「スポーツの品格」(桑田真澄/佐山和夫)のレビュー・感想

2017年11月3日

高校野球のあり方からスポーツ科学、東大野球部のコーチ経験まで!

スポーツの品格 (集英社新書)

スポーツの品格 (集英社新書)

「スポーツの品格」目次

第1章 「暴力」との決別
(体罰否定の根底は自身の体験/後輩のエースへの嫉妬 ほか)
第2章 「勝利至上主義」を超えて
(なぜ「勝者にすべてを与え る」のか/「勝利の喜び」と「勝利を目指すプロセス」 ほか)
第3章 「東大野球部」を指導する
(一〇〇〇回の間違った練習より、一〇〇回の正しい練習 /自分のイメージと実際の動きのギャップを知る ほか)
第4章 「新しいスポーツ観」を構築する
(アメリカの高校野球を見て/WBCの意義は、切磋琢磨 による競技力の高まり ほか)

(「スポーツの品格(集英社新書)」(楽天ブックス)より)

 

 

もくじ

 

高校野球(学生野球)のあり方

 本書は桑田真澄氏と佐山和夫氏の対談形式になっています。まずは「第1章『暴力』との決別」「第2章『勝利至上主義』を超えて」から、高校野球のあり方全般について、気になったところを紹介していきます。

「主役は監督」というイメージ操作

  • 私が奇妙に思うのは、甲子園大会のテレビ中継がありますね。そうすると、盛んにベンチの監督を映すわけですよ。(中略)「これは全国高校野球選手権じゃなくて、全国高校野球監督選手権じゃないか」って言いたくなるゲームだって、実際にありました。[佐山]
  • たとえばピンチになったとき、選手たちが集まって「おい、どうやって切り抜けようか」と相談して知恵を出す、というところがゲームの妙味であるはずなんですが、実際は、ピンチになったら監督の指示を仰ぐという形になっている。(中略)そういう癖がついてしまうと、選手はその後の人生において、何か困ったことが起きたときに、いちいち誰かの判断を仰いでからでないと動けない、ということにはなりはしませんか。[佐山]

「負けたら終わり」のトーナメント制を再考せよ

  • 結論から言いますと、僕は、高校生の大会もリーグ戦で行うべきだと思っています。トーナメントの大会も年に一回くらいあってもいいと思いますけれども、そのときは、日程をちゃんと考えたうえでやらないといけない。[桑田]
  • たしかに僕は、甲子園のマウンドで、ほかのどのピッチャーよりもたくさん投げたと思います。でも、大会が終わったら一ヶ月ボールを握らないとか、いろいろと工夫して肩や肘を壊さないようにケアしていました。ピッチング練習も毎日はしなかったし、投げ込みもほとんどやらなかったですね。あと、体が疲れているなと思ったら、監督に「ランニング行ってきます」と言って、隣接するゴルフ場まで走っていって、そこで二時間くらい昼寝していました。[桑田]

ひじの曲がった小学生

  • アメリカの場合、NCAA(全米大学体育協会)には、試合を含めてスポーツ活動をする時間は「週20時間まで」という規定があります。[佐山]
  • 整形外科に行くと、小学生が、僕がプロになってからやった手術を受けている。そういう例がたくさんあります。(中略)この間も、あるトレーナーのところにいたら、子どもが来たんです。明らかにひじが曲がっているから「どうした?」と聞くと「明日、試合なんです」と言うんですね。[桑田]

(「スポーツの品格 (集英社新書)」第一章、第二章より)

 まず監督と選手の関係についてです。指示待ち野球の弊害は、未知の場面で自ら考える力を奪うというのは納得です。自ら考える癖がつけば、日本人の苦手な「初対戦の相手」、あるいは「新しい舞台」でも実力を発揮できるようになると思います

 トーナメント制については、小中学生では賛成です。高校野球は人気もあってすぐには難しいでしょうが、せめて日程にかなり余裕をもち、球数制限もすべきだと思います。WBCで採用されていた球数制限と、先発投手の連投禁止のルールなどがいい例です。高校野球で痛み止めの注射をして試合に出たという話をよく聞きますが、冷静に考えるとかなり異常なことです。ひじの曲がった小学生の話も、聞いていてゾッとします。

 それと、桑田さんの高校時代の話は面白いです。根性野球の時代、しかも強豪のPL学園にあって、桑田さんはこのような工夫を他にもいろいろしていると、本書やその他の著書で語っています。これくらいしても桑田選手は現役時代にひじを壊していますから、どれだけ無理を指定たかが伺えます。

 

 

「第3章『東大野球部』を指導する」より

 桑田さんは2013年1月に東京大学硬式野球部にて臨時コーチに就任しました。そこで実際にどのような指導をしたかが、本書の中で紹介されています。

自分のイメージと実際の動きのギャップを知る

  • まず、自分のイメージと実際の動きにギャップがあることを知るのが大切です。そのうえで、ギャップを埋めるには何が必要かということを探っていく。具体的には、まず映像を見ることです。[桑田]
  • 東大のピッチャーとも、彼らが打たれた映像を見ながら話をします。「今のボールどこに投げた?」、「真ん中ですね」。「みんな真ん中周辺だろ? 真ん中じゃなくてアウトローに投げたら抑えられると思わないか? どうして、アウトローに投げる練習をやらないの?」と。[桑田]
  • 「おまえ、バッターだったら、初級にアウトローにきたら打つか?」、「打ちません」。「なんで打たないの?」、「だって、打ってもヒットになる確率が低いじゃないですか。もったいないですよ」。「じゃあ、逆にピッチャーの立場で考えてみようよ。なんで初球からアウトローに投げないの。(中略)」[桑田]
  • 「いまから10球投げて、アウトローに何球行くかやってみよう」(中略)「練習で10球投げて、8球くらいアウトローへ投げられるようになったら、試合でも10球のうち4球くらいはいくようになるよ。そうしたら神宮でも試合がうつくれるようになる。それを目指してやってみよう」[桑田]

質問に来た時点で「50%クリア」

  • 個々の選手の細かい部分について、僕から何か言うことはしません。(中略)心のなかでは思いますよ。「あ、この子にこういうことを言ってやりたいな」って。でも、向こうから来るまでじっと待つようにしています。それで、僕のところに質問に来た時点で、その選手は「50%クリアだ」と思っているんです。[桑田]

命令ではなく語りかける

  • 選手と対話するときは、頭ごなしに命令するのではなく、いろいろなことを語りかけています。(中略)「いまの、ええボールやなあ。最高だよ。あそこにもう1球、同じように投げるにはどうすればいいと思う?」と自分で考えるように促します。[桑田]

アウトローとインローについて

  • (アウトローに投げることの難しさについて)
    プロでも難しいです。だいたい、力んで投げてたら、右投手だったら右打者のインハイにいきますから。(中略)僕は現役時代、それを利用していました。ここはインハイに投げておきたいな、というときは、わざと力んで投げる。そうしたら、自然とインハイへいくわけです。反対に、アウトローに投げるときは、全力で投げてはいけない。(中略)力の入れ方ではなく、バランスを考える。[桑田]
  • 自分の高校時代を思い返しても、配給はとにかくアウトローのストレート中心でしたからね。それでバッターが踏み込んできたな、と思ったときにはインコースへ投げて、タイミングが合ってきたらカーブを投げて。[桑田]

シュート回転するピッチャーへの指導方法

  • 「シュート回転するんだったら、そのボールを軸にしようよ。だから、君の場合は、右バッターのアウトローじゃなくて、インローにいつでも投げられるように練習をしてみたらどうかな」って。(中略)それでしばらく練習していたら、インローのコントロールがつくようになったんですが、そうしたら「シュート回転しなくなりました」と言うんですね。インローに投げるという「目的」に従って練習していたら、体重移動がしっかりしてバランスがとれるようになった。その結果、フォームに「軸」ができたということだろうと思います。

(「スポーツの品格 (集英社新書)」第三章より)

 桑田さんの指導方法は、「選手に考えさせること」、「発想の転換をすること」が特徴です。投手の立場ではなく打者の立場から考えたり、シュート回転を直すのではなく活かすというところが、非常にわかりやすいです。

 また、選手へ投げかける言葉は、野球にかぎらず、例えば子どもにしつけをする際にも非常に役立つと思います叱ったり、命令したり、強制したり、あるいは親がすべて教えてしまうのではなく、自分で考えさせる。これをするだけで、子どもはやみくもに反発しませんし、納得した上で知識を身につけることができると思います。

 問題があれば「どうすればいいか?」そこから出発して、常に自分に問いかける姿勢。それが様々なところで成長につながっていくのだと思います。