日本流セイバーメトリクス・打線の組み方はこれだ!

2017年11月9日

日本のセイバー関連書籍から、理想の打線の組み方を考える!

【もくじ】

<『プロ野球のセオリー』より – バントは無意味!2番に強打者!>

  • 『プロ野球のセオリー』のおすすめポイント
    • 仁志敏久氏と統計学者鳥越規央氏の共著
  • 統計学者と元プロから見たバントの意味
    • 統計学的にはバントはほぼ無意味!
    • ノーアウト1,2塁なら意味がある?
    • バントが有効な場面もある
  • セイバーメトリクスからみた打順の組み方
    • 「OPS」と「RC27」に注目する。
    • 出塁率と長打率のジグザグ打線
    • 「2番打者最強論」の時代

<名門進学校「開成高校」から打順の組み方を学ぶ!>

  • 『弱くても勝てます』の内容紹介
    • 「2番最強打者」と大量得点の理論
    • 「守備は捨てる」という大胆理論
    • セイバーメトリクスは「少ない戦力をどう活かすか?」
  • 開成高校野球部の情報

『プロ野球のセオリー』より
バントは無意味!2番に強打者!

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『プロ野球のセオリー』のおすすめポイント

仁志敏久氏と統計学者鳥越規央氏の共著

 本書の内容は、セイバーメトリクスなどのデータ指標を分析し、プロ野球界にあるセオリーを見直していくという内容です。著者は元プロ野球選手の仁志さんと、統計学者でセイバーメトリクスを研究する鳥越規央さんであり、データからセオリーの無意味さを発見したり、現場を経験した人から見た、データには出ないセオリーの有効性を指摘したりと、非常に面白い内容です。データにばかりとらわれず、その一方で根拠のない印象論などにも陥らず、バランスの良い内容になっています。

 二人の著者の議論形式で構成されており、時折表や図を挟んであるので、生のデータを実際に見ながら野球のセオリーを吟味していくことが出来ます。データは2011年のセ・パのものを使用しています。統一球初年度とあって、データに少々偏りがありそうなところだけが難点ですが、内容はとても面白いです。

統計学者と元プロから見たバントの意味

統計学的にはバントはほぼ無意味!

 本書の目玉は、バントの有効性に関する議論です。アウトカウント(0か1)とランナーの数(1塁、2塁、1,2塁)ごとに、データ(※2011年セパのシーズンデータ)を掲載してあります。

  1. バント成功時の得点確率
  2. バントをしなかった場合の得点確率
  3. バント失敗時のリスクを加味した得点確率
    (※①にバント失敗のリスクを加味した得点確率)

得点確率は「1≒2>3」

つまり――

  • バントは得点の確率を高める効果はほぼない(1≒2)
  • バントは得点確率を下げる(2>3)

――という結果になります。

 もちろん、ここから「バントは無意味」と完全に言い切ることはできません。相手投手が好調であったり、能力が高い場合にバントを選択することが多くなりますし、終盤の僅差の状況でのバントに限れば結果は違ってくるでしょう。加えて、統一球という明らかに飛ばないボールを始めて使用した年というのも、問題があります。飛ばないボールの2011年は全球団の得点が大きく下がりました。他の年なら結果は変わっていた可能性はあります。

ノーアウト1,2塁なら意味がある?

 しかし、状況を限定すれば得点確率は高くなります。例えば次のデータ

  • ノーアウト1,2塁でバントが成功した場合、得点確率は非常に高い

 ただし、この状況に関して仁志さんから指摘があります。

  • 打者として最も難しいのが、ノーアウト1,2塁でのバント。打つ方向が限定され、野手からのプレッシャーも大きい。
  • 守備側以上に、バントをする打者側の精神的負担が大きい

 やはりバントは無意味なのでしょうか?

バントが有効な場面もある

 統計ではわからない部分で、バントが有効だと思われる状況として、鳥越・仁志それぞれ意見を出しています。

  • 9回の1点差を争う場面で、無死2塁の時は有効(鳥越)
  • ダルビッシュ有のような能力の高いピッチャー相手なら、序盤でも意味がある(仁志)

 この二つは、確かに納得がいきます。終盤の1点を争う場面で、バントが成功して1アウト3塁というのは、得点のバリエーションも多い(犠飛、スクイズ、内野ゴロ、ヒットなど)です。実際にデータとしてもこの場面は得点確率が高まります。

 また、日本時代のダルビッシュ選手は、ヒットを打つことすら難しいことが何度もありました。それくらいの投手相手ならば、1アウト1塁であっても、得点圏にランナーを送る意義は大きいでしょう。連打が難しい中で、ツーベースを打った後でバントを決めれば、1アウト3塁の場面を作ることが出来、先ほどあげたようないろいろな点の取り方ができます。

セイバーメトリクスからみた打順の組み方

「OPS」と「RC27」に注目する。

 

  • OPS:出塁率+長打率
  • RC27:1人の選手が1番から9番まで打った場合、1試合で何点取れるかを表したもの

 いずれも得点との相関関係が高い指標であり、いずれかの数値が高いバッターを並べると点が効率よく取れるというわけです。鳥越氏はこのうちRC27に注目し、シュミレーションを行って、いかに点が取れるかを考えます。

  1. 上位打線にRC27の高い打者を置く
  2. 長打を生かすために、長距離打者は並べすぎない
  3. 長距離打者の前の打者に、走力は必要ない
    (後ろの打者が長打で返すから)

 ここから生まれた打順が次のものになります。(2011年終了時データより)

  1. 長野久義
  2. 中村剛也
  3. 阿部慎之助
  4. 内川聖一
  5. 本多雄一
  6. 糸井嘉男
  7. 鳥谷敬
  8. 松田宣浩
  9. 畠山和洋

出塁率と長打率のジグザグ打線

 上にあげた田旬は、従来の野球のセオリーではまずありません。ポイントをあげると、

  • 出塁→長打の繰り返し(ジグザグ打線)
  • 1,3番に出塁率の高い打者、2,4番に長打率の高い打者

 となります。つまり、OPSなどの総合指標の高い打者を集めた上で、出塁率の高い打者と長打率の高い打者を交互に並べるという方法です。結果「出塁と長打を繰り返し、効率よく得点する」となります。

 2番に強打者を置くというのは、メジャーではかなり前から定石となりつつあり、2000年代のヤンキースでは2番にA・ロッドロビンソン・カノといった強打者を配置していました。2017年に大ブレイクしたアーロン・ジャッジも2番で多く起用されていました。

 一方で、強打者の前のバッターに走力は不要と言うのは非常に斬新です。ただ、これはあくまで「オールスター」だからこそ組める打線とも言えます。この理論では少なくとも総合指標が高い打者が3人は必要です。1チームでそれをできるかは難しいでしょう。そのため、1番は出塁率に特化し、長蛇の低さを走力で補選手を起用するチームが多いです。

「2番打者最強論」の時代

参考:

 この本でも取り上げていますが、「2番打者最強論」というものが近年のメジャーリーグで定石となりつつあります。この流れは日本にも来ており、2017年は楽天イーグルスがペゲーロを2番に置き、一時は断トツの首位に躍り出るなど、快進撃を見せました。

 2番打者最強論には一つ条件があり、「1番に総合指標が高く、特に出塁率に優れている打者(走力もあればなお良い)」を置くことです。これならば、一つのチームでも実現は可能です。

 2番に最強打者(OPS、RC27がチームでトップクラス)を置く理由を見てみると

  • 打席数が多い
  • アウトカウントが少ない場面かつランナーがいる場面で打席が回りやすい

 といったものがあります。まず打席数ですが、2番打者と下位打線の打者なら1試合だけなら前者が1回多いくらいです。しかし、シーズン単位で見れば打席数は50~100ほども多くなります。シーズン600打席で30本塁打の選手がいれば、本塁打数は2~5本も増える計算です。

 2番目の理由については、例えば出塁率が4割近い1番バッターがいれば、5回に2回はランナーとして出塁します。1試合で2回は確実に出塁します。そうなると、強打者の2番が長打を打てば、ほぼ間違いなく得点できます。感覚的にもチームの得点が向上するのはわかるでしょう。この理論は日本でもどんどん取り入れて欲しいものです。

名門進学校「開成高校」から打順の組み方を学ぶ!

「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー (新潮文庫)

 「「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー (新潮文庫) 」(Amazon)

 

 

『弱くても勝てます』の内容紹介

 30年以上に渡って、東京大学合格者数日本一を誇る開成高校。その野球部は、2005年に東東京大会(いわゆる県大会)でベスト16の入るなど、甲子園を狙えるレベルにあった。チームの特徴は「相手より点を取れば勝つ」という典型的な打ち勝つ野球で、エラーやフォアボールを連発しても打線の大量得点で勝利するというもの。その裏には、野球の固定観念を超えた独自の練習法や野球理論があり、「進学校」ならではの戦略があった。

 本の内容は選手や監督へのインタビューが中心。監督の指導法や、個々の選手の考え方は独特なものがある。特に目立つのは、選手が自分で考えていること。無理に野球の常識やセオリーに従うのではなく、いろいろなポジション・プレー、・局面の中で自分の居場所を探し、自分なりの練習方法を考える。進学校というだけあって、分析力や思考力は素晴らしく、そこから大胆な野球のアイディアが生まれている。

「2番最強打者」と大量得点の理論

  • 1,2番に強打者(2番に一番打てるバッターを配置)
  • 3番から6番まで打てるバッターを並べる
  • 球に合わせるのではなく、自分のスイングを思い切りする。

 開成高校の打線でも、やはり「2番打者最強論」を取り入れています。加えて、3番から6番まで良い打者をとことん並べます。これはセイバーメトリクスの理論そのものです。

 さらに特徴的なのは、大量得点のイニングを狙っているという点。監督の話では、この打線が機能するのは、下位打線が出塁した時。下位打線に打たれて相手が落ち込んでいるところに、通常ならクリンナップを打つ打者がいきなり続く。そこから6番まで連打で大量得点。確率が低くとも、当たった時の得点を極限まで高めるための戦略というわけです。

 これまでに最高の結果を出した2005年は、これが見事にハマって、都大会をベスト16まで勝ち進んでいきました。

「守備は捨てる」という大胆理論

 ここでは進学校ならではの、高校野球でのみ通用する話になります。開成高校では週に1回しかグラウンドを使えないため、守備練習には多くの時間を割かないという大胆なルールを取り入れています。その理屈は非常に面白く――

  • 1試合で各ポジションの守備機会は限られている
  • 守備練習の成果が活きるような難しい打球は1球あるかないか。
  • 普通の打球だけ取れる程度の守備練習だけした方が効率が良い

 時間が無い進学校ならではの理論です。プロでは守備に隙があれば一気につけこまれるので、この理論はなかなか通用しないでしょう。しかし、何か野球を考える上でヒントになりそうな理論です。

セイバーメトリクスは「少ない戦力をどう活かすか?」

 セイバーメトリクスは、メジャーリーグのオークランド・アスレチックスが進んで取り入れたことで注目された統計学理論です。アスレチックスは貧乏球団で、少ない資金でどうやっていい選手を獲得するか考え、その際にセイバーメトリクスに注目しました。

 セイバーメトリクスはその頃誰も注目していなかったので、「隠れた優良選手」を見つけるために最適だったわけです。今ではセイバーは多くの球団で当たり前に使われている理論となりましたが、今でも「効率性の追求」が行われ、理論はどんどん進化しています。

 そう考えれば、開成高校の理論は非常に面白いものです。限られた時間や戦力の中でどうやって勝つか? そこで守備を捨て大量得点を狙うというのは、何かプロ野球にも役立てられそうな気がします。

開成高校野球部の情報