『羅生門』芥川龍之介 – あらすじ[考察,解説,感想]

2018年1月20日

平安時代を舞台にした、芥川龍之介の代表作!

羅生門・鼻・芋粥・偸盗 (岩波文庫)
羅生門

もくじ

<『羅生門』 – あらすじ>
  • 簡単なあらすじで作品を理解!
    • 平安時代の荒廃した都にて
    • 悩む男と老婆の出会い
    • 老婆への怒りと、あるアイディア
    • 怒りはエゴイズムへ変わる
<『羅生門』 – 考察,解説,感想>
  • テーマは「エゴイズム」
  • 下人の心情変化、道徳心と正義感
  • 人間の優越感
  • 盗人になる勇気

芥川龍之介まとめ

『羅生門』 – あらすじ

芥川の代表作

 芥川の作品の中でも最も有名であり、最も人気のある作品の一つがこの羅生門です。彼が東京大学在学中に完成させた最初期の作品です。

 羅生門はいわゆる王朝物(「芥川龍之介-作品の特徴」参照)であり、平安時代の今昔物語集を下敷きにした作品です。したがって、物語の舞台はかなり古いものとなっていますが、現代人が読んでも十分楽しめる話となっています。ちなみに、物語のテーマとして、人間のエゴイズムがあります。これをあらかじめ意識したうえで読むといいでしょう。

羅生門

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簡単なあらすじで作品を理解!

平安時代の荒廃した都にて

 舞台は平安時代、かつて都の正門であった羅生門は、台風や暴風雨など、度重なる自然災害に加え、都の衰えとともに荒廃していきました。やがて羅生門の周辺は治安が悪化していき、そのうち引き取り手のない死体が置かれるようになりました。そこに仕事と家を失った男がやってきて、雨宿りをしています。

悩む男と老婆の出会い

 男は盗人になるべきかどうか迷いつつ、とりあえず寝床を探し始めます。すると、門の楼にて、死体の山の中に人の気配を感じます。そこにいたのは一人の老婆であり、彼女は死体の髪の毛を抜いていました。それを見て、男の心境に変化が現れます。

その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、下人の心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、この老婆に対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。

老婆への怒りと、心に浮かんだあるアイディア

 激しい憎悪を感じた男は、自分の立場などすっかり忘れ、老婆を押し倒し、刀をつきつけて問いただします。すると、老婆は死人の髪を抜いてかつらをつくって売ると答えました。そして老婆は、恐怖のあまり体をガタガタと震わせ、息を乱し、目を見開いてただただ黙りました。

これを見ると、下人は始めて明白にこの老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後に残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。

 先ほどまで正義感からくる激しい憎悪を感じていた男の心に、ある考えが浮かんでいました。一方、老婆は命乞いを始め、自分の行動を正当化すべく男に話をします。「ここにある死体はろくでもない奴らばかりだ。例えばこの女など、蛇の肉を干し魚だと言って売りさばいていた。そんな奴らの髪を抜いても罰は当たらない。何より、そうしないと自分は餓死してしまう」。

これを聞いている中に、下人の心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。

怒りはエゴイズムへ変わる

 男の中にあった正義感は、いつのまにか自分が生きるためのエゴイズムに変わります。

「では、おれ引剥ひはぎをしようと恨むまいな。己もそうしなければ、饑死をする体なのだ。」

 男はそう言い、老婆の着物をはぎ取ってしまいます。

 「自分が生きるためなら、罪を犯しても正当化される。ならば、お前が同じことをされても文句は無いな」と。

 そして男は、夜の闇の中へと消えていくのでした。

考察,解説,感想

テーマは「エゴイズム」

 この作品のテーマは「エゴイズム」です。ストーリーを見ても、主人公である下人がそのエゴイズムを発揮するというところで、物語のオチとなります。ですから、羅生門を考察する上で「下人がエゴイズムを発揮するまでの心情変化」がポイントになるかと思います。そこで、物語の進行に沿って、下人の心情変化についての記述を抜き出してみましょう。

下人の心情変化、道徳心と正義感

 まずは、物語の初め、下人の心情を表す箇所です。

  • 「行き所がなくて、途方にくれていた」
  • 「どうにもならない事を、どうにかしようとして」
  • 「『盗人になるよりほかに仕方がない』と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいた」

 この時点では、下人は「道徳心」を持っています。
 その後、羅生門の楼にて老婆を発見し、「ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまった」とあります。直後「六分の恐怖と四分の好奇心」とありますので、「ある強い感情」とは「恐怖」のことでしょう。

 次は、老婆の行動を見た際の、下人の心情です。

  • 「老婆に対するはげしい憎悪」
  • 「あらゆる悪に対する反感」

 ここで、下人の心情は初めのものとは大きく変化します。目的もなく途方に暮れていたところに、いわば「疑いようのない悪」を発見したのです。そこで当然ながら、下人の心からは「正義感」が湧き上がってきます。

 しかしながら、この正義感は非常に薄っぺらいものです。なぜなら、下人はさっきまで自分の寝床すらままならない状態にあり、人の悪事に対して正義感を発揮している場合ではないのです。
 その証拠ではないですが、下人の心情はこのすぐ後で再び変化します。それは、弱々しい老婆の姿を見た時のことです。

  • 「この老婆の生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識」
  • 「ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかり」

 さて、ここでの「ある仕事」「得意と満足」というのは何を指すでしょうか。まず、「ある仕事」については、老婆の口から悪事を働いた理由を聞き出し、老婆に裁きを下すということでしょう。そうなると、「得意と満足」というのは「憂鬱感」に他なりません。

人間の優越感

 ここには人間心理、特に人間の弱さが描かれています。人間はこの下人のように、家も仕事も失ったような状況にあっては、自尊心を保つことができません。そんな時には、人間は自分よりも劣っているものを見つけたり、あるいは敵を作り出したり、この下人のように悪を見つけ出し、それを見下ししたり非難することで、自分を保とうとします。
 下人は、老婆が死体の髪からかつらをつくるという話を聞き、「老婆の答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一しょに、心の中へはいって来た」とあります。下人はやはり、自尊心を支えるような、疑いようのない悪を求めていたのです。だから平凡な答えに失望したのです。そして、その後で侮蔑という感情が心に沸き起こっていることも、それは明らかでしょう。

盗人になる勇気

 さて、いよいよ話はクライマックスです。老婆は命乞いをします。彼女が髪を抜いていた女は、生前は、蛇を干魚と偽って売っていたような女だと語ります。そして、「わしは、この女のした事が悪いとは思うていぬ。せねば、饑死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬ」と言います。
 それを聞いて、下人の心にはある勇気が湧いてきます。

  • 「さっき門の下で、この男には欠けていた勇気」
  • 「この老婆を捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気」

 つまりこれは、「盗人になる勇気」です。
 そして、このシーンこそ、「下人がエゴイズムを発揮」するシーンなのです。下人は薄っぺらい正義を捨て、現実的な行動をとるのです。確かに、盗人になることは悪いことですが、その一方で、ちっぽけな正義感から老婆を切っても、結局状況は変わりません。優越感を得たとしても、下人は家も仕事も、金も食うものもないままです。それならば、状況が状況なだけに、生きるためなら盗みをするのも仕方ありません。これはある意味で合理的な判断と言えるでしょう。しかし、この生きるためには手段を選ばないということこそ、エゴイズムに他ならないのです。

おわりに(感想)

 同じ結果でも、もし下人が悩むことなく真っ先に盗みをしていれば、エゴイズムはこれほど強調されなかったでしょう。しかし、下人は勇気がないがために盗人になれず、たまたま出くわした老婆を責めることで優越感を得ようとし、その上で老婆の屁理屈を借りる形で盗人になる決意をします。いかにも人間的ですが、改めて下人の行動を見ると、人間の汚さや弱さが鮮明に現れています。

 この作品で描かれているエゴイズムというものは、人間にとっては大きなジレンマです。エゴイズムを出し過ぎると悪人や犯罪者になってしまい、まともな社会生活はできないでしょう。かと言って、エゴイズムに対して神経質になりすぎると、社会の中を生き抜くことは難しくなります。エゴイズムはある意味で、現実的な判断や合理性であったりするのです。このジレンマは、時代に関係なく、人間にとって大きな悩みなのでしょう。


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★本作を題材にした、黒澤明監督の作品。

参考文献