自伝に見るドナルド・トランプ[名言,選挙戦術,取引,交渉術]

2018年3月10日

嘘か本当か? 華麗なる自叙伝!


トランプ自伝 不動産王にビジネスを学ぶ

取引のコツ/市場・社会を見分ける勘/マスコミの利用法

トランプ流取引の方法

 私の取引のやり方は単純明快だ。ねらいを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押して押して押しまくる。時には最初にねらったものより小さな獲物で我慢することもあるが、大抵はそれでもやはりほしいものは手に入れる。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,p.63)

 上に引用したのは、本の序盤、ビジネス全般についての章の冒頭部分だ。

 アメリカ大統領選が終了し、Amazonでベストセラーになっているトランプの自伝書。1987年出版、今から約30年前に書かれたものだが、ドナルド・トランプの考えはこの頃にすでに確立されていたようだ。今回の選挙戦で彼が使ったメディア戦略や発言の意図につながる記述が、この自伝書に多く見られる。

取引のコツ

取引で禁物なのは、何が何でもこれを成功させたいという素振りを見せることだ。こちらが必死になると相手はそれを察知する。そうなるとこちらの負けだ。一番望ましいのは優位に立って取引することだ。この優位性を私はレバレッジ(てこの力)と呼ぶ。レバレッジとは相手が望むものをもつことだ。もっといいのは、相手が必要とするものをもつこと、そして一番いいのは、相手がこれなしでは困るというものをもつことだ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp71-72)

 選挙戦を見ていた時、トランプはあまり必死そうには見えなかった。「ああしたい」「こうしたい」という主義主張は強かったが、「大統領になりたい」とは言わなかった。一方で、ヒラリーは口では言わなくても「大統領になりたい」というのが見え見えだった。もう一つ言えば、「大統領になりたい」と同時に「トランプを大統領にしたくない」という気持ちが出ていた。

 ヒラリーは欲しいものを相手に察知されていた。加えて、大統領になることが「目的」で、その先で何をしたいのか不明瞭だった。一方で、トランプはまず政策ありきだった。こういう政治をしたいという「目的」があり、大統領になるのはあくまでも「手段」。そういう風に自分を売り込むことができるのが、トランプのすごいところかもしれない。

市場を見分ける「勘」

 市場に対するカンの働く人と働かない人がいる。
(中略)
 私にもそのようなカンがある、と自分では思っている。だから複雑な計算をするアナリストはあまり雇わない。最新技術によるマーケット・リサーチも信用しない。私は自分で調査し、自分で結論を出す。何かを決める前には、必ずいろいろな人の意見をきくことにしている。(中略)土地を買おうと思う時には、その近くに住んでいる人びとに学校、治安、商店のことなどをきく。知らない町へ行ってタクシーに乗ると、必ず運転手に街のことを尋ねる。根ほり葉ほりきいているうちに、何かがつかめてくる。そのと時に決断を下すのだ。(中略)
 その他に、私が本気でとりあわない相手は評論家だ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp69-70)

 この部分は、今回の選挙の勝利、特に世論調査と投票結果の乖離を言い当てているようで面白い。どの世論調査を行ってもヒラリーの勝利が確実という中、蓋を開けてみればトランプが幾つもの州で接戦を制していた。アメリカの主要メディアや評論家の多くはトランプの勝利を全く予想できていなかったが、中には早い段階でトランプの勝利を予期していた人もいた。メディアを通した情報ではヒラリー優勢と出ていても、町へ出て人々の声を聞くと、トランプを支持する声が非常に多かったらしい。

 そういう生の声を肌で感じた人は、どこかでトランプの勝利を予期していたのだんだろう。トランプ自身もそうだと思う。じゃなきゃあ、大統領選出馬という大博打を打つはずがないし、メディアの四面楚歌の中で強気な姿勢を押し通すことはできない。

 ただ、一つ覚えているのは、投票日が迫るに連れてトランプの発言が少しぶれてきたところだ。さすがに世界一の大国の政治のトップになろうという局面で、世界中のメディアを敵に回したのだから、さすがのトランプも自分を見失いそうになったんじゃないか? それくらい、ギリギリの戦いだったというわけだ。

マスコミの利用方法

 どんなに素晴らしい商品を作っても、世間に知られなければ価値は無いに等しい。(中略)広報専門家を雇い、多額の金を払って商品を売るのも一つの方法だ。しかし私にとってはこれは市場を調査するのに外部のコンサルタントを雇うのと同じだ。自分でやったほうがずっと効率がよい。
 マスコミについて私が学んだのは、彼らはいつも記事に飢えており、センセーショナルな話ほど受けるということだ。(中略)要するに人と違ったり、少々出しゃばったり、大胆なことや物議をかもしだすようなことをすれば、マスコミがとりあげてくれるということだ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp74-75)

 選挙戦では高額な宣伝費で有名人に応援してもらったヒラリーに対し、トランプは費用を抑え、なおかつその多くをポケットマネーでまかなってきた。あえて暴言を吐き、タダでマスコミに取り上げてもらう。結果として、多くの敵もつくったが味方もつくり、結果的に選挙に勝手しまった。その伏線は、30年前の著書にしっかり書かれていたというわけだ。

マスコミを宣伝に利用する

 私はマスコミの寵児というわけではない。いいことも書かれるし、悪いことも書かれる。だがビジネスという見地からすると、マスコミに書かれるということはマイナス面よりプラス面のほうがずっと多い。理由は簡単だ。ニューヨーク・タイムズ紙の一面を借りきってプロジェクトの宣伝をすれば、四万ドルはかかる。そのうえ、世間は宣伝というものを割り引いて考える傾向がある。だが、ニューヨーク・タイムズが私の取引について多少とも好意的な記事を一段でも書いてくれれば、一銭も払わずに四万ドル分よりもはるかに大きな宣伝効果をあげることができる。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,p.75)

 この考えは確かに効率的だ。ビジネスではかなり有用だろう。ただし、それが選挙でもうまくいくかは別だ。ビジネスは話題にさえなれば良いが、選挙は「善悪」という概念が入ってくる。ギリギリの暴言と極論で、ギリギリのところで勝利する。これをトランプはどこまで計算していたのか? 勝算があったのは間違いないだろうが、正直なところはフィフティーフィフティーだったんじゃないだろうか? それでも、選挙に無駄な金は使っていないし、選挙で負けても本業がある。負けた時のことまで考えて、勝率50%、人生最大の大博打を打ったというのが本当のところじゃないかと、個人的には思う。

 トランプは70歳。もし自分が、アメリカの不動産業界で大成功し、残りの人生は20年あるかないかという立場だったらどうだろう? そこで「1/2の確立で大統領になれます。歴史に名を残せます」と言われたらどうするか? この辺を想像すると面白い。

自分の魅せ方/夢をかき立てる

 もう一つ私が心がけているのは、記者たちとは正直に話すということだ。相手をだましたり、自己弁護しないように気をつける。こういう態度をとると、マスコミを敵にまわすことになるからだ。記者に意地の悪い質問をされた時は、見方を逆にしてなんとか肯定的な答えをするように努める。
(中略)
人びとの夢をかきたてるのだ。人は自分では大きく考えないかもしれないが、大きく考える人を見ると興奮する。だからある程度の誇張は望ましい。(中略)私はこれを真実の誇張と呼ぶ。これは罪のないホラであり、きわめて効果的な宣伝方法である。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp76-77)

 取引のところと合わせて、これはもう仕事でも恋愛でも通じる、対人関係のコツと言っていいかもしれない。特に、男が女を口説く時の正攻法と言っていいかもしれない。相手をどうしても手に入れたいという気持ちは決して出さず、正直で、相手を騙すことなく、自己弁護もしない……という人間だと相手に思い込ませる。ミスや欠点をつかれても、「いや、実はこういう良いところがあるんだよ」と返す。否定するのではなく、見方を変えさせる。そして、最後は誇張だ。「真実の誇張」というのはなんとも絶妙な言い回し。

 選挙戦でこれを100%できたかと言われればそうではないが、少なくともアメリカ国民の半分に「トランプは正直者だ」と信じ込ませることはできた。長い選挙戦でメディアを敵に回した状況で、はっきり言ってすごいことだ。そして、それは「ヒラリーが持っていないもの」「ヒラリーが欲していたもの」だろう。ヒラリーは最後の最後まで「嘘つき」というレッテルを貼られていた。結局、選挙に負けたのもそのせいだと言われている。

 30年前の著書の内容が、大統領選挙という一世一代の大舞台で現実のものとなったのは、偶然なのか必然なのか?

成功の秘訣と交渉テクニック

時代の波に乗ったトランプ

 自伝では、トランプがマンハッタンで不動産経営を始める様子も描かれている。1970年代、当時のニューヨークは不景気で、市の財政も悪化、建物も老朽化が目立ってきたという時代。若きトランプは故郷のクイーンズからマンハッタンに移り、目ぼしい土地はないかと探し回っていた。そこで彼が目をつけたのが、市の援助が受けられる再開発地区や、老朽化したホテル跡地だった。

 結果から言うとここで彼は不動産で名を挙げるわけだけど、何でトランプが成功したかってのが気になる所。自伝を読んだ限りでは、やはり時代背景が大きいと思う。不況でいい土地や建物が安く手に入ったことが大きい。もちろん、トランプ自身もそれを狙っていた。そもそも彼の父親が不動産業を営んでおり、トランプも学生時代から不動産業に手を出していた。その上で、「不動産はタイミング」「安く買って高く売る」という基本方針をすでに持っていた。そこで不況にあえぐ世界の大都市マンハッタンに目を付け、誰も買い手がつかないような不動産を上手く利用したというわけだ。

人脈を築く

 もちろん、時代が良いというだけで成功するとは限らない。トランプが成功した要因は、人脈・交渉・宣伝能力の高さだ。良い不動産があったとして、購入のきっかけをつくるにはまず人脈がいる。その辺のアパートなんかを買うのなら業者に頼めばいいだけだが、ニューヨークのマンハッタンにある大型の不動産を買うとなればわけが違う。業界の大物に接触する必要がある。ただ金があればいいというわけではない。

 当時のトランプは金はそこそこあったが、マンハッタンでの実績は皆無。父親と別の区で行ってきた事業の実績くらいしかない。そこで彼は、早い段階からマンハッタンでの生活を始め、時に大胆な方法で人脈を築き、不動産業界の大物、市長、政治家、弁護士、仲介業者など様々な人脈を築いていった。いざ不動産がみつかり、素晴らしい開発計画があったとしても、不動産を購入・開発するまでには様々な契約・交渉が必要になる。そこでいつでも相談できる優秀な人脈を、トランプは持っていた。

「粘り勝ち」のトランプ流交渉術

 交渉におけるトランプの戦法は、前述した通り。もう一度下に引用してみると

取引で禁物なのは、何が何でもこれを成功させたいという素振りを見せることだ。こちらが必死になると相手はそれを察知する。そうなるとこちらの負けだ。一番望ましいのは優位に立って取引することだ。この優位性を私はレバレッジ(てこの力)と呼ぶ。レバレッジとは相手が望むものをもつことだ。もっといいのは、相手が必要とするものをもつこと、そして一番いいのは、相手がこれなしでは困るというものをもつことだ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp71-72)

 当時のマンハッタンの状況を考えれば、当初からトランプは優位な立場にあったことがわかる。不況で再開発がろくに進まず、買い手のつかない老朽化したホテルがある。その時点で、不動産を開発する側のトランプは優位だったわけだ。

 ただ、それだけでマンハッタンの優良不動産は手に入らない。ライバル業者がいれば、市からの減税措置の承認や銀行からの融資も必要だし、市の再開発に携わるということでマスコミも味方につける必要がある。ライバルを出し抜くには人脈を利用して、先に話をつけてしまえば何とかなる。問題なのは市や銀行を相手にした交渉だ。トランプいち早く不動産に目をつけ、自分を売り込み、信用させ、開発によるメリットを示す。ここでは彼の宣伝能力の高さもいかんなく発揮される。

おかしなことに、市が財政難に陥っているという事実が、私の最大の武器になった。パルミエリには、死に瀕した街のうらぶれた一角にある経営不振のホテルを買おうというようなデベロッパーは、私以外にはないと主張できた。銀行に対しては、市の再建に協力する意味で、銀行には新規事業に融資する道義的責任がある、と指摘できた。そして市に対しては、大規模な税の軽減を認めることは、市にとってもさまざまな利益をもたらす、と筋道たてて説明することができた。つまりこちらはホテル再建により建設とサービスに関連した何千という新たな雇用をうみだし、環境の悪化をくい止めることができる。そして最終的に市は、ホテルがもたらす利益をすべて享受することができるのだ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,p.144)

 老朽化したホテルを買い取り、再建にあたっては銀行の融資と市の減税措置を得る。トランプの基本方針はこうだが、結局のところ開発までの道のりは二転三転する。銀行の融資を受けるには市の減税措置が必要だが、市はなかなか承認しない。ここからトランプの「粘りの交渉」が始まる。

 例え平行線でも交渉は維持し、タイミングを見計らう。この交渉では、ホテルの経営悪化、周辺地区の治安悪化、ハイアット(米大手ホテルチェーン)が事業参加に乗り気だがそれには減税措置が必須という3つの要素がカギとなった。なかなか承認しない市だが、老舗のホテルが今にも潰れそうになり、周辺地区もスラム化していき、徐々にトランプに頼らざるを得なくなる。一方、トランプは実績にこそ乏しいものの、ハイアットと話をつけ、敏腕の仲介業者とも手を組み、買収と開発に向けての準備は万端だった。

 やるべきことはやって、あとは粘りに粘ってタイミングを見計らう。トランプのイメージと重ならないかもしれないが、意外とオーソドックスな交渉術だ。

日常で役立つ交渉テクニック

 この辺を見ていくと、世の中の様々なことに通じる「交渉術」が見えてくる。

「①スピードとタイミング ②相談相手を持っておく ③売り込み ④粘り」

 良いタイミングで、早めに手をつける。これが交渉のスタートになる。そして、交渉の中で必ず大小の問題が生じるので、そこで相談できる相手を持っておく。これは事前にできることだ。そして、いよいよ売り込みを行う。交渉では何かとここが重視されがちだが、そこに行くまでやるべきことはたくさんあるし、他の要素と比べればここはそれほどウエイトは重くないとわかる。イメージ先行で考えると売り込みにばかり目が行くが、交渉の要素の一つでしか無い。そして、最後は粘りだ。

政治

Posted by hirofumi