「富嶽百景」(太宰治)のレビュー[あらすじ,考察(解説),感想]

公開日: : 最終更新日:2015/02/09 太宰治

富士を望む天下茶屋で、再起を誓う太宰の姿!

走れメロス (新潮文庫)

参照:「富嶽百景」(青空文庫)

もくじ

 

 

あらすじ

 富獄百景は、太宰が29歳の時の自身の生活をづづったものです。20代前半に華々しく文壇にデビューしたものの、当時の太宰は私生活や作品づくりに問題を抱え、幼馴染の女性と自殺未遂の末、断筆に入っていました。そんな中、浮上のきっかけを掴むべく、師である井伏鱒二を頼って、甲州の御坂峠にある天下茶屋を訪ねます。

天下茶屋

太宰の滞在した天下茶屋

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 そこは富士の名所として知られており、茶屋からも河口湖に抱かれた見事な富士を見ることができます。しかし太宰は、いかにも典型的な富士の姿を見て、「風呂屋のペンキ画だ」と馬鹿にします。
 しばらくして師匠が帰京した後は、太宰は茶屋にて、女将さんとのその娘と三人での生活になります。太宰は茶屋の二階の部屋を借り、考え事をしながらたまに執筆をするといった日々を過ごしていきます。
 なかなか執筆がはかどらない中、太宰は茶屋の人々や、あるいは峠の下の町から太宰を訪ねてきた若者などと交流していきます。そして彼は、その時々に、新たな富士の表情を発見します。やがて彼は、いつも変わらずそこに佇む素朴な姿の富士に頼もしさを感じるようになります。

 しかし太宰は、相変わらず自身の作風に悩み、師匠に取り持ってもらった縁談の話にも、今ひとつ決心がつかずにいました。そこで彼はふと、「富士山に頼もう」と思います。
 すると、縁談も思いのほか上手く進んでいき、女将さんや娘さんの素直で純朴な心をありがたく思うようになります。やがて、秋も深まり、峠の周辺も閑散としてきた中、太宰は茶屋を去る決心をします。

 

 考察(解説)

  物語の考察については、新潮文庫の解説が簡潔にまとまっていて、わかりやすいです。まずはそれを見ましょう。

……簡潔でドライな文体が快く、緊張の中に含羞の風穴をつくりながら、自然と人間の厳しい対立の心象風景を描いている……

(『走れメロス』新潮社,第92刷,2011,p.290)

(※ 含羞というのは、「はにかみ」「はじらい」といった意味です)

 まず、「簡潔でドライな文体」ですが、これは噛み砕いて言いますと、印象的なフレーズが多く見られる、といったところです。富嶽百景で有名なのは、作中にでてくる「富士には、月見草がよく似合う」という言葉です。このような言葉がたくさんあり、詩的な要素も含まれた作品だと思います。

 他にもいくつか挙げるとすれば、天下茶屋から見える、絵葉書にでもなりそうな富士山の姿を見ての「これは、まるで、風呂屋のペンキ画だ」という一言。
 他にも、若者が太宰を尋ねてきたシーンです。若者は、太宰は性格破綻者などと聞いていて、来るのを尻込みしていました。そして、覚悟を決めていざ会ってみたら、真面目でしっかりした人で、驚いたと言います。そこで、太宰が窓の外で変わらず立っている富士を見ての一言。「いいねえ。富士は、やっぱり、いいとこあるねえ。よくやってるなあ」などです。

御坂峠からの富士山

御坂峠からの富士山

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 「緊張の中に含羞の風穴」については、正確な説明になるかわかりませんが、作中のシーンやエピソードの中にある、緊張と緩和です。例えば、富士を見るために、太宰が師匠とともに茶屋の近くの山に登った際に、霧が濃くて視界が殆ど無いといったシーンがあります。すると山頂の茶店から老人夫婦が出てきて、晴れの日に富士山が見えるところに立って、大きな富士の写真を掲げるのです。それをみて二人で「いい富士をみた」と言います。

 このような緊張と緩和が、作中にいくつも見られ、思わず笑ってしまいそうになります。先ほどのフレーズの話も含めて、作品は全体として爽やかで、ハツラツとしており、肩の力が抜けている印象を受けます。読んでいて朗らかになります。

 「自然と人間の厳しい対立の心象風景」については、ある時は平凡に、ある時は飄々と佇んで、またある時は色っぽく、しかしやはり味気なく。ところが頼り甲斐があり、結局は富士はいつも変わらず、定まらないのは人間の心である、といったところでしょう。
 ちょっと行き過ぎた解釈かも知れませんが、これは親に対する子の気持ちに似ています。口うるさくてつまらないと反発していたが、やはり頼り甲斐があり、いつもかわらずそこにいる。しかしいつかは親元を離れなければならない、というわけです。

 

おわりに(感想)

 考察というより、考察の説明になってしまいました。繰り返しになりますが、とても爽やかで、ユーモアがあって、肩の力の抜けた、読むと元気になる作品です。

参考文献

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