「日本語のレトリック」のレビュー(文章の書き方/文章表現・レトリック・修辞法)

2013年12月27日

 レトリック(修辞法)の例と種類を知って、文章表現を豊かに!

  レトリック(修辞法)とは、文章表現を豊かにするためのテクニックです。比喩、擬人法、倒置法など、日常的に使用しているものも多いです。その起源は古代ギリシア時代の演説や議論であり、巧みな表現によって相手に訴えかけるような性質をもっています。上手に使えば、言葉や文章の意味を増幅させ、その意味以上のものを伝えることができます

 「日本語のレトリック―文章表現の技法 (岩波ジュニア新書)」では、古今東西の作家の文書を引用しつつ、言葉の単位でのレトリックから文章レベルでのレトリックまで網羅しています。ジュニア新書ということで、内容は非常にわかりやすいです。また、何気なく使っていた言葉の深い意味なども知ることが出来、読み物としても楽しめます。

もくじ

言葉のレトリック(修辞法)の種類と例

  まずは言葉の組み合わせや短い文章レベルでのレトリックを紹介します。

よく知られたレトリック(比喩と擬人法)

  • 隠喩……「まるで」「ようだ」などの副詞を使わない比喩。
    • 例:人生は旅だ

 

  • 直喩……「まるで~のようだ」「まさに」というような表現
    • 例:あの女はまるで鬼のようだ
      ※これが隠喩だと「あの女は鬼だ」となる

 

  • 擬人法……物事や現象を人の身体や動作で表現する
    • 例:木枯らしが秋の終わりを告げる
    • 例:社会のガン

 

よく使われているが、あまり知られていないレトリック(共感覚法、くびき法、換喩、撞着法)

  • 共感覚法……ある感覚を別の感覚で表現する
    • 例:深い味
    • 例:この画家の色使いは目にうるさい

 

  • くびき法……一つの表現が複数の意味と対応する
    • 例:味と化粧は薄い方がいい
    • 例:服装の乱れは心の乱れ

 

  • 換喩……ある事物を、その事物の一部分(印象的な部分)で表現
    • 男と女⇒スニーカーとハイヒール
    • 文章を書き始める⇒筆をとる
    • ビートルズの曲を聞く⇒ビートルズを聴く

 

  • 撞着法……反意語を組み合わせる
    • 最も落ち着いた驚き
    • 黒い光

 この2つの例は本の中で紹介されていた、「こころ (新潮文庫)」(夏目漱石)の表現です。作中では、登場人物のある男が友人のKと恋敵の関係になっています。一人の女性を巡って、男はKを だしぬき、女の母親から結婚の了承を得てしまいます。そのことをKに打ち明けられないまま時が過ぎていき、ある日、Kは母親からその話を聞きました。

 奥さんのいうところを綜合(そうごう)して考えてみると、Kはこの最後の打撃を、最も落ち付いた驚きをもって迎えたらしいのです。Kはお嬢さんと私との間に結ばれた新しい関係について、最初はそうですかとただ一口いっただけだったそうです。しかし奥さんが、「あなたも喜んで下さい」と述べた時、彼ははじめて奥さんの顔を見て微笑を洩らしながら、「おめでとうございます」といったまま席を立ったそうです。そうして茶の間の障子を開ける前に、また奥さんを振り返って、「結婚はいつですか」と聞いたそうです。

 この表現は、この後作中でKが自殺をしてしまうことにより、その意味がさらに強まってきます。自分の部屋で自殺していたKを発見したところでも、撞着法が再び使用されます。

 その時私の受けた第一の感じは、Kから突然恋の自白を聞かされた時のそれとほぼ同じでした。私の眼は彼の室の中を一目見るや否や、あたかも硝子で作った義眼のように、動く能力を失いました。私は棒立ちに立ち竦みました。それが疾風のごとく私を通過したあとで、私はまたああ失策(しま)ったと思いました。もう取り返しが付かないという黒い光が、私の未来を貫いて、一瞬間に私の前に横たわる全生涯を物凄く照らしました。そうして私はがたがた顫(ふる)え出したのです。
(引用:「こころ」(青空文庫))

 この表現はなかなかすごいと思います。反意語を組み合わせた「黒い光」という部分が撞着法ですが、「黒い光が私の未来を貫く」というのは、つまりは未来が闇に包まれるということです。しかも「全生涯」を照らすとあります。女性を手に入れるために友人を欺き、その結果友人が自殺してしまったことは、男は死ぬまで後悔や罪悪感に苦しむことを意味します。ここを単に「目の前が真っ暗になった」と書くより、ずっと効果的な表現です。

文章のレトリック(修辞法)の種類と例

反復法、倒置法、対句法

 宮沢賢治の作品は短編中心で読みやすく、巧みな表現のオンパレードです。この「カイロ団長」という話は、庭仕事をするアマガエルたちの話です。仕事終わりにトノサマガエルの店に入り、ウイスキーを飲まされてぼったくられ、借金返済のために働かされるというストーリーになっています。とは言え、最後はハッピーエンドです。ここでは冒頭の部分を引用します。

  あるとき、三十疋(ぴき)のあまがえるが、一緒に面白く仕事をやって居りました。
 これは主に虫仲間からたのまれて、紫蘇(しそ)の実やけしの実をひろって来て花ばたけをこしらえたり、かたちのいい石や苔を集めて来て立派なお庭をつくったりする職業でした。
 こんなようにして出来たきれいなお庭を、私どもはたびたび、あちこちで見ます。それは畑の豆の木の下や、林の楢(なら)の木の根もとや、又雨垂れの石のかげなどに、それはそれは上手に可愛らしくつくってあるのです。
 さて三十疋は、毎日大へん面白くやっていました。朝は、黄金色のお日さまの光が、とうもろこしの影法師を二千六百寸も遠くへ投げ出すころからさっぱりした空気をすぱすぱ吸って働き出し、夕方は、お日さまの光が木や草の緑を飴色にうきうきさせるまで歌ったり笑ったり叫んだりして仕事をしました。殊にあらしの次の日などは、あっちからもこっちからもどうか早く来てお庭をかくしてしまった板を起して下さいとか、うちのすぎごけの木が倒れましたから大いそぎで五六人来てみて下さいとか、それはそれはいそがしいのでした。いそがしければいそがしいほど、みんなは自分たちが立派な人になったような気がして、もう大よろこびでした。さあ、それ、しっかりひっぱれ、いいか、よいとこしょおい、ブチュコ、縄がたるむよ、いいとも、そらひっぱれおい、おい、ビキコ、そこをはなせ、縄を結んで呉れ、よういやさ、そらもう一いき、よおいやしゃ、なんてまあこんな工合です。
(引用:「カイロ団長」(青空文庫))

 赤字は言葉の反復、茶色部分は文章レベルでの反復です。これらの表現では、「たくさんのカエルが働いている様子」「カエルたちの快活な様子」「みんなせっせと働いている様子」「忙しい様子」などが伝わってきます。反復法ではリズムが軽快になり、情景が浮かんできます。宮沢賢治の作品にはこのようなリズミカルな文章がたくさん出てきます。

 

 

  • 倒置法……語順を逆にする
    • 通常の語順:風呂あがりのビールは、やっぱり美味しいね
    • 倒置法:やっぱり美味しいね、風呂あがりのビールは

  倒置法は日常会話でもよく使用します。ここで注目したいのは、どこが強調されるかです。例文は会話文です。相手がいる会話文の場合は、自然と感情を表す言葉や形容詞が前に来るので、前の部分が強調されます。倒置法を使う意味は、言いたいことを先に置くということになります。

 しかし、同じ会話文でも、小説の場合はこの関係は逆になります。例えば登場人物が2人で会話している時に、「やっぱりおいしいね」と来たら、何が美味しいのだろうかと読者は気になります。その後に「風呂あがりのビール」と来ることで、そちらが強調されます。CMなどで同じ文章が出た場合も、やはり後ろが強調されます。文章を書く際には実際の会話と文章での会話の違いを意識する必要があるでしょう。

 また、説明的な文章を後に置くことでも、強調することができます。

  • 倒置法(説明的な文章を後ろに置く)
    • 例:まるで、恋人たちを祝福するかのように、クリスマスの夜には必ずと言っていいほど雪が振る
    • 例:クリスマスの夜には必ずと言っていいほど雪が降る。まるで、恋人たちを祝福するかのように

 文章の中では、倒置法によって後ろに置いた部分が強調されると考えるといいでしょう。

 

 

  • 対句法
    • 例:美人は三日で飽きる。ブスは三日で慣れる
    • 例:猫は愛想が悪いが一途。犬は愛想は良いが浮気者

 漸層法、逆説法、諷諭

  本の中で紹介されているのは、「真相は藪の中」という慣用句の元になっている有名な作品です。内容は、ある殺人事件について、警察官が関係者に尋問をしていくというものです。事件とは、ある夫婦が強盗に襲われ、夫が殺されてしまうというものです。しかし、関係者の証言はどれも皆食い違っています。そして、殺された夫も、霊媒師の口を借りて証言をします。

 強盗は夫を縛り付けた後、妻をレイプしました。そして、事が終わると、強盗は「夫の目の前で恥ずかしい姿を見られては、この先夫婦としてはやっていけまい」と言い、自分の女になるよう持ちかけます。そして、妻がその誘いに乗ったというのが、夫の証言です。前置きが長くなりましたが、その証言の一部に「漸層法」が使われています。

「あの人を殺して下さい。わたしはあの人が生きていては、あなたと一しょにはいられません。」――妻は気が狂ったように、何度もこう叫び立てた。「あの人を殺して下さい。」――この言葉は嵐のように、今でも遠い闇の底へ、まっ逆様におれを吹き落そうとする。一度でもこのくらい憎むべき言葉が、人間の口を出た事があろうか? 一度でもこのくらい呪わしい言葉が、人間の耳に触れた事があろうか? 一度でもこのくらい、――(突然ほとばしるごとき嘲笑)
(引用:「藪の中」(青空文庫))

 この表現の効果は、言葉の反復による盛り上がりです。夫の感情は「憎む」から「呪わしい」に変わり、最後は絶句し、気が狂ったように「嘲笑」します。言葉の選び方などを見ても、この箇所はとても上手な表現をしていると思います。 ちなみに、漸層法の「漸」というのは「次第に」「徐々に」といった意味です。つまり、「徐々に層を成して表現する」といった意味です。

 

  • 逆説……真理に反した表現で、真理の一面を表す
    • 例:急がば回れ
    • 例:本当のやさしさとは、相手に厳しく接することだ
    • 例:自由を与えられた人間は不自由である
    • 例:人間は、嘘をつく時には、必ず、まじめな顔をしているものである。(「斜陽 (新潮文庫)」太宰治)
    • 例:危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である。(「侏儒の言葉・西方の人 (新潮文庫)」芥川龍之介)

  例のうち、芥川龍之介の「侏儒の言葉」という作品は格言集となっています。逆説の表現のオンパレードです。ブログでもいくつか紹介しているので、気になる方はどうぞ。(「侏儒の言葉」(芥川龍之介)の名言・格言集