『間抜けの構造』(ビートたけし)のレビュー・感想

2014年9月12日

現代社会から漫才・落語、人生まで。日本特有の「間」について語りつくす!

間抜けの構造 (新潮新書)

もくじ

『間抜けの構造』のもくじ

 

内容説明

見渡せば世の中、間抜けな奴ばかり。どいつもこいつも、間が悪いったらありゃしない。“間”と いうものは厄介で、その正体は見えにくいし、コントロールするのも難しい。けれど、それを制した奴だけが、それぞれの世界で成功することができるんだよ ―。芸人、映画監督として、これまでずっと“間”について考え格闘してきたビートたけしが、貴重な芸談に破天荒な人生論を交えて語る、この世で一番大事な “間”の話。

目次

第1章 間抜けなやつら
第2章 “間”を制すもの、笑いを制す―漫才の“間”
第3章 お辞儀がきれいな人に落語の下手な人はいない―落語の“間”
第4章 司会者の“間”を盗め―テレビの“間”
第5章 いかに相手の“間”を外すか―スポーツ・芸術の“間”
第6章 映画は“間”の芸術である―映画の“間”
第7章 “間”の功罪―日本人の“間”
第8章 死んで永遠の“間”を生きる―人生の“間”

引用元:間抜けの構造 / ビートたけし【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア

 

『間抜けの構造』のおすすめポイント

漫才からスポーツ、映画、人生まで。あらゆることは「間」で決まる!

 辞書を引くまでもなく、間抜けというのは「”間”の悪いやつ」のこと。
 この”間”というのが大変厄介なもんであってさ。
”間”って一体なんだろう――。(pp.3-4)

 映画や絵画や音楽といった芸術、野球やサッカーや相撲といったスポーツ、踊りや茶道といった芸事、そして人生にいたるまで、あらゆるジャンルにおいて”間”というものは、決定的に重要なものだ。(p.5)

 どうやったら”間”というものをコントロールできるのか、人生においていかに”間”を活かすかを考えてみたい。(p.7)

引用元:ビートたけし(2012)『間抜けの構造』新潮社,第七刷,「はじめに」より

 

「間抜け」という言葉から、日本において重視されている「間」について考えようというのがこの本の内容です。日本の家には「床の間」「茶の間」といった衣食住に必須とは言えない、「間」を尊重した空間があるし、「間抜け」の他にも「間に合う」などといった言葉も多くあります。

 加えて、日本人の特性として、人と人との「間」、会話の「間」、行「間」、「間」合いなど、言動においてとにかく間を大切にしています。そこで、「間」をテーマにして、ビートたけしさんが社会のあらゆるものにおける「間」について考えを述べています

 扱う話題は本業のお笑いを中心に、落語、スポーツ、時事、映画、さらには自身の人生における「間」についても語っています。おなじみのリズミカルでテンポのいい口調で、時に面白おかしく、時にバカバカしく、時に鋭く。笑えてためになる一冊です

 

近年の著書の中でも、内容の濃さと全体のまとまりは抜群!

 ビートたけしさんの著書はほとんど読んでいますが、最近の著書の中でも特におすすめできる一冊がこれです。たけしさんの本には、時事問題をテーマとしたコラム形式のもの、各回の著名人との対談集、書きおろしといった種類があります。この本は書き下ろしです。

 時事問題のコラム集は、短い時間にささっと読むのにピッタリです。対談集は結構本格的な内容であり、いろいろな分野の雑学、最新動向などを知るのにもってこいです。ただ、その形式上、内容のまとまりは薄く、一つのテーマを掘り下げていくものではありません。この点、書き下ろしのものは、ビートたけしさんの考えをじっくり読んでいくことができます。たけしさんの著書には、「ビートたけし」名義の本の他に「北野武」名義の本もありますが、そちらは非常に真面目な内容(映画の話が中心)で、統一性も高いです。従って、両者の中間的な、バランスのとれた内容の本だと思っていいです。

 特にこの本は、「間」という言葉に注目して、いろいろなテーマについて見ていくことができ、おまけに大学時代から、芸人、司会者、映画監督になるまでの、たけしさんの自叙伝的な章もあるので、おすすめです。

 

本書の要点抜粋

日本語の中の「間」のつく言葉

日本語は本当に”間”のつく言葉が多いし、その意味も多岐にわたる。「瞬間」「間近」といった時をあらわすものから、「居間」「床の間」「間尺」「間合い」といった距離や空間をあらわすもの、「人間」や「世間」といった関係性をあらわすものまで幅広い。
 それと不思議なのが「間に合う」という言葉。
「奥さん、どうですか? 来月から朝日新聞をお願いしますよ」
「ちょっといま間に合っていますので……」

引用元:ビートたけし(2012)『間抜けの構造』新潮社,第七刷,p.146

 言われてみれば確かに、日本語には間の付く言葉が多いです。感覚的にも、日常の時間・距離・関係性において「間」が重要であることはよくわかります。日本人の神経質なところ、内気なところも、この「間」を重視することと関係が深いように感じます。

 

 

 もう一つ、面白い箇所を見てみます。

 日本語というのは、強弱のアクセントがなくて、工程のニュアンスだけなんだってね。ひとつひとつの言葉に強弱がないからリズムが生まれにくい。
 例えば、「お前は本当に間抜けだな」と言ったとする。それをひとつずつ分解すると、「オ、マ、エ、ハ、ホ、ン、ト、ウ、ニ、マ、ヌ、ケ、ダ、ナ」になるんだけど、強弱がないからリズムは生まれない。「ワ、レ、ワ、レ、ハ、ウ、チュ、ウ、ジ、ン、ダ」というのと一緒でさ。
 じゃあどうやってリズムをつけるのかというと、強弱がないから、どこかで”間”を置いて区切るしかないわけ。それによって、日本語のリズムは変わってくる。

引用元:ビートたけし(2012)『間抜けの構造』新潮社,第七刷,pp.148-149

 これも言われてみればなるほどというもの。特に、外国語と比べるとはっきりわかります。日本人が英文の音読や英会話をするさい、強弱をつけて感情を込めるのに苦労するのも、日本語の強弱の無さが関係していると思います。

 この引用箇所の後で、たけしさんは俳句の「五・七・五」も間を大切にするところから生まれたのでは? と述べています。五・七・五のリズムは確かに心地よいですが、長い年月をかけてできた、日本人にとって心地のいいリズムなのでしょう。

 

落語と漫才の間、ラジオの間

 まずは新旧の演芸である落語と漫才の間について

 同じ噺を演るにしても、演者によってリズムや”間”は当然違ってくる。むしろ、同じ噺をどうアレンジして演ってみせるか、というのが腕の見せどころになる。代々受け継がれている噺がきちんとあって、それをどう演じるかが勝負なんだ。
 漫才の場合は同じネタでもそのときの客によって、リズムもテンポもガラッと変えるけど、落語ではあまり客の反応を意識することはないような気がする。
(中略)
 それよりも落語の場合は、自分の間合いにどうやって客を引き込むかが、大事なんじゃないかな。

引用元:ビートたけし(2012)『間抜けの構造』新潮社,第七刷,p.74

 落語は噺そのものの自分なりに解釈して間を決め、そこに客を引き込む。一方漫才は、客によって間を変える。この違いは、それぞれの演芸の特性もあるでしょうし、寄席でやるものとテレビでやるものという違いもあるでしょう。落語はすでに知っている話、昔からある話を使って笑わせるので、 演技性が強いものです。座頭市をいろいろな役者がこれまでに演じているようなものでしょう。

 一方、現在まで続くテレビ時代にメインに踊りでた漫才は、落語よりも客商売という面や、大衆性が強いです。客に合わせて柔軟に変化させることが求められてきます。また、話全体の流れは落語よりも薄く、その場その場でアドリブをしたり、ネタの方向を変えやすいこともあるでしょう。

 

 

 今度は、ラジオの話です。

 ラジオというのは音声だけなんだけど、制約がある分、身近に感じるメディアだね。そこが不思議で、聞いている人との距離も断然近く感じる。テレビからどんどん”間”がなくなっちゃっているから、その代わりにラジオというのはもっと評価されていいメディアだと思う。
 ラジオのことを「シアター・オブ・マインド」とはよく言ったもので、聴覚だけに訴えかける分、想像力というか”間”が生じる。下手したら、テレビ以上の興奮を得ることもできる。

 

引用元:ビートたけし(2012)『間抜けの構造』新潮社,第七刷,p.102

 確かにラジオには独特の間があります。有名人が大衆に向けて話をするという点ではテレビと一緒ですが、何か「秘密の話」「ここだけの話」を聞いている感じがします。パーソナリティーが自分だけに語りかけているような感覚です。また、テレビよりも自由度が高いですから、テレビでは耐えられないような「間」が許されるということもあります。

 例えばテレビにもじゃんじゃん出ている芸人のラジオは、テレビ以上に過激、あるいはディープな内容であることが多いです。よりマニアック、本当のファンに向けた内容になっています。

 余談ですが、youtubeの素人の動画なども、良いか悪いかは別としてテレビよりも「間」があります。今はその間が「質が低い」「つまらない」といったマイナスの評価になっていますが、上手く使えば良い「間」が生まれる可能性もあります。実際、素人が撮った「間の抜けた」動画に、テレビでは見られない面白さを感じることもよくあります。

 

人生における「間」

 

 

 

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