感動のロードムービー!『菊次郎の夏』北野武 – あらすじ[解説,考察,感想]

2018年5月23日

北野武が描くおっさんと少年のロードムービー


菊次郎の夏 [DVD]

  • 1999年公開(北野武監督7作目)
  • 監督・脚本:北野武
  • 出演者:ビートたけし、関口雄介
  • 音楽:久石譲
  • ノミネート:カンヌ国際映画祭パルム・ドール
  • 前作「HANA-BI」ではヴェネチア国際映画祭グランプリを受賞。

北野武監督まとめ

あらすじ/ストーリー

 

 

 幼い頃に両親が離婚し、父は事故で死んでしまった少年「正男」は、今は浅草で祖母と二人暮らし。そんな正男は名古屋で暮らす母に会うため、夏休みに家を出る。そんな彼を心配した近所のおばさんが、旦那で遊び人の「菊次郎」に旅の世話をさせることに。

 ギャンブル好きで刺青のある菊次郎と、孤独な少年正男は、旅をする中で徐々に心を通わせていく。しかし、正男には悲しい現実が待っていた。菊次郎も、かつて自分を捨てた母を訪ねたものの、介護施設で寂しく暮らす母を見て悲しい気持ちになる。

 そして、菊次郎は落ち込む正男を励ますべく、旅先で出会ったバイカーや青年と共にキャンプをし、夏休みの思い出づくりをする。

解説,考察,感想

初めての北野映画におすすめ!

 インタビュー内容からもわかるように、この映画は北野映画の象徴でもある「ヤクザもの」ではありません。基本はゆったりとしたロードムービーであり、コメディの要素も多いです。一方で、セリフ、映像、表現などの面で北野映画らしさがしっかり出ています。初めて北野映画をみるにはおすすめの作品です。北野映画はほとんど見てきましたが、最も好きな作品の一つです。

商業映画のふりをしたアート作品

 後述のインタビューにもありますが、この映画は「商業映画の振りをしたアート」という表現もできます。基本は笑いあり涙あり、ほのぼのとしたロードムービーですが、その中に非常に抽象的なシーンが出てきます。一番わかりやすいのは、主人公の少年が見る夢のシーンです。少年がその日に目にしたり感じたりした恐怖、気持ち悪さ、楽しさなどを、前衛舞踊(?)のようなもので表現しています。

 おっさんと少年の旅という、言ってみれば「平凡」な話の中で、アートという要素を「少年の夢」に上手く落としこんでいます。これが監督の言う「商業映画のふりをして、アートをやってほくそ笑む」ということではないでしょうか?

北野武監督のインタビューから見る『菊次郎の夏』
(解説・撮影秘話・映画論)

作品づくりの背景、子供が主役の作品、人情話について

  • いちばん不得意というか、経験のないのをやろう、っていうのがあって。
  • 単なる人情話だと松竹系の映画になっちゃうんで。それをどうやってすっとばすかっていうか、ばかばかしいこととか、変な映像にしたいなあっていう。……子供目線で見た映像なんだけど、それは実は大人が子供になって見た映像、みたいなのにしたくて。
  • 普通だったら、子供が母親に会って、菊次郎が母親に会うとこが、クライマックスだよね。でも、あすこに焦点当てていくとね、映画がなんにも面白くないと思うよ。……それ以外に派生した、夢のような、「変な夢見ちゃった」みたいな感じが映画になりゃあ、というね。
  • ほんとなら、子供が母親に会うところがいちばん盛り上がるんだろうけど、それは前半でさっさとすませてね。要するに、そこでがっくりした子供を、そのあとどうやって楽しませるかっていう映画だからね。

武がたけしを殺す理由」(北野武)より

 作品の中では、少年がその日に見た出来事が夢の中に幻惑的な映像として出てきます。実に抽象的な映像ですが、それがあることで作品は単なる「感動モノ」にならず、一癖のある仕上がりになっています。

 視覚的な映像で印象的な短いシーンをつくるのは、北野監督が非常に得意とするところ。『ソナチネ』『HANA-BI』などでも、その技術がいかんなく発揮されています。

作品の位置づけについて

  • 編集してて、「あんまりおもしろくないなあこれ。どうしようかなあ?」って思って、いじくっちゃおうと、「ああ、これ絵本にしよう」って思って――まず絵本を開いて次の絵が出てくるまでそのストーリーを見せちゃおかなあっていう感じで。
  • 「今度の映画はボブ・ディランがアコースティック・ギターからエレキ・ギターに持ち替えたときなんだ」って言い張ってるんだけど(笑)
  • 商業映画のふりをしてどうやって、そおっと汚くアートをやってほくそ笑むかっていう作戦に出ようかと思ってるんだけどね(笑)。アートのふりした商業映画っていっぱいあるじゃない? だからその逆をやろうかなあと思ってる
  • 拳銃が出てくるのは、一回はなくしてみようと思ったし。……暴力とか冷静に殺すようなシーンが一切ないっていうのがひとつの課題でもあったしね

引用元:「物語」(北野武)より

 これらのインタビュー記事などから見てわかるように、この作品ではあえてそれまでの「決まりごと」を排除して、新しい作品づくりに挑んだことがわかります。これまでの北野監督では感動モノは絶対にありえなかったし、暴力的なシーンもほとんどありません。

 菊次郎の夏に続く3作品(『BROTHER』『Dolls』『座頭市』)では、この傾向がさらに強まります。大きな賞を取ったことで、自身の作品の幅を広げようという時期だったのだと思います。それにしても、初めて感動モノを撮ったとは思えない完成度。この路線でもう何本か映画を撮ってもらいたいと思わせるほど。

 北野武監督の最高傑作のひとつにあげられる本作は必見です!