「蜘蛛の糸」(芥川龍之介)のあらすじ[考察,解説,感想]

2015年2月8日

お釈迦様が地獄へ糸を垂らすという、おなじみの童話

蜘蛛の糸・杜子春 (新潮文庫)

もくじ

 

 

あらすじ

 ある朝、極楽にいるお釈迦様は、蓮の池のふちをのんびり散歩していました。蓮の池の下は地獄の底へ通じており、お釈迦様はそこから地獄の様子を覗きます。するとそこには、多くの罪人とともに、人殺しや放火などの悪事を働いた大泥棒の「カンダタ」がいました。彼はしかし、生前にたった一つだけ善いことをしました。それは、道端の蜘蛛を見つけて踏み殺そうとした際、「無闇に命を奪うのは可哀想だ」と、助けてやったことです。

 お釈迦様はふと、そのことを思い出し、善い事をした報いに、カンダタを救ってやろうと考えます。そして、蓮の葉の上にかかっていた蜘蛛の糸を手に取り、地獄へと垂らします。

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クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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 地獄の底では、責苦に疲れ果てたカンダタが、血の池でもがいていました。カンダタは何気なく空を見上げると、闇の中から銀色の細い糸が垂れてくるのを見つけます。彼は手を叩いて喜ぶと、早速糸をつかんで登っていきました。しかし、大泥棒のカンダタとはいえ、極楽までは何万里(1里≒4km)とあっては、簡単にたどり着くことはできません。彼は糸の途中にぶら下がって一休みします。

 ところが、ふと気がつくと、糸の下の方で、無数の罪人が蟻のようによじ登ってきていました。カンダタは糸が細いのを心配し、自分の身を案じて、罪人たちに「下りろ」と叫びます。その途端、ちょうど、カンダタのぶら下がっていたところから糸が切れ、彼は再び地獄に落ちてしまいました。

 カンダタが血の池の底へ沈んでいくのを見て、お釈迦様は悲しそうな顔をして、再び散歩を始めます。お釈迦様は、自分だけが助かろうとしたカンダタの無慈悲な心と、その罰として地獄へ落ちてしまったことを、浅ましく思ったようです。

 しかし極楽の蓮池の蓮は、そんなことなど気にせず、相変わらず美しい色形で、良い香りを辺りに振りまいていました。

 

「蜘蛛の糸」の原典

 この話には原典となる作品があります。アメリカのポール・ケーラスという文学者の著書である『カルマ』、その中の同じく「蜘蛛の糸」という作品です。これがアメリカで発表された後、かのロシアの作家トルストイの目に止まってロシア国内で翻訳されるなどし、その流れで日本でも『カルマ』が刊行されました。

 しかし蜘蛛の糸と似た話が、ドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」のにも「一本の葱」として登場しており、以前はこちらが芥川の蜘蛛の糸の原典と思われていたそうです。ただ、どの話においても筋はほとんど一緒です。そしてどれも、テーマとして、どんな人間にも慈悲の心があることと、人間はエゴイズムによって破滅するということが描かれています。詳しい話は、「参考文献」のところで示してある、新潮文庫の解説に載っているので、気になる方は読んでみて下さい。

 

考察(解説)

気まぐれなお釈迦様

  さて、あまりに有名な話なのでわざわざ考察するまでも無いですが、一つ気になったことが。それは、お釈迦様がなんとも気まぐれだということです。散歩がてらたまたまカンダタを見つけ、ふと彼の生前の話を思い出し、偶然そこにあった蜘蛛の糸を垂らすというところからして、かなり気まぐれです(笑)。ただ、お釈迦様というだけあって、人間がぶら下がっても切れないような糸を垂らすわけです。このへんはさすがでしょう。しかし、カンダタのエゴによって糸は切れてしまいます。

 問題はその後です。お釈迦様は助けてやろうとすればできただろうに、悲しい顔をしただけで、あとは再び散歩を始めてしまいます。そして、最後にはあいかわらずのどかな極楽を象徴するように、蓮の姿が描かれます。

 

 無神経なお釈迦様

  ここまで見ても、やっぱりお釈迦様は気まぐれでカンダタを助けたとしか思えません。さらに言えば、エゴを出せば切れるような糸を、悪人に向けて垂らすというのは、なんとも無神経ではないでしょうか。いや、むしろ無神経ではなく、糸が切れるのを知っておきながら、あえて垂らしたように思えます。

 ただ、それも含めて、お釈迦様らしいと言えばらしいです。おそらく、お釈迦様は、結果が十中八九わかっていても、それでも悪人に手を差し伸べるほど、慈悲深いということでしょう。さらに、そのために悪人が一喜一憂し、結局は地獄に再び落ちてしまっても、そんなことは気にしないような、そんな大きな存在というわけです。

参考文献・作品情報

参考文献

作品情報

【年月】

  • 1918年(26歳)7月発表
  • 横須賀での英語教師を経て、鎌倉に移った後の作品。童話でおなじみ。

【ジャンル】

  • 「児童文学もの」「少年もの」

【テーマ】

【ページ数】

  • 7ページ(新潮文庫,2012)