自伝に見るドナルド・トランプの人物像

公開日: : 最終更新日:2016/11/22 コラム - 時事・社会, ドナルド・トランプ

1、悪役を演じる狡猾なる経営者……?

トランプ自伝

大統領選を予知するかのような記述

私の取引のやり方は単純明快だ。ねらいを高く定め、求めるものを手に入れるまで、押して押して押しまくる。時には最初にねらったものより小さな獲物で我慢することもあるが、大抵はそれでもやはりほしいものは手に入れる。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,p.63)

 上に引用したのは、本の序盤、ビジネス全般についての章の冒頭部分だ。

 アメリカ大統領選が終了し、Amazonでベストセラーになっているトランプの自伝書。1987年出版、今から約30年前に書かれたものだが、ドナルド・トランプの考えはこの頃にすでに確立されていたようだ。今回の選挙戦で彼が使ったメディア戦略や発言の意図につながる記述が、この自伝書に多く見られる。

 

市場に対するカンの働く人と働かない人がいる。
(中略)
私にもそのようなカンがある、と自分では思っている。だから複雑な計算をするアナリストはあまり雇わない。最新技術によるマーケット・リサーチも信用しない。私は自分で調査し、自分で結論を出す。何かを決める前には、必ずいろいろな人の意見をきくことにしている。(中略)土地を買おうと思う時には、その近くに住んでいる人びとに学校、治安、商店のことなどをきく。知らない町へ行ってタクシーに乗ると、必ず運転手に街のことを尋ねる。根ほり葉ほりきいているうちに、何かがつかめてくる。そのと時に決断を下すのだ。(中略)
その他に、私が本気でとりあわない相手は評論家だ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp69-70)

 この部分は、今回の選挙の勝利、特に世論調査と投票結果の乖離を言い当てているようで面白い。どの世論調査を行ってもヒラリーの勝利が確実という中、蓋を開けてみればトランプが幾つもの州で接戦を制していた。アメリカの主要メディアや評論家の多くはトランプの勝利を全く予想できていなかったが、中には早い段階でトランプの勝利を予期していた人もいた。メディアを通した情報ではヒラリー優勢と出ていても、町へ出て人々の声を聞くと、トランプを支持する声が非常に多かったらしい。

 そういう生の声を肌で感じた人は、どこかでトランプの勝利を予期していたのだんだろう。トランプ自身もそうだと思う。じゃなきゃあ、大統領選出馬という大博打を打つはずがないし、メディアの四面楚歌の中で強気な姿勢を押し通すことはできない。

 ただ、一つ覚えているのは、投票日が迫るに連れてトランプの発言が少しぶれてきたところだ。さすがに世界一の大国の政治のトップになろうという局面で、世界中のメディアを敵に回したのだから、さすがのトランプも自分を見失いそうになったんじゃないか? それくらい、ギリギリの戦いだったというわけだ。

 

取引で禁物なのは、何が何でもこれを成功させたいという素振りを見せることだ。こちらが必死になると相手はそれを察知する。そうなるとこちらの負けだ。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,p.71)

 選挙演説での余裕っぷりは、幾多の取引を行ってきた教訓からきていたのかもしれない。それにしても、この自伝は面白い。

 

マスコミを利用した低コストの選挙戦

 どんなに素晴らしい商品を作っても、世間に知られなければ価値は無いに等しい。(中略)広報専門家を雇い、多額の金を払って商品を売るのも一つの方法だ。しかし私にとってはこれは市場を調査するのに外部のコンサルタントを雇うのと同じだ。自分でやったほうがずっと効率がよい。
 マスコミについて私が学んだのは、彼らはいつも記事に飢えており、センセーショナルな話ほど受けるということだ。(中略)要するに人と違ったり、少々出しゃばったり、大胆なことや物議をかもしだすようなことをすれば、マスコミがとりあげてくれるということだ。(中略)

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,pp74-75)

 選挙戦では高額な宣伝費で有名人に応援してもらったヒラリーに対し、トランプは費用を抑え、なおかつその多くをポケットマネーでまかなってきた。あえて暴言を吐き、タダでマスコミに取り上げてもらう。結果として、多くの敵もつくったが味方もつくり、結果的に選挙に勝手しまった。その伏線は、30年前の著書にしっかり書かれていたというわけだ。

 

 私はマスコミの寵児というわけではない。いいことも書かれるし、悪いことも書かれる。だがビジネスという見地からすると、マスコミに書かれるということはマイナス面よりプラス面のほうがずっと多い。理由は簡単だ。ニューヨーク・タイムズ紙の一面を借りきってプロジェクトの宣伝をすれば、四万ドルはかかる。そのうえ、世間は宣伝というものを割り引いて考える傾向がある。だが、ニューヨーク・タイムズが私の取引について多少とも好意的な記事を一段でも書いてくれれば、一銭も払わずに四万ドル分よりもはるかに大きな宣伝効果をあげることができる。

引用元:『トランプ自伝』(2016(原著1987),ドナルド・トランプ,筑摩書房,第3刷,p.75)

 この考えは確かに効率的だ。ビジネスではかなり有用だろう。ただし、それが選挙でもうまくいくかは別だ。ビジネスは話題にさえなれば良いが、選挙は「善悪」という概念が入ってくる。ギリギリの暴言と極論で、ギリギリのところで勝利する。これをトランプはどこまで計算していたのか? 勝算があったのは間違いないだろうが、正直なところはフィフティーフィフティーだったんじゃないだろうか? それでも、選挙に無駄な金は使っていないし、選挙で負けても本業がある。負けた時のことまで考えて、勝率50%、人生最大の大博打を打ったというのが本当のところじゃないかと、個人的には思う。

 トランプは70歳。もし自分が、アメリカの不動産業界で大成功し、残りの人生は20年あるかないかという立場だったらどうだろう? そこで「1/2の確立で大統領になれます。歴史に名を残せます」と言われたらどうするか? この辺を想像すると面白い。

 

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