「二十六夜」(宮沢賢治)のあらすじ・レビュー

公開日: : 最終更新日:2014/09/20 宮沢賢治

弱肉強食の世界で生きる、フクロウたちの仏教

新編 風の又三郎 (新潮文庫)

もくじ

「二十六夜」のあらすじ

 北上川のほとりの松林で、旧暦6月24日の晩、フクロウが夜な夜な集会をしていました。そこでは、年老いたフクロウがお経を皆に説いていたのです。その内容は、夜中に小鳥や小動物を襲って生きているフクロウの、あさましさを嘆くといったものでした。お経には、彼らにとっての仏様も登場します。その昔、雀として生まれ、飢えに苦しむ人々に命を捧げた「疾翔大力」という仏様です。

 

 説教は毎晩続きます。しかしある朝、幼い三兄弟の一匹、体が小さくおとなしい「穂吉」が人間の子供に捕まえられてしまいます。穂吉は家の外で、足を紐に繋がれていました。フクロウたちは穂吉に伝言をしたり励ましたりしつつ、夜にはまたおじいさんの説教を聞きます。

 説教はいよいよ現実味を増します。「この世は苦しみに満ち溢れ、何が起こるかわからない」「フクロウは、昼間にあくせく飛び回っている小鳥が、疲れて夜眠っているところを襲う。それが今度は、フクロウにとっては夜である早朝、気が緩んだところを子供に捕らえられてしまったのだ」。

 

 6月26日の晩、松の木のずっと高いところに、藁の巣がつくられ、そこに穂吉が横たわっています。子どもたちに両足を折られ、そのままかやの原っぱで倒れていたところを、助けられたのでした。口も利けないほどに弱っていながら、説教を聞きたいということで、松林に連れて来られたのです。

 仲間のフクロウたちは、人間に仕返しをしようと話しますが、フクロウのお坊さんに「復讐は新たな復讐を生むだけ」と諭されます。説教が終わると、東の空から、ちょうど金色の船のような月がのぼります。そして、その舳先から紫の煙が出て雲になり、金に輝く三人の人が姿を現します。月は彼らの後ろで光の輪(後光、光輪)となっていました。煙がフクロウたちへと近づき、仏様が手を差し伸ばしたところで、香りを残して彼らは消えていきました。

 「十六夜」(宮沢賢治)

photo:DSC_0241 by yoppy

「二十六夜」の解説・考察

弱肉強食の世界と、仏教の救い

自分より弱い小動物を惨殺しむさぼり食うという罪深い生き方は、人間ももちろんのこと、この地球という惑星の多くの生物に課せられた宿命であろう。(中略)「よだかの星」のよだか、「なめとこ山の熊」の小十郎、そして本篇の穂吉がいずれも、その死顔にかすかな微小をうかべているのは偶然の一致どころではない。

引用元:宮沢賢治(2005)『新編 風の又三郎』新潮社,第二十三刷,pp.334-335(解説)

 あらすじからもわかるように、この作品のテーマは仏教です。特徴的なのは、フクロウたちにとっての独自の仏教であり、弱肉強食という世界、そこで生きる宿命を嘆き、仏に救いを求めるという点です。

 宮沢賢治は、作品に仏教的な要素を取り入れることは珍しくありません。彼にとっての一大テーマと言ってもいいでしょう。

 

 

 ここで、賢治が生涯で宗教とどのように触れてきたかを見ていくと

  • 1903年(明治36年)、花巻川口尋常高等小学校に進学。(中略)浄土真宗門徒である父祖伝来の濃密な仏教信仰の中で育った影響から、父と有志が始めた「我信念」と題する仏教講話に参加。
  • 1920年(大正9年)、研究生を卒業。関教授からの助教授推薦の話を辞退。10月国柱会に入信。自宅で店番をしながら、信仰や職業をめぐって父と口論する日々が続く。

引用元:宮沢賢治 – 年譜 – Wikipedia

  • 幼い頃から親しんだ仏教も強い影響を与えている。(中略)特に18歳の時に同宗の学僧島地大等編訳の法華経を読んで深い感銘を受けたと言われる。この法華経信仰の高まりにより賢治は後に国粋主義の法華宗教団国柱会に入信するが、法華宗は当時の宮沢家とは宗派違いであったので、父親との対立を深めることとなった。弱者に対する献身的精神、強者への嫌悪などの要素はこれらの経緯と深い関わりがあると思われる。

引用元:宮沢賢治 – 作品と評価 – Wikipedia

 幼い頃に仏教講話に参加していたこと、新たな宗派との出会い、宗教を学ぶことへの熱心さなど、この作品にも自身の経験が活かされているのがよくわかります。

 

宮沢賢治が創作したお経と講釈が読める

 まずお経ですが、引用するには少々長いので、以下の青空文庫で原文を読むのをおすすめします。

 このお経は、作中に何度も出てきます。フクロウのおじいさんが行う夜の説教のシーンのたびに登場し、一晩ごとに、おじいさんが講釈をしてくれます。読者も徐々にその意味を理解していき、何度も聞いていくうちに心に染み渡ってきます。なかなかおもしろい読書体験ができると思います。

 では、講釈の一部を見てみましょう。

  • 折角鳥に生まれて来ても、ただ腹が空いた、取って食う、眠くなった、巣に入るではなんの所詮もないことじゃぞよ。(中略)こちらが一日生きるには、雀やつぐみや、たにしやみみずが、十や二十も殺されねばならぬ(p.103)
  • 悪業を以ての故に、更に又諸の悪業を作ると、これは誠に短いながら、強いお言葉じゃ。先刻人間に恨みを返すとの議があった節、申した如くじゃ、一の悪業によって一の悪果を見る。その悪果故に、又新たなる悪業を作る。斯くの如く展転して、遂にやむときないじゃ。車輪のめぐれどもめぐれども終わらざるが如くじゃ。これを輪廻と言い、流転という。(p.125)

引用元:宮沢賢治(2005)『新編 風の又三郎』新潮社,第二十三刷,各ページより

 

 作中では、説教の内容と、フクロウの周囲で起こる事件がリンクし、フクロウたちも、そして読者も、現実の出来事をもってお経の内容をしっかり理解していく形となります。作中では、主人公である幼いフクロウが、子供に捕らえられ、両足を折られて死んでしまうという残酷な事件が起こります。作品を読んで行く中で、弱肉強食の厳しい世界と、救いとしての仏教について、真剣に考えてしまうほどです。

 

参考文献

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