映画監督「北野武」のまとめ・年表[おすすめ作品,代表作]

2018年3月8日

アメリカ進出と国内でのヒット作誕生
エンターテイメント3部作の時代

BROTHER』(2001年1月27日公開)
ハリウッドの手法を導入!
骨太なハードボイルドの傑作!

基本情報
■北野武監督がハリウッドに殴りこみ!

 本作の最大の特徴はアメリカ市場への意識。海外ロケを始め、現地ではハリウッドの手法に則り、シンプルなストーリーと娯楽性の追求など、これまでにない映画づくりにチャレンジした意欲作となっている。

 結果として、北野映画の特徴を出しつつ、アメリカナイズされたシンプルなハードボイルド作品として非常によくまとまった映画となっている。北野監督が語るところによれば、日本のヤクザがアメリカに渡って黒人やメキシコ系のマフィアと組み、強大なイタリアンマフィアに挑むという構図がある。ここもアメリカ進出の上で面白い切り口である。

『BROTHER』の解説

北野監督のインタビュー等

この映画は、イギリス人プロデューサー、ジェレミー・トーマスの支えがなかったら実現しなかったと思う。彼のことはすごく評価してるよ。(中略)「戦場のメリークリスマス」を制作したのが彼だったから、よく知ってるんだ。彼とはね、「HANA-BI」でロンドン映画祭に招待されたときに再会したんだけど、すごくよかった。夢中になって観たって言ってくれてね。それからも連絡を取り合っていて、「BROTHER」で是非ともコラボレートしたいって言ってくれたんだ。

引用元:「Kitano par Kitano 北野武による「たけし」 (ハヤカワ文庫)」より

 娯楽映画になってるとは思うんだけども。単に娯楽映画だけになるのはイヤだから、どうにか抵抗したって感じだね

「ソナチネ」で失敗したとこちゃんと入れたっていうのはあるよ。だから「ソナチネ」の完成版ていうか(中略)車でエンジンとか足回りはいいんだけど、他が駄目だっていうのがあって、その部分を少し大衆的にしてよくなったって感じなんだ

引用元:「武がたけしを殺す理由」より

Dolls」(2002年10月12日公開)
伝統芸能と色彩美の作品!
ロシアにて異例のロングラン!

基本情報
  • 監督・脚本:北野武
  • 出演者: 菅野美穂西島秀俊
  • 音楽:久石譲
    ※北野映画への参加は今作が最後
  • ロシアにて大ヒットを記録。以降、ロシア国内でのCM出演や講演会、2008年にはモスクワ国際映画祭の特別功労賞を受賞するなど、ロシアでの知名度は非常に高い。
  • 国際映画祭での上映:ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門
■日本の四季と色彩美!ロシアで2年のロングランを記録したラブストーリー「Dolls」

 本作は3組の男女の物語を同時進行で描いていく構成となっている。なにより注目すべきは人形浄瑠璃の映像とストーリーを取り入れた点と、北野映画の中でも屈指の色彩美。別の作品からのテーマの拝借や、様々な色を鮮やかに描くというのは、どちらも北野映画においては前例のないもの。全作に引き続き新しいテーマへの挑戦がうかがえる。

 自作『座頭市』も含めて、この頃の北野監督は、自身の映画のバリエーションを広げようという時期だったとかんがえられる。実は、この頃の映画の手法は後になって様々な映画で再登場する。『BROTHER』は後のアウトレイジシリーズに通じるところがあり、本作はの色彩美は『アキレスと亀』で活かされる。そういった意味でも、2000年代後半以降の北野映画を見る上でも重要作が多い。

 話がそれたが、そういった背景を抜きにして、この頃の作品は完成度が非常に高い。監督としての才能の絶頂期だと、個人的に感じている。

『Dolls』の解説

北野監督のインタビュー等

これまでに何度かコラボレートしていて、一緒に仕事をするのがすごく楽しい相手で、「BROTHER」の衣装も手がけてくれたファッションデザイナーの山本耀司さんが、「Dolls」の衣装を引き受けてくれたの。

それまで俺が撮ってきた映画には、あんまり色がなかった、っていうよりモノトーンの世界の繰り返しっていうか、ほとんどモノクロームと言っていいくらいだった。俺の映画のほとんどには”キタノ・ブルー”がつきまとってたからね。それを一回壊してみたかったんだ。鮮やかない色、画面上にきらめく色、本当に美しい色彩を撮ってみたいっていう、それも、この企画の動機のひとつだったね。

引用元:「Kitano par Kitano 北野武による「たけし」 (ハヤカワ文庫)」より

座頭市」(2003年9月6日公開)
最高のエンターテイメント作品!
リメイク作品のお手本!

基本情報
■ミュージカルと時代劇の融合!タップダンスに金髪の、新時代の座頭市!

 北野映画の中でも、最も娯楽映画に徹しているのがこの作品だろう。リメイク作品ということもあるが、セリフが多く、客が観やすいような作り方が徹底されている。北野映画を見慣れている人にとっては「ちょっとセリフが多いな」と思うほど。しかしこれも狙いがあるのだろう。あえて典型的なものをやっておき、それをどう壊していくか? そこで自分の色を出すというわけだ。

 この映画は和風ミュージカルといった斬新な手法をとっている。象徴的なシーンは農民のタップダンスだろう。加えて「音」を強調した作品作りも見られる。座頭市は目が見えないから、世界は音で構築されているはずだ。それを映画の中で表現し、作品全体を通した表現方法の軸としている。

 時代劇のリメイクであり、元祖の座頭市は名優勝新太郎。それを壊して新鮮さを出すには、普通の表現の仕方では不可能。そこで、タップダンスに金髪の座頭市が生まれた。ストーリーだってすでにみんな知っているから、あえて表現方法に焦点を当てた作品とした。この辺に、北野監督の器用さやセンスが垣間見える。何はともあれ、非常に面白い作品。

『座頭市』の解説

北野監督のインタビュー等
  • HANA-BI」でベネチア国際映画祭の金獅子賞をもらって、「座頭市」で銀獅子賞をもらってから、日本では、俺はタレントとしてだけじゃなく、映画監督として認識してもらえるようになった。本当に、このふたつの賞のおかげで、いろんなことが変わったよね。(中略)「座頭市」は俺の存在を世に知らしめる役割を果たしてくれたっていうかね、それまでの努力のたまものだね。
  • 「座頭市」は依頼された作品だったからね。映画を依頼されて引き受けるのは、これが初めてだった。でも、このチャンスは逃したくないって思った。
  • 「座頭市」で初めて、自分にとって娯楽とは何かっていう、真のコンセプトを自由に表現させてもらったと思う。(中略)映画の出だしから”これは娯楽だ”って観てる人にわかってもらいたかったわけ。西洋の批評家たちは、これは”和製ウエスタン”だって書いてた。これは当たってるよね。

引用元:「武がたけしを殺す理由」より

自己投影の3部作
大学教授就任と功労賞の時代

2005年

TAKESHIS’」(2005年11月5日公開)
「芸術」「自己投影」3部作のスタート!
北野映画史上最も死に迫った作品!

基本情報
「芸術」「自己投影」3部作のスタート

 撮影当初、北野監督はスランプのような状態に陥る。国内と国外での評価の差に悩み、原因不明の体調不良にも陥る。その葛藤の中で「自分自身の映画を壊す」という手法を模索していく。その結果、北野映画史上最も難解で、最も死の色が強い、生の香りのない作品となっている。

 芸能界のスターであるビートたけしと、役者を目指す中年のコンビニ店員北野。これは芸能界で成功し海外では映画監督として高い評価を受ける自身と、その一方では思い通りにならない人生でもがく冴えない自分である。自己の二面性を投影した2人の人物が登場し、冴えない自分がビートたけしの生活に侵食していく。「こっちの方が本物なんじゃないか」と問いかけているようにも見える。監督自身「タイトルの『TAKESHIS’』は『たけ(武)、死す』とも読める」と語っており、何か因縁めいたものを感じていたようだ。

 「HANABI」で世界的名声を得て、その後の3作ではエンターテイメントに舵を切った。そして、本作からの3部作(「監督ばんざい」「アキレスと亀」)では映画監督としての自分を見つめなおし、実験的な手法、自身の作風の破壊、最後は芸術の純粋性へとたどり着き、「アキレスと亀」にて「芸術は続けることに意味がある」という境地にたどり着く。

2007年

監督・ばんざい!」(2007年6月2日公開)
混迷が覗える北野映画史上最高の駄作!
もはやファンすらも楽しめない破滅的作風!

基本情報
2008年

アキレスと亀」(2008年9月20日公開)
苦難の末にたどり着いた大作!
「芸術は続けることに意味がある」

基本情報
北野映画の総決算的作品

 「TAKESHIS’」からの2作は、北野監督の試行錯誤する過程を無理やり作品としてまとめた感があった。賛否両論、いや、実際のところ2:8くらいで批判を浴びせられていた。その一方で、2005年からの3年間は、芸大の教授になったり、各国の映画祭で功労賞を受賞したりと、映画監督としての地位と名誉を確固たるものにしていた。

 そんな試行錯誤の時代のラストが「アキレスと亀」。当時映画館で鑑賞した時は、ベテラン監督らしい作品の濃さに圧倒された。初期で顕著に表れていた芸術性、中期のエンタメ性、そしてここ数年のテーマであった自己の作品の破壊と芸術への問いかけ。その三つがこの作品に集約されている。そして、本作にて北野監督は「芸術は続けることに意味がある」という答えを導き出す。「アキレスと亀」というパラドックスを用いてそのテーマを描く点は非常にセンスを感じる。

 ひとつ印象に残っているのは、あくまでも真面目な内容の中に、笑えるシーンがいくつかあるという点。シリアスな物語なのだが、一歩引いて見てみると思わず笑ってしまうようなシーンがある。前半は芸術を志す純粋な青年とその恋人の物語。後半は年老いた変わり者の「芸術家夫婦」のコメディ。そんな見方もできる作品だ。