昇合拾数(4)「何神教(かしんきょう)」

2016年10月29日

世界初「神との調停」

采配

 交渉の基本は高望み。最初に高い条件を出して、交渉をする中で本来の希望へと近づけていく。日常の些細な言い争いでも同じこと。遠慮してハナから希望を低くするなんてのはもってのほか。相手につけこまれて損をするだけ。

 しかし、時には交渉を放棄して相手に服従することも必要。絶対に叶わない相手だったり、逆らうと危険な相手だったり、あるいは服従するのも厭わないほど尊敬できる人物だったりする場合。だがしかし、人にひれ伏すような人物は必ずと言っていいほど、後々に謀反を企てる。歴史がそれを物語っている。そういうわけで、結局何が言いたいのかわらない今日このごろ。

 

 

「信者数1億人を希望します」

「昇合 拾数(のぼらい ひろかず)」

東北地方の田舎町、333年の歴史を持つ神社に、次男坊として生まれる。物覚えの良さとその特異な言動から、神童と呼ばれ、将来を期待される。

しかし、若くして道を逸れた昇合は、波乱万丈の人生を歩む。神主、占い師、マジシャン、政治家、哲学者、など様々な肩書を持ち、浮浪者時代を経て、教祖として数々の記録を残すこととなる。

三度の「三種の神技」達成で日本中を驚かせ、世界に進出して「奇跡」を複数回達成。世界初の「神との調停」「宗教間トレード」「他宗教の神を信仰」など、型破りな教祖像を世に知らしめた。

やがて彼は、神と呼ばれるようになり、世界で最も人類を救済しつつ、世界で最も嫌われる存在となる。まさに彼は「異端」である。

 

 昇合の起こした奇跡はまだまだたくさんあるが、その前に彼の宗教観を見ていこう。彼が他の宗教家と違っていたのは、神に対する姿勢である。神を崇めるわけでも、修行を積んで近づこうというわけでも、神にすがろうというわけでもない。神そのものを「問う」という姿勢だ。この点で、昇合の宗教観は哲学、あるいは無神教に似ている。ただ、あくまで神の存在は認めている。しかし、神がどんな存在であるかは自分で探求するという、この点が特異である。

 

 我流、私流、孤立的、孤独派などと揶揄されることもあったが、昇合は笑っていた。「究極の個は究極の共同体であり、究極の孤独は究極のファミリーである」とは、昇合の言葉だ。「ワガママだって突き詰めていけば全体の利益になる」と。このように、神の存在は認めながら「神とは何か」と、その在り方を問い続ける。そういう意味で、昇合の宗教は「何(か)神教」と呼ばれている。

 

 この特異な宗教観が広く知られるようになったのは、昇合が最晩年の頃だが、昇合自身は若いうちからこの価値観を持っていた。そのために、常識をくつがえす言動をいくつも重ねてきた。

 

 日本生まれの教祖として、単独の宗教・宗派で初めて「信者1千万人」を達成した時のエピソードを紹介しよう。昇合は何と、神にクレームをつけたのだ。

「これだけ信者を集めたというのに、この世には恵みも光もあまりに少ない」

 神にクレームをつけた宗教家は他にもいる。そこで神に説教されたり、諭されたり、あるいは逆に罰を受けたりするのだが、昇合は違った。「神との調停」に持ち込んだのだ。

  • 調停とは、第三者が当事者の間に入ることによって、紛争の解決を図ることをいいます。
  • 裁判所における調停手続とは、当事者同士だけでは自主的な解決が望めない場合に、裁判官と一般市民から選ばれた調停委員などが間に入り、当事者の自主的な紛争解決の手助けをしてくれる制度です。

引用元:調停申立でお困りなら 法テラス

 ここで第三者となったのは、仏教系の宗教の教祖(3代目)であった。この時、二人が果たして本当に神と交渉をしたかは定かではないが、調停の結果多くのものを得ることができた。一つは「向こう5年間、1年における快晴の日数を10日アップ」、もう一つは「日本のGDP10%アップ」である。発展途上国ですら二桁アップは難しく、先進国は良くて数%のところ、いきなりの二桁成長である。加えて、昇合は倍増の「信者数2千万人」を勝ち取った。前交渉の時点での昇合の希望は「1億人」、海外進出も視野に入れ「3億人」まで口にしたというから驚きである。これが、世界初の神との調停である。

 

 この他にも、教祖でありながらギリシャの新興宗教の神「ナーガ・シグマ」に傾倒し、自らの経典を書き換えるという離れ業もやってのけた。この宗教は異端中の異端で、ナーガ・シグマ神は万能、勘だけで世界の運命を決める気まぐれ、それでいて信者数は圧倒的(30億 ※ただし太陽系含む)という無理のある設定であった。実際には、ギリシャ国内で信者数10万ほどの新興宗教に過ぎなかった。しかし、教祖であり神であるナーガ・シグマは、元プロサッカー選手の国民的俳優、国内屈指の大富豪の婿養子、絶大な資金力と圧倒的なスター性を持っていた。全盛期は1年に10本の映画、4クールと5局にまたがるドラマ出演、100本ものCM出演を記録し、広告塔として公取委に目をつけられたほど。ギリシャ国民にとっては、30億という数字もあながち嘘ではないと思える人物であった。

 

 約3年間、昇合は彼のもとに仕え、日本の神道で言う神主の役割を果たした。その間、あれだけ我の強かった昇合が、一つも文句も言わず、理不尽な命令も受け入れ、ナーガ・シグマ神を全肯定し、神をたてるためにひたすら黒子に徹したと言う。

 

「どうしてって言われてもさ、ナーガ・シグマ神がそう言うんだから、そうなんだよ」

「本当のスターはナーガ・シグマ神だけ。理屈じゃないんだよ」

「彼は1年365日、快晴の大安吉日を目指しているような神さまだから。その上、毎日奇跡を起こそうとしてる。こんくらいでいいとか、これくらいのことは目をつぶろうとか、そういうバランス感覚、彼は持ってないから。だからスターなんですよ」

(以上、昇合の発言より)

 

つづく