『ベストセラー小説の書き方』のレビュー[ストーリー,人物,場面,会話文]

2017年11月8日

 

小説はストーリーとプロットが大事。そして、いかに読者を楽しませるか

   「ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)」は、小説のハウツー本として有名なものの一つです。作者のディーン・R・クーンツ」は80年代から活躍しているアメリカの作家で、ベストセラー作家の一人に挙げられる人物です。日本では知名度は低く、本人の名前よりもこの本のタイトルの方がよく知られているくらいです。ただ、最近のニュースとしては、彼の作品を原作として映画が公開中のようで、日本でも2014年の初めに公開予定です。
映画「オッドトーマス 死神と奇妙な救世主」公式サイト

 本の内容はベストセラー作家らしく、「いかに読者を楽しませるか」に重点を置いています。特にハリウッド映画などに見られる、観客を引きつけてドキドキさせるようなストーリーをつくるための、いろいろなテクニックが示されています。本の中でも「幅広い読者に読まれる本こそ価値がある」といった発言を何度もしています。

『ベストセラー小説の書き方』のレビュー – もくじ

<プロットを利用したストーリーの書き方>
<キャラクター・登場人物の書き方>

  • キャラクター・人物の基本事項
    • キャラクター・人物の種類
    • キャラクターのアイディアの出し方
    • 小説の中でのキャラクターの紹介の仕方

<ストーリーの書き方/プロットの書き方>

  • アメリカ式「読者を飽きさせない」プロット作成法
    • 典型的なプロットの例
    • 1.「主人公が困難に陥る」のポイント
    • 2.「困難を乗り越えようとするも、問題が次々と起こる」のポイント
    • 3.「失敗や判断ミスによって事態は悪化し、最悪の状態に陥る」のポイント
    • 4.「最悪の状況の中で主人公は変化し、何かを学ぶ。そして、考えを実行に移す」のポイント

<登場人物・キャラクターの書き方/作り方>

  • 登場人物・キャラクター作成の準備
    • キャラクターを作る前の準備
  • 生き生きとした人物を描く
    • キャラクターに「動機づけ」をする
    • キャラクターの「動機付け」の典型例
    • 動機づけの応用

<場面描写・会話文の書き方>

  • 場面描写のポイント
    • 調査のための資料
    • 舞台となる場所・土地の選択と小説のテーマ
    • 狭い世界を描く場合
  • 会話文の書き方/ポイント/注意点
    • 会話文は無駄を省いてテンポよく

ストーリーの書き方/プロットの書き方

アメリカ式「読者を飽きさせない」プロット作成法

 典型的なプロットの例

 プロットについては古典的かつ日本的なものとして「起承転結」があります。物語のきっかけをつくり(起)、それを受けて話が展開していき(承)、その後話が大きく転換(転)、最後にオチがある(結)というものです。「ベストセラー小説の書き方」でも、古典的なプロットの例をあげています。

【古典的なプロットの例】
  1. 主人公が困難に陥る
  2. 困難を乗り越えようとするも、問題が次々と起こる
  3. 失敗や判断ミスによって事態は悪化し、最悪の状態に陥る
  4. 最悪の状況の中で主人公は変化し、何かを学ぶ。そして、考えを実行に移す

 本の中であげられていた注意点として、1.の重要性があります。新人作家の多くは1.が上手くできず、読者を惹きつけられないために、賞に応募したところで最初の数ページで捨てられてしまうというわけです。

 それでは、各項目について詳しく見ていきましょう。

1.「主人公が困難に陥る」のポイント

  • 主人公は早めに登場させる
  • 主人公は弱さや欠点を持っていた方がいい
    例えば主人公が完全無欠のヒーローだったら、そもそも困難に陥る可能性が少ないし、できても不自然になってしまいます。また、3から4の流れもぎこちなくなるでしょう。
  • 冒頭で主人公に「任務」を与える。任務は短時間で遂行しないと危険が迫るようなものにする。
  • 異常なもの、不気味なもの、よくわからないものを冒頭で登場させる。
  • 困難を乗り越える物語にはリアリティが必要。リアリティを出すには「詳細描写」が役立つ。そのためには「日常での経験」で見たものを使ったり、物語の舞台について「調査」をしたりするといい。
  • 前もってその先で起こる事件について予告はしない

2.「困難を乗り越えようとするも、問題が次々と起こる」のポイント

  • 主人公に起こる問題は、文字数を稼ぐだけのもの、根本的な問題の解決を遅らせるものではダメ
  • 新たな問題は、前に起こった問題から必然的に生じるものにする
    問題解決のための主人公の行動が原因になり、新たな問題が起こるようにする

3.「失敗や判断ミスによって事態は悪化し、最悪の状態に陥る」のポイント

  • 主人公に欠点はあってもいいが、愚かであったり間抜けであってはならない
    問題が悪化するのは、あくまで失敗や判断ミスの結果。従って、話のつじつま合わせのために主人公に不合理な行動をとらせてはいけないということ。
  • 「最悪の事態」についてはその言葉のとおり、読者の想像を上回るもの、これ以上ない最悪のものを考える
    これについては、いろいろな作品を読んで参考にしつつ、自分でアイディアを生み出すしかないと本の中に書かれています。

4.「最悪の状況の中で主人公は変化し、何かを学ぶ。そして、考えを実行に移す」のポイント

  • 物語の中で積み上げてきたあらゆる困難や問題を解決するような結末を用意する
    事前に解決法がわかるようなもの、当たり前の方法ではダメ
  • 小説は結末が決まってから書き始める

登場人物・キャラクターの書き方/作り方

登場人物・キャラクター作成の準備

キャラクターを作る前の準備

  • 実在する人物のように描く:
    キャラクターの人格・性格を表す特徴について、具体的なものを選択して提示する。
  • キャラクターについて、誰よりもよく知っておく。
  •  キャラクターの情報を書き出す
    • 身体的特徴:顔、体、ファッションなど
    • 話し方:話すリズム、語彙
    • 生まれ・育ち・バックグラウンド:家柄、家族構成など
    • 考え方・価値観
    • 特技

 キャラクターの情報については、主要な人物について適時情報を加えていき、小説を書く中で人間性や人格を掘り下げていくことになります。また、ストーリーに直接関係ない情報でも出来る限り決めておいた方がいいでしょう。実際に小説を書いていると、限定された特徴だけで人物を描いてしまい、機械的な人間になってしまうことがあります。また、現実味のない人間になることもあります。

 また、ストーリーとは関係のないところでキャラクターの情報を集め、その人物像を明確にすることで、ストーリー展開に困った時に役立つことがあると思います。先の見えないシーンで、「この人物ならどうするか」と考えてキャラの情報を見ていくと、意外なアイディアが生まれることもあるでしょう。

 さて、キャラクターの準備が整ったところで、頭に入れておきたい事項が一つあります。それは、キャラクターは物語を通して「変化」するということです。ストーリーの中で困難を乗り越え、キャラクターが成長する姿を描くと、読者の共感を得やすくなります。これは何も「成長」ばかりでなく、悪い方向への変化でも構いません。

生き生きとした人物を描く

キャラクターに「動機づけ」をする

 ストーリーというのは、キャラクターが何かしらの行動をすることで進んでいきます。キャラクターがどうして行動するのかと言えば、目の前に問題があったり、キャラクターに意志があるからです。プロットのところで説明しましたが、「主人公が困難に陥り、それを乗り越えていくことで主人公が成長する」のが古典的なストーリーの流れです。そうなると、主人公は問題や困難を乗り越える理由、どのようにして乗り越えるかの判断と、そう判断した理由が必要になってきます。また、主人公を邪魔するキャラクターがいたら、どうして邪魔をするかの理由も必要です。また、問題とは別に、主人公に意志があれば、その意志を持つに至った理由も必要です。これらの「キャラクターの行動の理由」が動機づけに当たります。

 この動機付けが不自然であったり、一貫性が無かったり、弱かったりすると、物語は真実味が無くなり、読者も冷めてしまいます。

キャラクターの「動機付け」の典型例

【愛情】

 愛情は古今東西、老若男女、すべての人間が持っている普遍的な感情です。これをキャラクターの動機に組み込めば、読者の興味を惹き付け、共感を得ることもできます。いかにも使い古されたものですが、今でもドラマ、映画、小説、音楽、あらゆるものに欠かせない要素です。

 愛情を動機にする場合、単に他者への愛情だけでなく、「利己心」や「自己保身」といったものを加えると、動機として真実味が出てきます。愛する者のために戦うという動機付けがあったとしても、愛する者を助けるのは突き詰めていけば自分の幸福のためですし、いろいろな事情を正当化するのに「愛情」を使うこともあります。この辺をうまく描いていけば、愛情に真実味が出てきますし、深みも増すでしょう。

【好奇心】

 好奇心も愛情と同じように、普遍的な感情の一つです。また、物語を楽しくする要素としても最適です。一つ注意点をあげると、好奇心の一方で、分別・判断力が必要になってきます。好奇心のままに危険な行動をおかしてばかりの主人公がいれば、真実味はなくなります。

 もしキャラクターを何度も危険な目に合わせる必要があるなら、キャラクターが恐ろしい体験をすることで、慎重さを持つようにすればいいでしょう。その上で、その慎重さを上回るような好奇心を描く、あるいは慎重にしていても危険な目に会わざるを得ない状況を描ければいいです。

【自己防衛】

 死、生命の危機、身の危険など、自己防衛はキャラクターの動機づけの典型例です。命が危険にさらされれば、それだけ主人公も大胆な行動が取れます。また、自尊心を守るなど精神的な部分での自己防衛も使えます。

動機づけの応用

【動機の重層化】

  本の中では、金銭欲が動機となった悪役の行動について例をあげています。悪役が主人公の資産を乗っ取ろうとする際、金銭欲の他にも、好きな女性を奪われた嫉妬心、さらには悪役のバックグラウンドとして、貧乏な家庭に生まれたことによる飢餓・喪失感が加われば、悪役の動機も説得力が出てくるとしています。ここまでは「愛情」「好奇心」「自己防衛」などプラスの動機づけが続きましたが、欲望、嫉妬、飢餓などのマイナスの動機も役立つということです。

【自己再認識は避ける】

 これは、俗に言う「自分探しの旅」などを小説の中で行うと、説明的になってしまうということでしょう。特に私小説などでこのような間違いが起こりやすいと思います。あくまで小説は、人物がいろいろな出来事を通じて新たな自分を発見する、あるいは成長をする姿を読者に見せるものです。

場面描写・会話文の書き方

場面描写のポイント

調査のための資料

 特に外国や自分の住んだことのない場所を小説の舞台にする際には、その土地の歴史、文化、実際の風景、第三者の意見などを調査した方がいいです。これは描写がリアルになるだけでなく、小説のアイディアにもなります。旅行のガイドブック、あるいは外国ならば実際に旅をした人の本が役立ちます。仮に架空の都市を舞台にする場合も、イメージに似た都市について情報を集めればいいです。また、架空の都市や世界を扱った小説を資料にしてもいいでしょう。

 調査の注意点としては、情報を活用したいがために、描写の部分が長くなりすぎ、文章が説明的になってしまうことです。あくまでストーリーを進めつつ、キャラクターの視点や動きの間に描写を挿入すると、冗長な文章にならずに済みます。

舞台となる場所・土地の選択と小説のテーマ

 例えば宇宙をテーマにした小説を、日本を舞台にして書くとします。その際、日本のどこにするかでストーリーが変わってきます。標高が高く天体観測に適している長野、JAXAなどの施設が集まっている首都圏、あるいはスペースシャトルの部品を製造している東京や大阪の下町、学術都市の筑波など、いろいろなものが選択肢としてあがります。

 あるいは、日本人と外国人の恋愛をテーマにした小説でも、舞台の選択によって小説の印象は左右されます。外国人の多い東京、江戸時代の末から明治にかけて外国の文化が入り込んだ神戸・長崎、あるいは米軍基地のある横須賀や沖縄など、どこを舞台にするかで印象は変わり、小説に独特の雰囲気をプラスします。従って、舞台の選択は基本的にはテーマに沿っていて、テーマに何かしらのプラスをもたらすものがいいでしょう。

 しかし一方で、あえてテーマと舞台の関わりを無くす方法もあります。例えばミステリーやホラーは、テーマやストーリーそのものが奇抜なので、あえて地方の平凡な町を舞台にした方がテーマが生きます。逆に、内にこもりがちな主人公を使った内省的な小説を、華やかな都会を舞台に描いてもいいでしょう。

狭い世界を描く場合

 ある都市を舞台にした場合、まずはその国の中でどのような「都市」か、そして都市の中で主人公が住んでいるのはどの「地域」か、どのような「家」に住んでいるか、主人公の「部屋」はどこか、というような描写が必要になります。

 しかし、例えばホテルを舞台に従業員とお客さんのやりとりをテーマにした小説なら、周辺の地理的な情報などもある程度は必要ですが、描写はホテルが中心になります。この場合、一つのホテルという狭い世界を描きつつも、「ホテルの外観」「フロント」「入浴場や食堂などの設備」「個々の客室」といった細かい描写が必要になります。

 舞台となる世界が広いものであっても閉鎖的なものであっても、その中で全体と細部を階層的に描いていけばいいのです。また、ホテルを舞台にしても、宿泊施設としてのホテルの話か、ホテルマンの話か、あるいはホテル産業の話かで、描写の方法は変わってきます。

会話文の書き方/ポイント/注意点

会話文は無駄を省いてテンポよく

【小説の会話はストレートに要点をついて書く】

 小説には小説のための会話があります。逆に、現実の会話を忠実に再現しようとすると、「前置き」「説明」「相槌」などが多くなり、話が回りくどくなってしまいます。

【説明は最小限に】

 会話文の中で「話し手が誰か」「話し手の表情・しぐさ」「~と言った」などの説明は必要最小限に止めます。会話文は基本的に「話し手が誰か」を明記しなくてもわかるように書きます。そして、不要なところに「話し手の表情・しぐさ」を入れ過ぎないようにします。「ベストセラー小説の書き方」の中ではこれを「会話文を自立させる」と表現しています。

 説明を書きすぎてしまう原因としては、なるべく巧みな表現を使って状況をリアルに読者に伝えよう、という気持ちがあるでしょう。しかし、場面ごとの状況がしっかり描けていれば、それは必要ないです。また、そうすることで読者は、登場人物の言葉から、彼らの表情やしぐさをイメージできます。