最新描き下ろし小説「ゴンちゃん、またね。」ビートたけし – あらすじ[考察,解説,感想]

ラストの展開が泣ける!ちょっと切ないほのぼの小説!


週刊文春 2018年 3/29 号
★「ゴンちゃん、またね。」掲載

もくじ

あらすじ
考察,解説,感想
  • 『アナログ』と同じく丁寧な設定が光る!
  • 随所に描かれる「ネタ」は賛否両論?
  • 『菊次郎の夏』を感じさせる終盤の展開とラストは秀逸!

あらすじ

参考:『週刊文春 2018年 3/29 号』文藝春秋,pp64-82

登場人物

関口則之

練馬に住む作家志望の男。数年前に両親を病気で亡くし、実家で一人暮らし。知人から紹介されたテープ起こしの仕事で食いつないでいる。

ゴン

則之が飼っている犬。気ままながら主人思いで、散歩とボール遊びと焼鳥が好き。生後一年ほどで発情期を迎えている。

田丸

則之の学生時代の友人。そこそこ名の知れた出版社に務めており、則之にテープ起こしのバイトを回してくれている。ゴンも彼の紹介で飼うことになった。

あらすじ①

小説家志望の男

 練馬区の古い家が並ぶ住宅街に暮らす則之は、平凡ながらも暖かい家庭で育ち、二流大学の文学部を卒業した後、バイトをしながら作家を目指している。数年前に両親をガンで亡くし、相続した家で一人暮らし。様々なアルバイトを転々としつつ、仕事場で出会った女と共に暮らしたりもしたが、全く芽の出ない則之に愛想をつかせて出ていってしまった。あらゆる小説のジャンルに挑戦しては失敗するも、「自分には才能はないんだ」とすぐに納得してしまうような男だった。

テープ起こしの仕事

 則之は現在、テープ起こしのアルバイトをして生活している。学生時代の友人で、今はそこそこ名の知れた出版社で働く田丸に紹介してもらった。彼が担当する月刊誌のコーナー「私が決断した時」で、各界の成功者のインタビューを文字に書き起こしてまとめるというものだ。しかし、その実態は政治家や社長の他、「ラーメン屋で一発当てた男」「元自衛官・ハリウッドB級映画出演で、独自の防衛論を振りかざす男」「量産品のようなアイドル」など胡散臭い人物を含めた玉石混交の記事であり、則之にとって決して満足のいく仕事ではなかった。

ゴンの存在

 そんな則之と共に暮らすのが、柴犬のゴンだ。一年ほど前に田丸の紹介で引き受けた犬であり、気ままな性格だが、則之に心の安らぎを感じさせてくれる存在だった。則之はゴンに、幼い頃に放ったらかしにしてしまった犬への後悔の念を重ね、大切に育てていた。

あらすじ②

ゴンとの一日

 則之の一日は、仕事のある日は田丸と打合せや取材をし、夕方には帰宅してゴンの散歩をする。公園から商店街に行き、買い物ついでに焼き鳥を買い、ゴンと一緒に食べる。最近はペットショップでシャンプーをしてもらい、ドッグランデビューも計画していた。そんなゴンは、発情期を迎えつつあり、散歩で出会ったメス犬に跨ってしまうこともあり、以前よりも好奇心旺盛になっていた。

ゴンがいなくなった

 そんなある日、いつものように商店街に散歩に来た際、電柱につないでいたゴンが姿を消してしまった。則之は明け方まで街を探し回ったが見つからなかった。その日から一日中ゴンを探し回り、インターネットの掲示板や電柱への貼紙も試してみたが、見つからず。貼紙を見たという人物から電話があったが、金を要求する詐欺師であり、しまいには子供からのいたずら電話まで来る有様。あらゆる手を尽くし、自転車で遠出して探しもした。

1年後のゴンとの再開

 一年が経ったが、則之は相変わらずゴンを探して毎日自転車で走り回っていた。今も仕事は続けているが、ゴンを探すのに忙しいので取材には同行せず、送られてくる音源をもとに記事を書いていた。そんなある日、則之は自転車で40分もかかる石神井公園へと向かった。早朝の公園では、近くの球場からの草野球の掛け声が聴こえ、散歩をしている老人の姿もあった。すると、犬を連れて歩く老人の姿が則之の目に留まった。姿は変わってしまったが、その犬は間違いなくゴンであった。

あらすじ③ ※ネタバレ注意!

姿が変わってしまったゴン

 ゴンは尻尾が切れ、足を引きずっていた。しかし、近くで顔を見ると昔のまま。則之が手を差し出すとかつてのように顔を近づけた。話を聞くと、一年ほど前に子どもたちにいじめられているところを保護し、今ままで飼い続けていたと言う。ゴンは人間に不信感を抱いてしまい、誰にもなつかなくなったが、則之のことは憶えていたのだ。

 老人はゴンを助けた後、病状が良くなったので飼い主を探そうとした。しかし、そこで妻が無くなってしまい、葬儀屋何やらのゴタゴタで里親探しは後回しになり、独り身の寂しさからかゴンを飼い続けることにしたそうだ。話を聞いた則之は、自分が飼い主だったと口に出せなくなってしまった。

老人とゴンへ会いに行く日々

 それからというもの、則之は毎朝石神井公園に向かい、ゴンと遊び、そのままお爺さんの家で話をするようになった。ゴンと会うのは楽しかったが、ゴンと幸せそうに暮らすお爺さんを見ると、「本当のことを言わなくて良かった」と思う則之だった。お爺さんは80を過ぎており、時折体調を崩した際には則之が代わりに散歩をしてやった。お爺さんは「自分に何かあったらこの子を頼みます」と言うようになった。

ゴンちゃん、またね

 則之は、ゴンと自分、そしてお爺さんの話を小説にしようと考えていた。そして、自転車を漕ぎながら叫んだ。

「ゴンちゃん、またねえ!」

考察,解説,感想

アナログ』と同じく丁寧な設定が光る!

 2017年にヒットした小説『アナログ』と同じく、北野映画を思い出させる丁寧な設定描写が特徴です。短編小説ですが、物語の序盤でしっかりと登場人物や舞台設定がなされており、キャラクター像や舞台のイメージがしっかり頭に浮かんできます。ビートたけし氏の小説の大きな特徴と言っていいでしょう。北野映画を彷彿とさせるので、個人的に気に入っている点です。

随所に描かれる「ネタ」は賛否両論?

 前回のビートたけし氏の小説『アナログ』は、全体的にしっかりまとまったオーソドックスな小説で、展開やオチもかなり良かったです。芸人らしくネタを随所に散りばめていたのも特徴的です。しかし、唯一の欠点を上げると冗長な会話がありました。今回の作品ではそれが無くなりましたが、ネタは相変わらず挟んできます。

 今回の小説では、主人公が取材する各界の成功者のエピソードがネタになっており、世情を皮肉った内容となっています。世間に溢れる胡散臭い成功者をここぞとばかりにおちょくるという内容ですが、この部分は人によっては退屈に思えてしまうかも知れません。とりわけ前半でネタの比重が多いので、ストーリー展開を停滞させている感もあります。ただし、このネタの部分は終盤のあるシーンで非常に良いアクセント・伏線となってきます。ここがわかるとネタの存在も光るので、最後まで読むのをおすすめします

 軽くネタバレになってしまいますが、則之が飼っていた犬「ゴン」を保護したお爺さんは、数年間に妻を亡くした独り身で、ゴンがいるとは言え寂しさを感じているような人物でした。則之はゴンに会うために老人を毎日訪ね、家にお邪魔して話をするのが日課になります。そこで、前半でネタとして登場した話をし、老人が喜んでそれを聞くという部分があります。独り身の老人にとって、話し相手がいるというのは非常に楽しいことでしょう。そこであの馬鹿話をしているというのは、本当に何か、読むものに感じさせるところがあります。その僅かなシーンのための伏線と考えると、前半のネタも味わいが出ると言ったところです。

『菊次郎の夏』を感じさせる終盤の展開とラストは秀逸!

 これまた『アナログ』との共通点ですが、ビートたけし氏の小説は終盤の展開とラストの余韻が素晴らしいです。得意分野の映画で見せてくれた感動を、小説でも見事に体現しています。これがあるので、私は最近のビートたけし氏の小説を楽しみにしています。

 終盤の内容はあらすじに譲るとして、今回の小説では「悲しみ」「切なさ」「ささやかな喜び」といったテーマがあります。こういったテーマは映画作品でも繰り返し描かれていたものであり、得意分野だけあって描き方は本当に素晴らしいです。特に今回のラストは、セリフも相まって名作『菊次郎の夏』を彷彿とさせます。あの映画も「悲しみ」「切なさ」「喜び」を絶妙に描いた作品でした。

まとめ

 今回は短編ということで、おそらくですが今後も雑誌等で定期的に短編を発表していき、作品が溜まったところで短編集を刊行するのだと予想しています。ビートたけし氏の短編は過去の作品を見ても非常に面白いので、今後の新作を楽しみにしています。

 事務所の独立の話も合わせて、今後は小説へ力を入れていくと言われるビートたけし(北野武)さん。早く新作が読みたくなってきました!