『ヒンシュクの達人』(ビートたけし)のレビュー・感想

2014年9月13日

政治家から芸能人、一般市民まで。たけし流「上手な顰蹙の買い方」!

ヒンシュクの達人 (小学館新書)

もくじ

『ヒンシュクの達人』のもくじ・概要

 

内容説明

政治家やタレント、ネットでつぶやく一般人に至るまで、世間は不用意な失言で顰蹙を買うヤツば かり。その点、この男はひと味違う。ヒヤヒヤものの毒舌をマシンガンのように繰り出しつつも、その言葉は常に人々を頷かせる説得力を持っている。悪口・暴 言も言い方ひとつで武器になる―。天才・ビートたけしが、自らの死生観や芸人論を交えながら「顰蹙の買い方」の極意を語る。

目次

第1章 政治家は「顰蹙の買い方」を知らない
第2章 震災以降、「生き方」と「死に方」について考えてきた
第3章 「恥」と「粋」の芸人論
第4章 顰蹙覚悟の「教育論」
第5章 「話題の芸能&スポーツ」一刀両断
爆笑トーク特別編(1) 衝撃!オイラの東京五輪開会式プラン
第6章 ニッポンの軽薄ブームに物申す!
爆笑トーク特別編(2) 「AVネーミング大賞」歴代ナンバーワンを大発表!

引用元:ヒンシュクの達人 / ビートたけし【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア

 

【本の概要】

 この本は、週刊ポストに連載されている「ビートたけしの21世紀毒談」から、話題になった話をピックアップし、加筆して書籍化したものです。内容は時事が中心であり、「維新の会」「東日本大震災」「THE MANZAI」「いじめ問題」「オセロ中島」など、世間を賑わせたトピックが満載です。

 連載の中から話題になったものをピックアップしたということで、内容は非常に濃く、読み応え抜群です。時事問題を切り口にしていますが、何年も前から継続して議論されている話題、これからも継続して議論されるであろう話題まで扱っています。特に第1章の政治、第2章の震災、第4章のいじめと教育の話は、かなりためになります

 60代も後半にさしかかり、文章の老練さにますます磨きがかかっています。ここまでスラスラ楽しみながら読めて、しかも中身が濃い本はなかなかありません。最近は、ここ数年に書籍化されたたけしさんの本をまとめ読みしていますが、2010年代に入ってからの本は面白いものが多いです。おすすめです。

 

『ヒンシュクの達人』のおすすめポイント

「言っていいこと」と「言っちゃいけないこと」の境界線

【ペニオク事件について】

 ペニオクの件を本人の前で言っちゃったことを「とんでもない」って言う人もいうrけど、本当にそうなのか。「それは言わない約束」ってことで、勝手にタブーにしちゃうほうが、かえって本人には辛いんじゃないだろうか。
 オイラがやったみたいに、一度「笑い」にして晒し者になったほうが楽なんじゃないか。それが「禊ぎ」になるんだよ。そのまま知らんぷりしてたら、そいつは昔のスキャンダルでずっと悩まなきゃいけなくなる。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,pp.4-5

 こちらは冒頭「はじめに」より。ペニオクで謹慎していたタレントが久しぶりにテレビに出た際、たけしさんが生放送でいじったことがありました。もはやお決まりになっている、たけしさんのいじりですが、あえていじって笑いにすることが、本人のためになるという話です。

 最近のテレビではわざわざタブーにしなくていいことまで、過剰に神経質になっています。しかし、見ている方は「そこまでする必要あるか」と思ってしまいます。そんな最近のテレビ界にあって、たけしさんの存在は貴重です。このいじりは、タブーに対するバランス感覚がなければできません。バランス感覚がないと、「本当に言っちゃいけないこと」を言ってしまい、いじった本人がスキャンダルになってしまいます

 たけしさんは何十年もテレビに出続けて、「毒舌」キャラを貫いています。しかし、これまでに「失言」と言われるようなことはほとんどないのです。実は非常にレベルの高い「芸」とも言えるわけです。

 

 

【橋本市長の失言について】

(中略)橋下市長が世間から見放されるきっかけになったのは、やっぱりあの「慰安婦は必要だった」って発言だろう。
「それは言わない約束でしょ」って話に、正面から突っ込んじゃった。だけど正直なことを言ってしまえば、この国は「それは言わない約束でしょ」って建前ばかりで成り立ってるんだよ。

(中略)「地方分権」「官僚機構をぶっ壊す」って旗印にみんなが共感していたのに、いつのまにか飽きられちゃって、世間の注目を引こうとシモの話にまで手を出しちゃった。(中略)ハタから見りゃ「落ち目のアイドル」と大差ない。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,pp.15-16

 橋下市長と維新の会の、一時の勢いはすごいものがありました。あのままいけば、政権を奪い、「橋本総理」誕生もありえたほどです。しかし、国政進出を境に、急に勢いがなくなってしまいました。そして、その後は巧みな話術も霞んでしまい、極論をマスコミに批判的に取り上げられ、いつのまにか大衆の支持を失ってしまいました。

  新党を結成して、そこから勢力を高めていくのは容易なことではありません。ですから、国政進出の際に少々勢いが落ちてしまうのは理解できます。注目を集めるために、大胆な発言をしてマスコミに取り上げてもらうのもいいでしょう。しかし、その内容がまずかったのです。ここも、言っていいことと悪いことのバランス感覚をどれくらいもっているか、という話になってきます。

 個人的には、橋本さんにはまだまだ頑張って欲しいと思っています。あれくらい弁が立ち、行動力もある政治家はなかなかいません。大阪都構想も理にかなったまともな考えだと思います。これまでのキャラクターは貫きつつ、政治家として「揚げ足を取られない技術」を磨いていき、維新の会のマニフェストをいつの日か実現して欲しいものです。

 

維新の会と石原慎太郎、民主党政権と脱官僚について

(維新の会と自民党について)
 疑り深いオイラには、どうも石原さんたちが自民党の送り込んだ刺客というか、罠に見えて仕方がないんだよな。石原さんや平沼赳夫さんが橋下市長に近づいたのは、自民党サイドによる「維新の会潰し」だったんじゃないかってさ。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,p.19

(民主党政権、政治家と官僚について)
「政治主導」「脱官僚」って威勢のいい旗印を掲げてたのに、最終的には官僚の言いなりになっちまった。

普通の政治家がエリート官僚に勝とうなんてそりゃ無理だって。悪いけど、今の政治家で官僚たちに実務能力や専門分野の知識で太刀打ちできる人なんてほとんどいないんだからね。

 それなのに、今は政治家も官僚も頭と力の使いどころが違うんだよな。族議員と官僚が一緒になって各省庁の利権を拡大させることばかりに必死になってるわけでね。
 本当に賢い連中の能力を、正しい方向に使わせるってことを政治家たちは考えたほうがいいね。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,pp.23-24

 

 この辺の話は、メディアの報道からはなかなか見えない部分に踏み込んでいるので、非常に面白いです。特に、政治家と官僚の関係についての話は興味深いです。政治家も官僚も、持てる力と能力を正しい方向、つまりは国民のために向けていないというのがここ数年の話です。そこで民主党がやってきて、「官僚を潰す」と言ったのです。しかし、本当にすべきだったのは、官僚の能力を認めつつ、彼らをまとめあげることだったというわけです。

 

東日本大震災と、悲劇に対する想像力

 今回の震災の死者は1万人、もしかしたら2万人を超えてしまうかもしれない。(中略)だけど、この震災を「2万人が死んだ一つの事件」と考えると、被害者のことを全く理解できないんだよ。
 (中略)そうじゃなくて、そこには「1人が死んだ事件が2万件あった」ってことなんだよ。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,pp.38-39

 この言葉は、テレビなどでも発言していました。ネットでも話題になり、名言として取り上げられていました。事件や災害など、悲劇が起こった時に大切なのは「想像力」であると、たけしさんは言います。

 確かに、規模の大きすぎる災害は、なかなかイメージが湧きにくく、被害にあった方の心情を理解するのは難しいものです。それよりも、「災害は怖い」といった印象が先行してしまいます。一方、ドキュメントなどで個人の方の被害を見ると、災害の悲惨さがリアルに伝わってきます。そこからさらに一歩進んで、家族や友人が死んだという一つの大きな悲劇が、何百何千何万件起こったと考えれば、その凄惨さがよくわかるということです。

 

 寄付だって、本当に被災した方々のほうを向いてしたことだったのか。社会全体の雰囲気を見て、「オレもこのくらい出しといたほうがいいか」って、自分の立ち位置を意識してやったことじゃなかったか。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,p.43

 もし、悲劇に対する想像力を持っていれば、同じ寄付でもその意味合いが違ってくるでしょう。個人的な話をすると、私も当時は神奈川にて震度5の揺れを経験し、津波が迫り来る中継映像をリアルタイムで目の当たりにし、何ヶ月かの間募金を続けていました。理由はわかりませんが、「小さなことでも何かしておかなければ」と思っていました。ただ、心のどこかには、「出しといた方がいいか」という気持ちがあったかもしれません。

 

可能性、仕事、夢……たけし流「人生論」

「オレはまだまだこんなもんじゃない」って期待するから、執着する。それが「若さ」なんだよ。「若い」ってことがいかに恥ずかしいことだったか、それがわかるのが大人の男なんじゃねェかって思うね。
 自分の限界がわかって、「できること」と「できないこと」が判断できるようになると、自然と肝が据わる。「人はいずれ死ぬ」という当たり前のことを受け入れるようになって、少々のことでは動じなくなる。この歳になって、ようやくそんな気がしてるんだよな。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,p.47

 

 やりたい仕事をやってる人間だって、やりたくない仕事をやってる人間だって一緒だよ。とにかく「働くことは辛い」っていうのが大原則なんでさ。(中略)楽な仕事なんてどこにもない。それでも生きていくために耐えていくしかない

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,p.89

 

(中略)「夢は必ず叶う」なんて無責任すぎるじゃないかってさ。大人になって、大学を出る頃になりゃ、イヤでも社会の厳しさを知ることになる。そこにきていきなりハシゴを外されちゃうから、社会に背を向けて閉じこもってしまったり、自分の周りの環境に責任転嫁してしまうヤツラが増えてしまうんだよ。

 男ってのは、自分には才能がないとわかってからが勝負なんじゃないか。親父にできるのは、いつか子供が傷ついた時に、それでも生きていけるような強い心を育ててやること。だから、子供の心を傷つけることを忘れちゃいけないと思うんだ。

引用元:北野武(2013)『ヒンシュクの達人』小学館,初版第一刷,pp.110-111

 

 これらの言葉は、社会人になる前の若者にとって、とても役に立つものだと思います。「ゆとり世代」として学生生活を送ってきた自分にとっても、納得できるものです。私が幼い頃は、「夢はかならず叶う」という言葉を、周りの大人が口癖のように、呪文のように唱えていました。今考えてもちょっと不思議なものでした。

 可能性と限界、やりがいと食い扶持、夢と現実。良いものばかりにスポットを当ててきたのが、これまでの時代です。しかし、人生では限界を知ることが多いですし、生きるために仕事をしている人の方が多く、目の前にあるのは常に現実です。これらを知ってから、自分に何ができるかを考え、努力するというのが正しい方向性です

 芸人として天下を取り、世界の北野となったたけしさんが言うのですから、間違いないでしょう。たけしさんは「夢」とは言わないでしょうが、夢を叶えてきた人ほど、自分の限界を知っていますし、生きるために戦い、現実的な考え方を持っているものです。

 

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