『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』のレビュー・感想

「人は変われる、幸福になれる」。アドラー心理学で対人関係を見直す!

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

もくじ

『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』のもくじ

 

内容説明

本書は、フロイト、ユングと並び「心理学の三大巨頭」と称される、アルフレッド・アドラーの思 想(アドラー心理学)を、「青年と哲人の対話篇」という物語形式を用いてまとめた一冊です。欧米で絶大な支持を誇るアドラー心理学は、「どうすれば人は幸 せに生きることができるか」という哲学的な問いに、きわめてシンプルかつ具体的な“答え”を提示します。この世界のひとつの真理とも言うべき、アドラーの 思想を知って、あなたのこれからの人生はどう変わるのか?もしくは、なにも変わらないのか…。さあ、青年と共に「扉」の先へと進みましょう―。

目次

第1夜 トラウマを否定せよ
知られざる「第三の巨頭」
なぜ「人は変われる」なのか ほか

第2夜 すべての悩みは対人関係
なぜ自分のことが嫌いなのか
すべての悩みは「対人関係の悩み」である ほか

第3夜 他者の課題を切り捨てる
承認欲求を否定する
「あの人」の期待を満たすために生きてはいけない ほか

第4夜 世界の中心はどこにあるか
個人心理学と全体論
対人関係のゴールは「共同体感覚」 ほか

第5夜 「いま、ここ」を真剣に生きる
過剰な自意識が、自分にブレーキをかける
自己肯定ではなく、自己受容 ほか

引用元:嫌われる勇気 / 岸見 一郎/古賀 史健【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア

 

『嫌われる勇気―自己啓発の源流「アドラー」の教え』のおすすめポイント

 

【扱うテーマは実践的】

  この本の最大のテーマは、「幸せになるにはどうすればいいか?」です。そのために、「人間が変わるためにはどうすればいいか」を考えていきます。アプローチとしては、「あらゆる悩みは対人関係から起こる」ということで、対人関係における心の持ち方から幸福を追求していきます。

 対人関係においては、「自分の考えを持てないこと」「他人の目を気にしすぎること」が大きな問題となります。日本人の国民性とも言っていい部分ですが、これこそあらゆる悩みの種だと著者は語ります。また、他人の期待に応えるだけの生き方を否定します。他人の期待を過剰に意識することは、裏を返せば誰にも嫌われたくないということで、ここから本書のタイトルが生まれます。つまり、「嫌われる勇気」です。嫌われる勇気を持つことこそ、幸福への第一歩、健全な人間関係への第一歩というわけです。いきなりそんなことを言われても納得いかないでしょうが、本書を読めば理にかなった考えだとわかります。

 あくまで心理学の本ですが、アドラー心理学は根っこの部分にギリシア哲学があり、一方でアメリカの自己啓発の分野にも影響を与えているでしょう。ですから、本書の内容は哲学的でもあり、自己啓発本にも似ています

 

【対話形式でわかりやすい】

 この本の特徴は、なんと言ってもその形式です。始めから終わりまで、哲学者と青年の対話篇(対話形式)で進んでいきます。そもそも、この本が書かれるきっかけは、著者の一人であるフリーライターの古賀史健さんが、若いうちにアドラー哲学に興味をもったことに始まります。そして、実際に哲学者の岸見一郎さんに会い、研究室に通い詰め、そこで行った哲学談義をまとめたのがこの本です。また、この対話篇は古代ギリシア哲学の古典的手法の一つでもあります。

 対話形式のメリットは、何より先ず読みやすいことでしょう。加えて、難しい話でも、道筋を追って少しずつ理解していけます。一般的な本と違って、誰かの会話、あるいは話を聞くようにして、飽きること無く読むことができます

 

【マイナス思考の青年と哲学者の激しくも知的な議論】

 対話形式であっても、会話が単調であったり、対話する2人のキャラクター性が無いと飽きてしまいますが、この本はその辺もしっかりしています。哲学者は博学であり、寛容で温和な性格の持ち主です。ただ、時折大胆な言葉を投げかけるといった面白さがあります。一方青年は、大学を卒業して図書館司書を している20代という設定で、いわゆる「モラトリアム」な 人間です。否定的、悲観的、消極的、マイナス思考の人間と言ってもいいでしょう。能力は決して低くはないものの、その性格のために自分、自分の人生、そし て周りの世界に不満を抱えています。

 この2人が、アドラー心理学を軸として、悩み、コンプレックス、人間関係、人生といったことを議論していきます。

 

【本格的な内容で、基礎知識の修得にも役立つ】

 アドラー心理学にはこの本で初めて触れましたが、初心者にもわかりやすく、要点もすっきり整理されています。本書はアドラー心理学の入門書に位置づけられますが、入門書で大事なのはわかりやすさと要点整理です。この本では、要点やキーワードはあらかじめ太字で強調されているので、後から確認するのに非常に便利です。また、太字のチョイスもかなり的確です。

 

本書の要点抜粋

 ここでは、本の内容が少しでも伝わるように、本の中の文章をいくつか抜粋していきます。いずれも力のある「名言」です。

人は変われる。幸福になれる。(第一章より)

【人が変わるためには】
  • 過去の「原因」ではなく、いまの「目的」を考える(p.27)
  • 人間は自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定する(p.30)
  • 大切なのは何が与えられているかではなく、与えられたものをどう使うかである(p.44)

 アドラー心理学では「人は変わることができる」と言います。その上で大切なポイントが上の3つです。例えば、「過去にこういう経験があるから、今の自分はこうなのだ」と考えるのではなく、「自分はこうありたい。過去の経験はその目的のためのものであり、経験から何かを学ぶべきだ」と考えるのです。

 

 

【変われない原因、不幸の原因】
  • いまのあなたが不幸なのは、自らの手で「不幸であること」を選んだから(p.45)
  • あなたが変われないでいるのは、自らに対して「変わらない」という決心を下しているから(p.51)

 過去やそこでの経験は、人間が自ら意味を与えることができ、それをどう使うかは自由です。そう考えれば、人間には選択肢が与えられています。幸福になるのも、不幸になるのもその人次第ということです。そして、不幸になったのは、過去の経験にマイナスの意味ばかり見出してしまったためで、それは無意識のうちに自ら不幸を選んだのと変わりないということです。

 不幸ならば「変わればいい」と思いますが、そう簡単にはいきません。変わることでその先に幸福があるのは確かですが、たとえ不幸でもその状況に長くあると、居心地の良さを感じてしまいます。その居心地の良さのために、人は仮に不幸であっても「変わらない」決心をしてしまうのです。

 

人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである(第二章より/p.71)

【劣等感について】
  • 我々を苦しめる劣等感は、「客観的な事実」ではなく、「主観的な解釈」である(p.76)
  • 劣等感は悪いものではないが、劣等感をある種の言い訳に使いはじめる(=劣等コンプレックス)と問題がある(p.82)
  • 更に悪いのは、あたかも自分が優れているかのように振る舞い、偽りの優越感に浸る(=優越コンプレックス)こと(p.86)
  • 自慢は劣等感の裏返し、不幸自慢というものもある(pp.87-88)

 ここでは、劣等感を例にあげて、そこから生まれる好ましくない思考や言動を説明しています。ただ、劣等感はその受け止め方さえ間違えなければ、決して悪いものではないのです。主観的な解釈であるため、自分の解釈次第でプラスに導くことができます。その説明は、以下に続きます。

  • 健全な劣等感とは、他者との比較の中で生まれるものではなく、「理想の自分」との比較から生まれるもの(p.92)
  • いまの自分よりも前に進もうとすることにこそ、価値がある(p.93)

 他者との比較をせずに、あくまで自分が前進するという姿勢が重要というわけです。

 

 

【勝ち負けと怒りについて】
  • 対人関係の軸に「競争」があると、人は対人関係の悩みから逃れられず、不幸から逃れることができない(p.95)
  • 「人々はわたしの仲間なのだ」と実感できていれば、世界の見え方は全く違ったものになる(p.99)

 対人関係ではどうしても競走意識が生まれてしまいます。競走が完全に悪いものということではなく、それを軸にしてしまうと問題があるということでしょう。

  • 罵倒や言い争いの裏には、権力争いという目的が潜んでいる。争いの裏には、勝つことで自分の力を証明したいという目的が潜んでいる。(pp.101-102)
  • 怒り以外のコミュニケーションの手段を持てば、罵倒されても怒りという道具に頼る必要はなくなる。(p.106)
  • 主張することと相手を言い負かすことは別物。議論と言い争いの線引ができれば、勝ち負けや怒りに囚われない、健全なコミュニケーションができる。

 さらに、対人関係における言い争い、怒りの感情についてです。この辺が未熟なままに大人になっている人は非常に多いと思います。それでも社会人として生きていくことはできますが、いつまでたっても生きづらく、問題を抱え続けてしまいます。

 

自分がすべきことと他者がすべきことを分離(課題の分離)する(第三章より)

【承認欲求の問題点】
  • アドラー心理学では、他者から承認を求めること(承認欲求)を否定する(p.132)
  • 承認欲求に基づく生き方は、相手の期待を満たすための生き方でしかない。(p.135)
  • 承認欲求に基づく生き方は、賞罰教育と関係がある。賞罰教育の先にあるのは、褒める人がいないなら善いことはしない、罰する人がいないなら悪いこともするという生き方。(p.134)
  • 承認欲求に基づく生き方は、「誰からも嫌われたくない」という生き方。すべてを引き受けることで自分が苦しみ、無理をすることで周りにも迷惑がかかる。(pp.158-159)

 人にどう思われるかばかり考えて生きていると、自分も苦しいし、相手にも迷惑がかかってしまいます。また、人にどう思われるかによって行動していると、いつのまにか判断力を失ってしまいます。自分の中の判断基準が曖昧になってしまうのです。そこでポイントとなるのは、課題の分離です。

 

 

【課題の分離の方法】
  • あらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと――あるいは自分の課題に土足で踏み込まれること――によって引き起こされる(p.140)
  • 課題の分離の方法は「その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?」を考える(p.141)

 課題の分離は、なかなか理解するのが難しいです。具体例を見ればわかりやすいです。

  • 親の希望する子供の進路と、子供が自分が選んだ進路がある。その進路を親が認めるかどうかは、親の課題であり、子がいちいち気にする必要はない。(p.147)
  • 自分の人生についてできることは、自分の信じる最善の道を選ぶこと。その選択について他者がどのような評価を下すかは、他者の課題であって、自分にはどうにもできないこと。これが課題の分離。(p.147)
  • 部下の実力を認めず、理不尽に怒鳴る上司がいたとする。そこで上司に気に入られることは、あなたにとっての最優先の課題ではない。また、上司の怒りの感情は上司自身が始末するべき課題であり、無理に頭を下げる必要はない。(pp.148-149)

  理不尽な上司の例は、ある意味で斬新な考え方です。かなりシンプルに言えば、「自分」というものをしっかり持つことであり、周りの目をいちいち気にする必要はないということです。また、他者の考えや感情を気にしすぎることは、他者の課題に踏み込むことになります。自分と他者との責任の範囲を明確にすること。その分、自分の課題には本気で取り組むというのが、課題の分離なのでしょう。

 

 

【自由と、嫌われる勇気】

 承認欲求に基づく生き方、課題の分離ができていない生き方は、言い換えれば周りの目ばかり気にして生きることです。その裏には、自分を曲げてでも誰にも嫌われたくない、嫌われるのが怖いという意識があります。しかし、そんな生き方は自由ではありません。ここから、以下の考えが導かれます。

  • 自由とは、他者から嫌われることである。(p.162)/嫌われる勇気(p.165)
  • 他者の評価を気にかけず、他者から嫌われることを怖れず、承認されないかもしれないというコストを支払わないかぎり、自分の生き方を貫くことはできない(p.163)

 三章のここまでの考えを集約すれば、このように表現することができます。この本のタイトルにもなっている、「嫌われる勇気」です。ここまでしっかり内容を読み進めていけば、とても力のある言葉として、胸に響いてきます。

  • これまでの経験や日々の出来事によって自分が決定されるのではなく、経験や出来事に与える意味によって自らを決定する。これは対人関係のカードを自らが握ることである。(p.168)

 

 

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