紀室拓哉(1)「ミリオンメーカー”TK”」

2016年11月8日

「歌唱力とは何か?」

深層の美意識

 音楽プロデューサーにとって最も大切なものの一つ。それは、人を見る目だと言う。相手の本質を見抜く力、多くの人間の中から優秀な才能を探す力。一方で、あらゆる人間の中に光るものを見出す力もある。人を見る目は必ず必要になる。しかし、その見方は千差万別である。ここに、プロデューサーの色が出るのだ。

 

音痴の魅力

紀室 拓哉(きむろ たくや)

平成の到来と共に、彗星のごとく現れた音楽プロデューサー、”TK”こと「紀室 拓哉」

どこにでもいる一般人をたった一曲でスターにしてきた彼は、後年こう語っている

「人をプロデュースすることで、実は僕がプロデュースされているんです」

結局のところ、彼は何をプロデュースしてきたのか?

それは、「時代」なのかもしれない。

紀室 音痴ってのはね、僕に言わせれば最大の個性なんですよ

――テレビのドキュメンタリー、雑誌のインタビュー、パーソナリティーを務めるラジオ……あらゆる媒体を通じて、紀室はことあるごとにそう言ってきた。

紀室 じゃあ逆に歌が上手いってのは何か? 声の質ってのももちろんあるけど、結局は音程とかリズムのことでしょ? それが上手ってのは、曲に合わせるのが上手いってこと。お手本に合わせて、自分の声を調整する。それって、よく考えると非常に危険なこと。個性を潰しかねない。

 人間って、本来はみな音痴なんですよ。ウグイスを見ればわかるでしょ? 成長するに従って、周りに合わせて自分の声を調整していく。そう考えると、ほぼすべての人の声は矯正されたもの。本来の自分の声を出せる人なんていない。その点、音痴の方はありのままの声を忘れていない

 音痴の人は、第一に声がよく出ている。それから、すごく楽しそうに歌う。最後は、表現力がある。これって、プロの歌手が追い求めているものと合致するんです。歌の上手い人が練習に練習を重ねて、音痴の人が持つものを求める。ここに、『歌唱力』の本質が隠されていると思うんです

 

 

――紀室の歌に対する感覚は、一般のものとは一線を画している。

紀室 僕はめったなことが無い限り、最初から歌の上手い人をプロデュースしようとは思いません。そういう人は、いい曲を上手に歌って、そのままどうぞってことで

 歌わせない、練習させない、意識させない。これが三原則

――紀室は美少女をボーカルとしてプロデュースすることが非常に多い。そこで彼が口にした表現……プロデューサー紀室を象徴する言葉の一つだ。

紀室 「のど処女」って呼んでるんです。ええ、自分で。勝手に(笑)

 

「のど処女」理論

――紀室がこれまでプロデュースしてきた女性は、当然と言えば当然だがどれも美少女。タイプは違えど、大衆が憧れを抱くような女性ばかりだ。ただし、特徴的なのは決して歌は上手くないということ。

紀室 今はカラオケが当たり前になっていますが、同じ人前で歌うにしても、きちんとした舞台に立って、お客さんの前で歌うってのは全然別のこと。僕が手をかける女性は、基本はそういう経験がない。「のど処女」です。そして、人前で歌うという初体験をしてから半年の間、ここが一番美しい

――紀室は実に様々な形でプロデュースを行う。ボーカルを初め、バンドやグループのプロデュース、楽曲提供、音楽イベント、テレビ番組、CMのプロデュースもする。彼はどの仕事にも醍醐味を感じると言うが、中でも女性のプロデュースに思い入れが強い。音痴の美少女を歌姫に変身させる。でも、決して「完成」はさせない。彼の意図に反して、能力をどんどん伸ばして完成してしまうボーカルもいるが、その時はプロデュースから手を引く。

紀室 いつまでも音痴のままでは聞いている方が不愉快になる。上手くなりすぎれば、大衆の手の届かない存在になってしまう。上手いけど危なかしい感じ。それをずっと維持できるのが、僕の考える理想のボーカルですね

 

 

――紀室の考える理想のボーカルは実在するのか?

紀室 いることはいるんですよ。歴史を振り返ればたくさんいますし、数は少ないですが現役のアーティストにも。日本にはどうかな? 海外にはいます。あの、これは日本人と西洋人の文化の違いから来てるんです。日本人ってどうしてもきちんとやりたくなる。アーティストも仕事熱心で、歌唱力をどんどん鍛えていくし、のどの管理もしっかりする。

 一方で、例えばイギリスの超有名なバンドのボーカルなんか見ても、非常に大雑把なのがいる。多少の音の外れは当たり前。歌い方にしても、やる気が無かったり、投げやりだったり。息が上がっちゃったり。それに、1年の半分は遊んでる。その間にのどが休まるし、声も本来のものに戻っていく。その辺の手の抜き方が、ちょうどいいんでしょうね。デビュー当時と同じような、いい意味で垢抜けない声を維持している。

 もっとすごいのは、意図してヘタウマを追求しているボーカルです。ストイックに声とのどを鍛えて、体力をつけるためのトレーニングもする。栄養管理もしっかりして、タバコも吸わず、酒もほどほどに。その上で、決して上手く歌わない。これはね、どうしてかわからないけど、北欧系のアーティストに多いですね。もう、ここまでくると精神面なんだと思います。心の奥底から湧き出る衝動を、そのまま表現している。本当の表現力って、こういうものなんだと思います。

 あ、日本でもそういう地域がありましたね。沖縄と北海道。東京出身でそれができるボーカルが出てくればいいんですけどね

 

続く