック界屈指のリズム・ギターで有名。ソングライティング能力も桁外れ。とりわけ、時代を先取りした音楽や、アルバムにコンセプトやテーマを加えるのが上手。歴史に残る名作をいくつ世に出した。ベースのジョン・エントウィッスルは変態的なテクニックをもったベーシストで、数々のフォロワーを生んでいる。

 そして、ボーカルのロジャー・ダルトリー。彼はハード・ロック的な歌唱法が印象的だけど、他のメンバーが凄すぎてあまりフィーチャーされない(ボーカルが一番目立たないというのもザ・フーのおかしいところ)。ただ、彼の最大の特徴はメンバーの中で最もマジメなこと。全盛期に他のメンバーがドラッグや酒に溺れる間も、彼は健康的なロッカーであり続けた。その甲斐もあってか、再結成を経て21世紀の現在も現役。ロンドン・オリンピックの閉会式でも60代とは思えないパフォーマンスを見せた。彼のおかげで、僕もリアルタイムでライブを見ることができたということで、ロジャーの存在はやはり大きい。

【今もなお現役の「生きる伝説」】

 ドラムのキースは若くしてこの世を去り、ベースのジョンも2002年に死去。バンドはドラマーの死をきっかけに勢いをなくしていき、80年代始めに解散。その後、90年代後半からライブ活動などを開始し、2006年には約四半世紀ぶりのスタジオ・アルバムエンドレス・ワイヤーを発表。先述のロンドン・オリンピックへの出演の他、2008年には世界ツアーで来日、スーパーボウルのハーフタイムショーに出演するなど、精力的に活動中。

 再結成後、特に21世紀に入ってからのザ・フーのライブ活動は見もの。ロジャーの声もピートのギターも全盛期を彷彿とさせる迫力で、還暦を迎えたじいさんとは思えないパフォーマンスを見せる。加えて、2004年あたりから新ドラマーとしてザック・スターキーが加入。実は彼、あのリンゴ・スターの息子であり、リンゴと親友であったキース・ムーンからドラミングを教わったという人物。まさにキースの意志を継いだドラマー。実力も素晴らしく、一時期はオアシスに加入して活躍していた。プレースタイルは父リンゴというよりはキース寄りで、「全盛期のザ・フーの音を蘇らせた」と言われるほど。

ロックとオペラが融合したコンセプトアルバム

トミー(’69)


トミー

【ザ・フーの未来を切り開いた「ロック・オペラ」】

  このアルバムは、ザ・フーというバンドの未来を切り開いたアルバムでもある。当時ザ・フーはヒットソングもあり、知名度も高かったが、ロック全盛期の数あるバンドの一つでしかなかった。ビートルズやストーンズと比べるとどうしても見劣りしてしまうバンド。その一方で、着実にソングライティング能力や演奏力を身につけつつもあった。そんな時、バンドに必要だったのはインパクトのある作品。バンドの方向性やイメージを決定づけるような作品だった。そこで、メインのソングライターであったピートのアイディアを最大限に生かし、これまでにないアルバムを作ろうということで完成したのが『トミー』。

 このアルバムはまず、「コンセプト・アルバム」。加えて、「ロック・オペラ」という異名も持つ。アルバム全体で一つの作品になっていて、尚且つオペラの要素も持っている。オペラは簡単に言うと、音楽に乗せて物語を進行させるもの。それをロックで表現したというわけ。ロック・オペラというジャンルをつくったのはこのアルバムであり、その後も他のアーティストに取り上げられることもある。有名どころでは、グリーン・デイのアメリカン・イディオットが、ロック・オペラのコンセプトを取り入れたアルバムとして知られている。

【最初期のプログレッシブ・ロック】

 比較的短い曲の集まりで構成(収録時間75分に対して曲数25)、完全なインストゥルメンタル曲が3曲、インストゥルメンタルを強調した曲も多く、全体として芸術性が高いアルバム。プログレッシブ・ロックに分類されることもある。最初期のプログレと言われることもあるほど。プログレの元祖とされるクリムゾンのファーストアルバムより数ヶ月早く発表というのも、なかなか面白い。それくらい、このアルバムの歴史的な意義は大きい。もちろん、曲のクオリティも非常に高い。急速にレベルアップしていく演奏力も合わせて、何か鬼気迫るものを感じさせる作品。

 ちなみに、この『トミー』はロックのアルバムという枠を超えて、いろいろなメディアで再演されることとなる。映画になったり、ミュージカルになったりと、これまで何度も再演されている。日本版のミュージカルまでつくられているほど。作品としてのあらゆる可能性を秘めていたアルバムで、ザ・フーの作品の中でも、最も有名なものの一つとなっている。

ハード・ロック黎明期の完成形

Who’s Next(’71)


Who’s Next

【大胆なシンセサイザーの導入】

  ザ・フーはライブでのハードな演奏が持ち味で、このアルバム以前にすでにハード・ロック的なサウンドを体現していた。特に、60年代末のあたりで、他のバンドと比べると、ザ・フーの演奏力は抜きん出ていたと個人的に思う。それはそうと、70年代の始めには多くのハード・ロックアルバムが誕生していて、その中でも完成度の非常に高い作品がこの『Who’s Next』

 他のバンドの作品と比べて何が特徴的かというと、まずは音の良さ。基本ハードなんだけど、音がクリア。雑音もあんまりない。ちょっとお洒落で上品なハード・ロックという感じ。それにはプログレ的な要素も関係している。このアルバムではシンセサイザーを多用していて、同時期に誕生したプログレの要素を醸し出している。以下の曲の冒頭部分を聞くとアルバム全体の雰囲気がわかる↓

 他の特徴は、そもそもコンセプトアルバムとしてスタートした作品ということ。そのために、各曲にある程度の類似点というかつながりがある。元々のコンセプトはあまりに凝ったもので、計画は頓挫。プロデューサーに頼んで「上手にまとめてくれ」って言ってできたのがこのアルバム。その辺の事情はwikiでも見るとだいたい分かる。コンセプトへのこだわりを捨てていれば、もっと早くこのアルバムが世に出たのかもしれない。未完成であるのに信じられない程の完成度を持っているあたりが、このアルバムのすごい所。

【ロジャーのシャウトとキース・ムーンのドラムソロ】

 音の良さ、アルバムの統一感、さらにもう一つ特徴を上げるとすれば、各メンバーの能力の向上がある。とりわけ目立つのはボーカルのロジャー。ひとつ前のスタジオ・アルバム『トミー』と比べると、声の伸びが格段に上がり、激しいシャウトも身につけ、完全にハード・ロック的な歌唱法に変化。当時はレッド・ツェッペリンのロバート・プラントと比較されていた。

 加えて、キース・ムーンのドラム技術もさらに向上。アルバムの要所で彼のドラムがフィーチャーされているので、キース・ムーンのドラムを楽しむアルバムとも言える。特にラストの曲の終盤部分にあるドラムソロはロック史上屈指の名演。

2枚組の大作ロック・オペラ

四重人格(’73)


四重人格

 【成熟したサウンド、完成されたコンセプト】

  TheWhoの最高傑作のひとつにもあげられる本作。前作やトミーと同じくコンセプトアルバムを目指し、2枚組の大作として完成した。このアルバムでは各メンバーの演奏力が最高潮に達し、コンセプトも見事に表現されている。各曲のクオリティも高く、全編を通してシンセサイザーが多用されており、波や鳥の声などの効果音も取り入れられ、複雑な構成を持った曲も多く、大作志向が覗える。トミーをさらに推し進めたような作品と言っても良い。トミー、フーズネクストの傑作二枚に引けを取らないアルバム。ザフーが好きになったなら、必聴の一枚。

⇒【5】「サイケデリック・ムーブメントとロックの多様化」