「双子の星」(宮沢賢治)のあらすじ・レビュー

2014年9月20日

純粋無垢な双子の星と、星座たちの物語

新編 銀河鉄道の夜 (新潮文庫)

もくじ

「双子の星」のあらすじ

双子の星 一

 天の川の西の岸、チュンセ童子とポウセ童子という名前の、双子の星が、すきとおる水晶の宮に住んでいました。二人の仕事は、星たちが正しく空を巡るために、星回りの歌に合わせて銀笛を吹くことでした。

 お日様が上った頃、二人は近くにある「空の泉」へと遊びに行きます。泉は青い星に囲まれ、石の間から水が湧き出て、それが天の川に流れ込んでいます。しばらくすると、真黒なマントを身にまとった大烏の星がやってきます。烏はのどが渇いたと泉の水を飲みますが、あとに続いてやってきたサソリ星が彼の悪口を言います。

 あまりにサソリ星がしつこいので、大烏の星は怒ってしまいます。飛び上がって嘴を突き立てる大烏に、サソリは毒針を振りかざし、二人は相打ちになります。大烏は胸を毒針に刺され、サソリは頭から血を流します。童子たちはまず大烏の毒を吸い、泉で綺麗に流してあげます。大烏は脚を引きずりながらも歩くことができましたが、サソリの方は一人で歩けないくらいの重傷でした。

 童子たちはサソリの両肩を抱えて、家まで送ってあげることにしました。しかし家は遠く、サソリ星の体は童子の何倍もあります。何時間も歩き続けますが、一向に家につく気配がありません。西の空が暗くなりはじめ、童子たちはお宮に帰らなければなりません。しかし、サソリ星がきちんといつもの場所にいない方が、大問題です。童子たちはぎりぎりまでサソリと一緒に歩き、ついに倒れてしまいます。

 すると、そこに王様の使者である稲妻が現れます。稲妻のマントにつかまり、二人は泉に戻り、水浴びをします。疲れはすっかり取れ、新しい服と靴に着替え、二人はいつものように銀笛を吹くのでした。

 

 

双子の星 ニ

 嵐の夜、乱暴者の箒星がチュンセ童子とポウセ童子のところへやってきて、一晩だけ旅に出ようと言います。曇っている日は仕事をする必要がないし、王様からの許可も取ったと、箒星は言うのです。

 誘いにのって2人は箒星に乗り、星空を飛び回ります。しかし、途中で箒星の態度が豹変し、尾を激しく振って2人を振り落としてしまいます。2人は海の中に落ち、どんどん沈んでいき、海底でヒトデに出会います。ヒトデは「自分は元は星だった」と言います。悪さをした星が地上に落とされ、ヒトデになるのだそうです。

 海の底からでも、星々やお宮が見えます。2人は諦め、空の住人たちへ別れの言葉を告げました。そこにクジラがやってきて、「天からの追放の書付を出せ」と言います。2人はそんなもの持っていないと困っていると、海蛇がやってきました。海蛇は2人が追放者で無いことに気付き、クジラを叱りつけ、光るヒトデを並ばせて、街頭の役割をさせ、2人を先導します。

 2人はお城に案内され、海蛇の王様に出会います。王様は竜巻に命令して、2人を空に帰してあげました。途中、バラバラになって海に落ちていく箒星が見えました。空に戻ると、童子たちは王様へ報告をし、最後に「箒星を許してやって下さい」と付け加えました。東の空が輝き、もうまもなく夜明けです。

 

「双子の星」(宮沢賢治)

Fall into the Couch by donnierayjones

「双子の星」の解説・考察

宮沢賢治は天体マニア!?

 「双子の星」は作品集『銀河鉄道の夜』の冒頭に掲載されている作品です。同作品集には、星に関する作品が他にもたくさん収録されています。そこからもわかるように、宮沢賢治は星が大好きでした。

 その証拠として、作中に出てくる星座や天体の知識が半端ではないことがあります。「双子の星」では、オリジナルの星座として、大烏、サソリ、兎が登場します。また、「星めぐりの歌」という、星の日周運動を表現した、宮沢賢治オリジナルの歌が登場します。

星めぐりの歌

「あかいめだまの さそり
 ひろげた鷲の  つばさ
 あおいめだまの 小いぬ、
 ひかりのへびの とぐろ。

 オリオンは高く うたい
 つゆとしもとを おとす、
 アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。

 大ぐまのあしを きたに
 五つのばした  ところ。
 小熊のひたいの うえは
 そらのめぐりの めあて。」

引用元:宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(2003)新潮社,第32刷,p.324

 

 

 また、チュンセ童子とポウセ童子というのは、有名なふたご座とは違い、さそり座のちょうど毒針の位置にある星がモデルです。この二つの星について、解説を見ていくと

  • (中略)双子は、いわゆる星座の双子座のものとは全く別のもので、「すぎなの胞子ほどの小さな二つの星」という、素晴らしい存在が、物語の主人公である。
  • (中略)歌の中には「あかいめだまのさそり」と「あおいめだまの小いぬ」という表現が出てくるが、賢治が、星の世界にめだまの存在を意識せざるを得なかったのだと考えると、ここはやはり尋常な星座観察ではなかったのである。
     そしてそれ以上に、「すぎなの胞子」のような星が二つ、「双子」になっているという指摘は、まさに非凡としか言いようのないものである。
     今日、天の川中心部にも近く、暗黒星雲や散光星雲のひしめく時空で、周囲がくっきりとして丸く、まるで水滴のように美しい、高密度の小さな星間物質の固まりが観測される。(中略)これは、星間空間で星が誕生する前の、重力収縮直前の段階の天体と考えられ、星の「胞子」とも呼ばれているのである。

 引用元:宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(2003)新潮社,第32刷,pp.332-333

 長々となりましたが、つまりは童子の元となった星は実際に存在するものであり、現在でも「胞子」と呼ばれているというわけです。このように、作中に登場するものは、芸術性が高いだけでなく、科学的にも正確な知識が下敷きになっているのです。ここまで細かい知識を使っているというのは、正直なところ驚きです。

 

「双子の星」の続きと、賢治の妹

(中略)チュンセ童子とポウセ童子という双子の主人公は、性別もさだかでなく、両性的というより前性的であり、名こそ異なれ、性格等に差異もほとんどない、全く未分化な双子性と無罪性のうちに保護されている。のちの「手紙四」では、チュンセは男の子、ポウセはその妹と言うように分化し、妹を亡ったチュンセは蛙を惨殺したりするようになる(中略)だからこそ賢治はこの「双子の星」の原稿表紙に「一層の無邪気さとユーモアとを有せざれば全然不適」と書いて厳しく自己批評しながら、この最初期童話を大切に保存し、「銀河鉄道の夜」に埋め込みもしたのである。

引用元:宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(2003)新潮社,第32刷,pp.341-342

 引用文にある「手紙四」とは、宮沢賢治が27歳の時に無署名で配布した文章です。リンク先を見ればわかりますが、内容はチュンセとポウセのその後となっています。ポウセが病死してしまい、チュンセはまだ若いですが学校を辞めて畑仕事をしています。チュンセはカエルを見つけると「潰れてしまえ」と言い、石で殺します

 手紙は非常に短いですが、後半には次のようなメッセージがあります。

チュンセはポーセをたずねることはむだだ。なぜならどんなこどもでも、また、はたけではたらいているひとでも、汽車の中で苹果りんごをたべているひとでも、また歌う鳥や歌わない鳥、青や黒やのあらゆる魚、あらゆるけものも、あらゆる虫も、みんな、みんな、むかしからのおたがいのきょうだいなのだから。チュンセがもしもポーセをほんとうにかあいそうにおもうなら大きな勇気ゆうきを出してすべてのいきもののほんとうの幸福こうふくをさがさなければいけない。

引用元:宮沢賢治 手紙 四(青空文庫)

 この手紙を読むと、「双子の星」の印象はガラリと変わります。一筋縄ではいかない作品になります。

 最後に少し付け加えると、手紙におけるポウセは、賢治の妹がモデルになっています。妹は賢治のよき理解者でしたが、彼が26歳の時に若くして亡くなってしまいます。手紙が配布される前年の出来事です。善悪の間で苦悩し、最愛の妹を亡くしたことへの動揺が、手紙の内容に反映されていると思います

 

「銀河鉄道の夜」に登場する「双子の星」

「双子の星」は賢治にとって思い入れの深い作品のようで、代表作の一つである「銀河鉄道の夜」の中にも登場します。その一節を見てみましょう。

「あれきっと双子のお星さまのお宮だよ。」男の子がいきなり窓の外をさして叫びました。
 右手の低い丘の上に小さな水晶ででもこさえたような二つのお宮がならんで立っていました。
「双子のお星さまのお宮って何だい。」
「あたし前になんべんもお母さんから聴いたわ。ちゃんと小さな水晶のお宮で二つならんでいるからきっとそうだわ。」
「はなしてごらん。双子のお星さまが何したっての。」
「ぼくも知ってらい。双子のお星さまが野原へ遊びにでてからすと喧嘩したんだろう。」
「そうじゃないわよ。あのね、天の川の岸にね、おっかさんお話なすったわ、……」
「それから彗星がギーギーフーギーギーフーて云って来たねえ。」
「いやだわたあちゃんそうじゃないわよ。それはべつの方だわ。」
「するとあすこにいま笛を吹いて居るんだろうか。」
「いま海へ行ってらあ。」
「いけないわよ。もう海からあがっていらっしゃったのよ。」
「そうそう。ぼく知ってらあ、ぼくおはなししよう。」

引用元:宮沢賢治『新編 銀河鉄道の夜』(2003)新潮社,第32刷,p.209

 ジョバンニとカムパネルラが銀河鉄道に乗り、南十字駅へ向かう途中、この一節が登場します。両方の作品を知っていると、物語の味がより深くなります。

 

参考文献

 

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