『Let It Bleed(レット・イット・ブリード)』ローリングストーンズ – レビュー[解説感想,評価,名曲]

『Let It Bleed(レット・イット・ブリード)』(1969年)
60年代のロック界の傑作!
★★★最高傑作★★★

スティッキー・フィンガーズ

『Sticky Fingers(スティッキー・フィンガーズ)』 – もくじ

  • アルバムレビュー・解説感想
    • アメリカ南部のルーツ・ミュージック
    • 大作ブルースとグルーヴ感
    • ベトナム戦争泥沼化と歌詞
    • ブライアンジョーンズ/オルタモントの悲劇
    • 収録曲/名曲を動画で試聴

  • 各曲解説・感想
    1. ギミー・シェルター
    2. Love in Vain
    3. Country Honk
    4. Live With Me
    5. レット・イット・ブリード
    6. ミッドナイト・ランブラー
    7. You Got the Silver
    8. Monkey Man
    9. 無情の世界

アルバムレビュー・解説感想

アメリカ南部のルーツ・ミュージック
ブルース一辺倒からの進化

 前作「ベガーズバンケット」ではバンドの方向性、つまりはルーツ回帰を果たし、今作はそれを一歩勧めた作りと言っていい。曲調を見ていくと#2はブルースカバー、#3でセルフカバーのカントリーアレンジ、#1,5,6,7のブルースナンバーとなっている。ここで注目したいのは#2でのデルタブルース、カントリーナンバーや#4でのボビー・キーズのサックスの大胆な導入など、南部アメリカのルーツ・ミュージックへの接近である。この傾向は前作でも一部見られたが、かつてのストーンズの「ブルース一辺倒」というスタイルからの変化が見られる。

 加えて、#4,8ではハード・ロック的な曲調も見られる。1969年といえばレッド・ツェッペリンが登場し、ザ・フーななども徐々にハード・ロックへと移行してきた時期だ。その流れに乗って曲調をハードに変えるのは自然な流れとも言える。本作ではまだ「さわり」程度だが、自作『スティッキー・フィンガーズ』ではハード・ロックの曲がいくつも見られるようになる。エレキギターの特異なミック・テイラーの加入も大きいだろう。ちなみにミック・テイラーは本作では#3,4で参加している程度。

大作ブルースとグルーヴ感

 ブルースナンバーで言うと、#5ではストーンズのブルースを完全に確立しており、イアン・スチュワートの軽快なピアノにキースのスライド・ギターが絡み合い、素晴らしい旋律を奏でている。見どころは後半戦。まず#6はではシャッフルビートのブルースが転調を取り入れた大作へと仕上がっている。いわゆる「グルーヴ」感が遺憾なく発揮され、恐ろしいほどのノリをもたらしている。続く#7のキース初のメインボーカル曲を挟み、ストーンズ最高傑作の一曲とも言っていい#8だ。ニッキー・ホプキンスとキースのギターが素晴らしい掛け合いを見せ、テンションの高いミックの歌が絡み合い、渾然一体となったサウンドが聞くものの高揚感を煽り、ストーンズのグルーブはここで頂点を迎えたと言ってもいい。後にも先にも、今作ほどの恐ろしいノリと気が狂いそうなグルーヴ感は他にない。

 当然ながらストーンズの最高傑作に挙げられるが、それにはおどろおどろしい歌詞も貢献している。それは事項で説明しよう。

ベトナム戦争泥沼化の社会背景
おどろおどろしい歌詞

 本作の歌詞を見ると、戦争・強姦・殺人(#1)、退廃(#5)、ドラッグ(#5,8)、猟奇殺人事件(#6)、というまさに暗黒の社会背景を移し出している。当時はベトナム戦争が泥沼化しつつあり、一方では反戦運動の名目でヒッピー文化が生まれ、フリーコンサートに集まってドラッグとセックスを楽しむという、まさに混沌とした世の中であった。

 かつてのサイケデリックロックのブームがヒッピー文化と結びついたのだが、ストーンズはもうサイケから足を洗っていたし、当時はすでにサイケブームは下火になっていた。ヒッピーの掲げる「自由と開放」の裏には、ベトナム戦争という現実があり、いよいよ現実から目を背けられなくなってきたのだ。

 戦争では各地で虐殺事件が起こり、テレビを通じて恐ろしい現実がアメリカ人の元に届けられた。それはストーンズのメンバーも同じであり、決して意図したものではないが、その影響が歌詞にも表れているというわけだ。

ブライアンジョーンズの脱退・死去
オルタモントの悲劇

 混乱していたのは社会だけではない。ストーンズは本作のレコーディングの前後最中で様々な変化の波にさらされる。レコーディングにはミック・テイラーが参加し、途中でブライアン・ジョーンズが脱退。間もなくブライアンは死去し、追悼コンサートを開く。そしてツアーの最終日、アルバム発売の翌日に主催したフリーコンサートで客が暴徒化し死者を出すという事件が起こる(オルタモントの悲劇)。

 まさに激動の一年である。バンドも社会も混乱していた中で、才能が溢れ出るメンバーが曲を書いたために、類まれな楽曲に混沌とした歌詞の乗った、60年代の終りにふさわしい傑作が完成したというわけだ。

収録曲/名曲を動画で試聴

【収録曲】
  1. ギミー・シェルター(Gimme Shelter)
  2. Love in Vain
    ロバート・ジョンソンのカヴァー。
  3. Country Honk
  4. Live With Me
  5. レット・イット・ブリード(Let It Bleed)
  6. ミッドナイト・ランブラー(Midnight Rambler)
  7. ユー・ガット・ザ・シルヴァー(You Got the Silver)
  8. Monkey Man
  9. 無情の世界(You Can’t Always Get What You Want)
【おすすめ曲・Youtube検索】

各曲解説・感想

1.ギミー・シェルター(Gimme Shelter)

 不気味なギターで始まるこの曲。当時泥沼化していたベトナム戦争にインスピレーションを得て、当時のアメリカ人が見た「ベトナム戦争」の印象を見事に表現している。陰鬱なメロディーを奏でるギター、無機質にザクザクとリズムを刻むギター、共にキースの演奏である。この曲のギターは一人で担当している。そこにソウル歌手のメリー・クレイトンの張り裂けんばかりの高音が乗り、楽曲はまさにドロドロとした旋律を奏でている。アルバム冒頭にふさわしいとんでもないインパクトを持った楽曲である。歌詞もおどろおどろしい

【歌詞解説(一部抜粋)】

Oh, a storm is threatening
My very life today
If I don’t get some shelter
Oh yeah, I’m gonna fade away

嵐が私の生活を脅かす
シェルターが無かったら
消えて無くなってしまう

War, children, it’s just a shot away
It’s just a shot away

戦争はそう、一発で始まってしまう
たった一発の銃弾で

Oh, see the fire is sweepin’
At our streets today
Burnin’ like a red coal carpet
A mad bull lost its way

見ろ、炎が私達の街を焼き払っていく
燃え盛る絨毯のようだ
猛牛が迷い込んできたんだ

Rape, murder! It’s just a shot away
It’s just a shot away

強姦、殺人。すぐそこだ
ちょっとしたことで始まってしまう

 ド直球で戦争である。終盤のニッキー・ホプキンスのピアノとミックのハーモニカも緊迫感を煽る。始めから終わりまで恐ろしく、そして素晴らしい曲である。

2.Love in Vain

 クロスロード伝説のロバート・ジョンソンのカバーである。

 原曲は1939年のデルタブルース、原曲にコードとメロディーを追加してブルース色は薄まっている。非常に美しい旋律を奏でており、別れの歌でありながらギミー・シェルターのドス黒さを薄めてくれる。

3.Country Honk

 今度は「ホンキー・トンク・ウィメン」のセルフカバー。タイトルの通りカントリー風のアレンジがなされている。アルバムの中で数少ないミック・テイラー参加曲である。ブルースに続いてカントリーと来て、前作と同じくルーツ・ミュージックをやろうという意図が見える。

4.Live With Me

 キースがリードギターとベース、ミックテイラーがリズムギター、そしてサックスのボビー・キーズが初参加という曲である。ボビー・キーズは自作でも大活躍であり、今後ストーンズに欠かせない存在となる。中盤で見せるソロは素晴らしく、楽曲をハード・ロックとも言える仕上がりにしている。この曲調は自作で大きくクローズアップされる。

5.レット・イット・ブリード(Let It Bleed)

 タイトルナンバーであるブルース・ロックの名曲。イアン・スチュワートがアルバム唯一ながら素晴らしいピアノを披露して、最後まで曲を引っ張る。メロディ部分のミック・ジャガーの歌唱も素晴らしい。遅れて登場するサビにかけてのキースのスライド・ギターが入り、いよいよ曲は盛り上がりを見せる。後半は半ばジャムセッションのようになり、なだれ込みながら最後を迎える。踊り狂うピアノとハイテンションのミックのヴォーカルが素晴らしい。

 歌詞はドラッグが出てくるということで平常運転だが、「人には誰か寄りかかる者が必要だ」と女に語りかける怪しい男が登場するが、結局女に寄りすがる。情けなく退廃的な感じが、なんともブルースっぽい。

【歌詞解説(一部抜粋)】

Well, we all need someone we can lean on
誰も皆、寄り掛かる人が必要で
And if you want it, you can lean on me
君もそうしたいなら、こっちにおいで
Yeah, we all need someone we can lean on
誰かが必要なんだ
And if you want it, you can lean on me
君がそうしたいなら、どうぞ

She said, “My breasts, they will always be open
ある女が言う「私の胸なら、いつでもあいてるわよ
Baby, you can rest your weary head right on me
考えすぎて疲れたんなら、私に寄りかかって休んでいいわ
And there will always be a space in my parking lot
駐車場はいつでも空いてるわ
When you need a little coke and sympathy”
コカインと同情が欲しい時はいつでもいらっしゃい

We all need someone we can feed on
誰だって、食わせる相手が必要なんだ
And if you want it, well you can feed on me
君でいいなら、俺がそうしてやるからさ
Take my arm, take my leg, oh baby don’t you take my head
腕も取って、脚も取って、頭はいらないのかい?

Yeah, we all need someone we can bleed on
誰も皆、そう、血を流したいんだ
Yeah, and if you want it, baby, well you can bleed on me
君がそうしたいなら、俺のために血を流してくれ
Yeah, we all need someone we can bleed on
誰かのために血を流したいんだ
Yeah, yeah, and if you want it, baby, why don’cha bleed on me
だからさ、君もそうしなよ、俺のために
All over
皆のために

 このアルバムは徹頭徹尾「退廃」している。まさにストーンズの真骨頂である。

6.ミッドナイト・ランブラー(Midnight Rambler)

 ブライアン・ジョーンズがコンガで参加している。ギターはキースのみで、ミックはハーモニカを前編に渡って演奏。7分に迫る長編ブルースは、シャッフルビートで構成され、徐々にテンポが上がっていく。中盤でのテンションの高さは素晴らしく、いわゆるストーンズ特有のグルーヴ感がこれ以上なく醸し出されている。4分ほどで曲が終わるのか思わせて、テンポが急激に落ち込み、蚊の鳴くような演奏を挟んで最初のテンポに戻り、曲は終焉を迎える。アフターマスの「ゴーイン・ホーム」の発展系などとも呼ばれる。ストーンズの曲の中でもノリの良さでは随一の名曲である。

 歌詞は当時ボストンで起きた猟奇的殺人事件の犯人について。歌詞はそれほどでもないが、相当な残虐な事件であり、この独特のグルーヴに乗せて事件を歌ったと想像すれば、なんともおかしな気分になる。

7.You Got the Silver

 キースが初めてメインヴォーカルをとった記念すべき曲。以降のストーンズのアルバムではほぼ一曲はキースがヴォーカルをとる。この時点ですでにかなり渋く、彼の虜になるファンが増えただろうこと想像できる。キースはこのシンプルなスタイルを延々と続けていく。ルーツを常に忘れず、ずっと同じことをし続けるのが彼のすごさである。

8.Monkey Man

 アルバム中、キャリアの中でも傑作と言えるこの曲。ミッドナイト・ランブラーを凌ぐグルーヴ感で聞くものをノックアウトする。これほどの曲をどうやって作ったのか聞いてみたいものだが、歌詞は麻薬中毒者について。やはりそういうことかと思ってしまう。はっきり言ってこんなエグいノリの曲、まともな神経してたら書けないだろう。天才が薬で精神開放すると、傑作ができるというわけだ。ジョン・レノンしかり。

 終盤で見せるニッキー・ホプキンスのピアノとキースのギターの掛け合いはもう鼻血が出そうになるくらいすごい。低音で一定のリズムを刻み続けるチャーリーのドラムもこれに貢献している。ミックも発狂してるのかというテンションの高い歌唱を披露。

9.無情の世界(You Can’t Always Get What You Want)

 ここまでどろどろした曲とおぞましい歌詞を並べておいて、最後はこれである。ゴスペル風の合唱がきて、きれいなメロディーに非常に前向きな歌詞。これはストーンズ流の「ジョーク」なのだろうか。一体どういう理由でこのシングル曲を最後に持ってきたかは知らないが、いずれにしても「正解」であることは間違い無し。

 ある人は「明るく前向きな歌こそ最も恐ろしい」と、サイケデリック的な感想を述べるだろう。一方で、この明るい曲をそのままストレートに受け取っても良い。それはある意味で諦めである。ベトナム戦争にヒッピー、麻薬とフリーセックスと反戦運動という混沌とした当時の社会は、もはやまともに受け止めるより「そういう時代だ」と受け止めるしか無い。そういう意味で、最後は明るい曲をやって全部忘れよう。諦めようよいうわけである。

 ちなみにこの曲はファンに愛されライブで演ると盛り上がる。一方でキースとミックは「なぜこの曲が人気があるのかさっぱりわからない」と何度もコメントしている。こうなってくるともはやこの曲の存在の真相は藪の中である。しかし繰り返すが、ラストにはこの曲しかなかった。素晴らしい締めくくりである。