横浜DeNAベイスターズの球団経営改革!『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』レビュー

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スポーツビジネスの教科書 常識の超え方

横浜DeNAベイスターズの球団経営改革! – もくじ

  • 書籍情報・著者略歴
  • 『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』総評・感想
    • 「スポーツビジネスの教科書」の謳い文句に値する内容!
    • マーケティングのプロが球団を変える!
      球団売上向上の章は必見!
    • 客観的にプロ野球を捉えることで、本質が見える!

<『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』内容要約・解説>

  • 横浜DeNAベイスターズの長期目標
    • 驚きの経球団経営改善化!
    • 新興IT企業「DeNA」と、若き球団社長
    • 経営によって組織が強くなれば、その一部も強くなる
  • 球団の売上を向上させるには?
    • 不確実な要素と確実な要素
    • 「売上」は伸びしろが多い
    • 730チケットや球団企画運営のグッズの利用
  • 球団もチームも意識改革
    • IT技術活用で選手の特徴や指導方針を一元管理
    • 自前のコーチは選手のセカンドキャリア
    • 球団が変わればチームも変わる
  • 球場経営と球団経営の一体化

書籍・著者略歴

【著者略歴】
  • 1976年生まれ、北海道出身。小3より神奈川県横浜市移住。
  • 早稲田大学卒業。
  • 住友商事、博報堂(マーケティング・コンサルティング関連業務)で勤務の後、2005年に有限会社プラスJ設立。
  • 2007年 (株)ディー・エヌ・エー (DeNA) 入社。マーケティングコミュニケーション室長、E★エブリスタ代表取締役社長を歴任。
  • 2011年 DeNAの横浜ベイスターズ買収に伴い、同球団代表取締役社長就任。
  • 2016年 横浜スタジアムの買収に成功。5年の間に球団黒字化を実現。同球団代表取締役社長退任(任期満了)。日本プロサッカーリーグ(Jリーグの管理運営)特任理事就任。
  • 2017年 明治大学学長特任補佐(スポーツ領域の統括)就任。「Number Sports Business College」開講。日本ラグビー協会特任理事就任。

参考:池田純 – Wikipedia / 『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷

『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』総評・感想

「スポーツビジネスの教科書」の謳い文句に値する内容!

 著者の池田純氏は、実際に球団社長を経験し、文句のつけようのない結果を出し、現在も日本のスポーツビジネス分野で多岐に渡って活躍するという経験豊富な専門家。その経験を活かして、プロ野球の球団経営に関して過不足なく考え方と情報をまとまてある。まずその点で、非常に有用性が高い。一方で、素人でも非常に読みやすい文体・構成であり、野球好き、スポーツに興味があると言った人が楽しめる内容となっている。

 内容は「球団経営とはどういうものか?」「フランチャイズの重要性」「球団の売上向上」「球場経営」「球団経営のコスト」「強い組織(チーム)づくり」「海外のスポーツビジネス」と充実の内容。すべての章に渡って目から鱗の実用性の高い情報が満載。スポーツビジネスの現場で働く人にも非常に役立つと思う。

マーケティングのプロが球団を変える!
球団売上向上の章は必見!

 全編に渡って密度の濃い内容だが、その中でも素晴らしい出来は「売上向上」の章。「チケット」「グッズ」「スポンサー」「放映権」に分けて、斬新かつ合理的な方法を紹介している。池田氏はサラリーマン時代にマーケティング畑で経験を積んできただけあって、専門用語を使いつつ「なるほど」と思わせるアイディアが満載だ。球団の売上の内訳を知るという意味でも、非常に面白い。5年で売上を倍にしたという事実はまさに「論より証拠」。

客観的にプロ野球を捉えることで、本質が見える!

 池田氏は球団社長就任時、経営は知っていてもスポーツ分野は初体験。ある意味「素人」の立場から客観的に球団経営を分析したことで、旧来の球団経営が抱えていた問題・課題の本質を浮き彫りにしている。

 また、あくまで池田氏は球団は「いち企業」であり、経営が第一というスタンスを取っている。そして、チームは組織の一部とする。もちろん、チームやその選手たちを軽視するという意味ではない。組織の柱である経営がしっかりすることこそチームのためにできること、という考えだ。

 詳細は本記事で後述するが、まさに有言実行で経営を良くすることでチームが盛り上がり、2016年に初のCS進出を果たす(2017年には日本シリーズ進出だ)。どうして経営がチームの強さに繋がるか、知りたい人は本書を読むべし!

『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』内容要約・解説

横浜DeNAベイスターズの長期目標

驚きの経球団経営改善化!

 2011年から2016年の5年間、横浜DeNAベイスターズはチームとして躍進し、初のクライマックスシリーズ進出&セカンドステージ進出と、約20年ぶりの日本シリーズ進出も狙えるところまできました(池田純氏退任の翌年には、ついに日本シリーズに進出しました!)。

 そんなDeNAベイスターズは、実はチームの躍進だけでなく、球団としても大幅な経営改革を実施し、文句のつけようのない結果を出してきました。

  • 観客動員数:約100万人⇒約200万人
  • 座席稼働率:約50%⇒90%以上
  • 満員試合数:5試合⇒54試合
  • ファンクラブ会員数:約7.5万人(10倍以上)
  • グッズ売上:3億⇒20億以上
  • 売上:約50億⇒100億以上
  • 利益:▲24億⇒△5億

参考:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,pp19-20(一部数字の表記を省略)

 どうでしょう? 論より証拠とはよく言ったもので、この結果を見せられると見事としか言いようがありません。とりわけ注目したいのは、20億を超える赤字の会社を黒字化に成功した点です。実はプロ野球界では球団が赤字のチームはたくさんあります。球団にはオーナー企業がありますが、オーナーが赤字を「広告費」として補填できるため、球団の経営改善に積極的でないチームがあるというわけです。これは日本のプロ野球界の「悪しき慣例」ともいうべきものでしたが、2000年代に入ってパ・リーグを中心に経営改革に乗り出す球団が増えてきました。ベイスターズもオーナー企業が変わったことで、チーム運営なども含めて改革を推し進めたのです。そして、その舵取り役を担ったのが、今回紹介する本の著者「池田純」氏です。

新興IT企業「DeNA」と、若き球団社長

 早稲田大学卒業後、一流企業でマーケティング業務に携わり、若くして独立。新興IT企業のDeNAへ入社後まもなく、経験を生かして球団社長に就任します。その時点で若干35歳。これまでのプロ野球界の歴史を見ても異例の大抜擢でした。

 当時はDeNAも「単なるゲーム系の新興IT企業」などと揶揄され、スポーツ経営に関しては実質的に素人の社長に対しては、風当たりも強かったそうです。しかし、わずか5年の間にこれ以上ない結果を出し、いまやベイスターズはセ・リーグの期待の星。横浜市民にも非常に愛され、球場は2020年のオリンピック会場(野球)に選ばれるなど、話題に事欠かない球団となりました。

経営によって組織が強くなれば、その一部も強くなる

 池田純氏はあくまでチームや選手を尊重した上で「チームの運営は球団の経営の一面に過ぎない」と考えます。

 経営を起点として考えると、チームは球団という会社の「商品」です(あくまで経営という文脈の中でチームを「商品」と表現していますが、スポーツやチームや選手を軽視しているわけでは決してありません)。「商品」を「経営」と切り離して考える経営者などいないでしょう。
(中略)
 優勝という目標を達成した後も、あるいは達成できなくても、経営は続くのです。会社の「目標」が優勝であり続けることも、会社の第一義の「目的」が優勝であることもありえないのです。あくまで企業、会社である以上、スポーツでビジネスをする以上、普通の株式会社同様に「経営」を起点にしてものごとを考えるべきなのです。

引用元:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,pp22-23

 引用部分にもあるように、チームや選手をおろそかにしているわけではありません。池田氏が言いたいのは「会社である球団の第一の目標は経営であり、経営で組織を強くすれば、その一部であるチームも必然的に強くなる」ということです

 確かに球団にとってチームは「顔」ですが、あくまで組織の一部でしかありません。例えて言うならば、企業の中の花形といわれる部署でしょうか。では、その会社はその部署にだけ力を入れれば組織として強くなるでしょうか? 一定の効果はあっても、それだけでは不完全です。一方、会社全体を組織として強くしていこうと考えれば、自然とそれが全体の部署に波及し、その一つである「花形部署」も強くなる。どう考えてもこちらの方が理に適っています。球団はその性質上、チームの動向にばかり目が向かいがちですが、それを今一度見直そうというわけです。

球団の売上を向上させるには?

不確実な要素と確実な要素

 では、実際に池田氏が力を入れた「経営」とは何でしょうか? わかりやすい例を挙げれば、チームの売上向上(チケット収入、グッズ販売、スポンサー獲得、放映権の拡大)です。プロ野球の球団経営は案外わかりやすく「モノやサービスを売って収益をあげる」というのが第一目標です。一方で費用としては人件費(選手の年棒も含まれる)、上にあげたサービスやモノを作るための費用があります。

 仮にチームの優勝を第一目標としたら、売上は向上するでしょう。しかし、それを維持するのは大変なことです。プロスポーツで連覇することは難しく、常勝軍団でいるためには選手の年棒もかなり高くなるでしょう。ましてや、スポーツは金をかければ勝てるという単純なものではありません。球団にとってある意味で「不確実な要素」がチームといういわけです。

 一方で、売上は確実性があります。フランチャイズを強化し、球場で楽しい時間を過ごせる工夫をし、球場以外でも人々に喜びを与える。そうすれば、お客さんが毎日やってきて、様々な形でお金を払ってくれます。

「売上」は伸びしろが多い

 5年間で20憶の赤字を黒字に転換させることは容易ではありません。それを達成した秘訣は、いろいろな意味で「お客さんに愛される球団になる」ことです。例えば池田氏が力を入れたのは「チケット販売」と「グッズ収入」。様々な工夫をして球場を楽しいものにした上で、チケットをいかに売るかを考えれば、固定のファンができ球場内での売上も伸び、観客が増えることでチームのモチベーションも上がります。

 一方グッズは、球団にとっては管理が最もしやすい分野になっています。さまざまなアイディアを具現化することができますし、目的に応じた商品展開もしやすい。さらに言えば、プロ野球の球団にはグッズにそれほど力を入れていないところも多く、そもそも伸びしろが大きい分野でもあります(参考:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,p.85)。

730チケットや球団企画運営のグッズの利用

 当初空席が目立っていたベイスターズは、試合以外でもお客さんが楽しめるような施策をいくつも考えました。その上で、例えば無料券を配るにしても「子供向け」にします。子供のうちに球場の楽しさを伝えれば、将来のお客さんになりえますし、子供は親と同伴なのできちんとチケット代も得られます。他にも有名なのは、730(ななさんまる)チケット。これは19時半以降の入場は割安という販売方式です。仕事帰りの人が手軽に購入し、生まれ変わった球場の楽しさを知ることができる(pp72-74)。

 グッズ収入については、「球場に来るたび新しいグッズと出会える」というテーマを掲げ、商品の企画開発から球団で行います。在庫を抱えるリスクなどがある反面、グッズを通してよりファンと密接にコミュニケーションができるというメリットがあります。例えば「普段使いのできるグッズ」を作ったり、過去の球団マスコットや引退したスター選手の関連グッズを作ったり、実に様々な方法でファンが楽しめる工夫をします(pp88-97)。

球団もチームも意識改革

IT技術活用で選手の特徴や指導方針を一元管理

 スポーツも経営も組織で行うことに変わりはありません。そこで池田氏が重要視したのは意識改革。「失敗から学び、次に生かす」という意識付けを徹底します。例えば試合の後、反省をして問題点を洗い出し、次に失敗しないための対策を練るという作業は、選手だけでなくコーチ陣にも促します。そこでは得意のIT技術が活用されます。戦術、コーチの指導方針、育成方法に至るまで、まずは全体で基本的な方針を共有し、適時情報を確認・更新していき、例えば途中でコーチが変わってもこれまで方針がぶれないような体制を整えます。チーム運営にあたってのITシステムは「BOS(ベースボールオペレーションシステム)」です。ファイターズを始め複数の球団がすでに利用しているシステムで、ベイスターズでは独自開発を行ったそうです。

……ベイスターズでも、選手個々の能力や状態を数値化することなどによって、クラウドシステムで情報を一元管理するBOSを独自に開発しました。現有戦力のパフォーマンスを最大化させるためのシステムを経営側が構築したわけです。
 このシステムにはある選手が二軍で何が課題とされ、どんな指導を受けてきたのかといったレポートの蓄積と情報共有システムも含まれています。(中略)指導者の情報が平均化、共通化されたことによって、選手が迷う、戸惑う指導をなくすことができました。

(引用元:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,p.227)

 また、すでにアメリカのスポーツリーグで活用されている「トラッキングシステム」を利用し、選手のコンディデョン管理、相手選手分析、ドラフト・トレードへの活用もなされています。他にも、選手・コーチにはiPadを配布し、データや動画をいつでも確認できるようにしています。今やプロ野球界でもIT技術の利用は当たり前になりつつありますが、オーナー企業がIT専門という強みは大きいでしょう。楽天イーグルスなども他のチームにはない独自IT技術をもってチーム運営に役立てています。(参考:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,pp227-228)

自前のコーチは選手のセカンドキャリア

 プロ野球界ではかつてチームで活躍していたOBをコーチとして採用することは珍しくありません。一方で、自前のコーチばかりでは組織改革ができない、外様のコーチを呼ぶべきだ、と言う声もよく聞かれます。このコーチ人事に関して、池田氏は独自の考えを持っているようです。

……ひと昔前は、一軍の監督などが、自分のスタッフとしてコーチやチームスタッフを連れてくる「監督人事」も多く、監督が辞めるとコーチやスタッフも一斉に辞める、ということが多々あったようです。経営とチームが分断されていることを顕著に示す事態ですし……

(引用元:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,p.223)

  有名な監督やコーチを招へいするメリットより、上に引用したデメリットの方が球団経営にとって大きいという判断のもと、「自前でチーム首脳陣を育成する」という考えを示します。

 加えて、これには選手のセカンドキャリアを確保するというメリットもあります。メジャーリーグでは年金制度まであり、引退後の選手の生活は様々な面で恵まれています。一方で、日本では基本的に「本人任せ」の面が大きいでしょう。有名選手・人気選手ならばある意味でセカンドキャリアは保障されています(首脳陣やチームスタッフ、解説者など)が、他の選手はそうはいきません。

 しかし考えて欲しいのは、選手として成功した人が必ずしも名コーチ・監督になるわけではありません。例えば選手として成功できなかった人の中に、コーチとしての適性を持った人、あるいは勉強熱心な人、学歴の高い人などがいれば、彼らの能力を活かして首脳陣としての未来を与えることもできます。先ほど紹介したBOSでは、こういったデータも幅広く管理しているので、活用の可能性は十分にあります。

 本記事「経営によって組織が強くなれば、その一部も強くなる」の項で、「優勝してもしなくても経営は続く」という言葉を引用しました。まさにその言葉のように、長期的な視野と継続性を意識すれば、首脳陣を自前で育成するというのは理に適っています。

球団が変わればチームも変わる

 本記事の「驚きの経球団経営改善化!」の項で引用したように、5年の間に球団経営は大きく前進します。グッズ売上やファンクラブ会員数は数倍に、客席稼働率や観客動員数もほぼ倍にまで上がります。それによって、球場はもちろん球場外でもユニフォームを着たファンが増えるなど、横浜市全体での持ち上がりが目立つようになります。

 個々の選手の意識が変わる条件として、池田氏は「役割の変化」「目線の向上」「危機感」「環境の変化」の4種類の条件を示しています(参考:『スポーツビジネスの教科書 常識の超え方』池田純(2017)文藝春秋,第1刷,p.209)。そして、チームが変わる条件としては「言葉」「大義」などをあげています(pp211-212)。5年で着実に球団が経営面で結果を出すことで、これらの条件がより強い意味を持ち、選手・チームの意識が大きく変化していきます。とりわけ、街やファンが大きな盛り上がりを見せることで、選手はモチベーションが向上し、「俺たちもやらなきゃ」と意識が変わります。「今年こそCS進出だ」「本気で優勝を狙おう」という言葉も、その重みが違ってきたのです。

 不確定要素の多いチーム運営ではなく、確実性のある経営面から意識改革を促すことで、長期に渡って安定して選手・チームの意識を向上させることができ、それが毎年チームを後押しします。時には負けが込むシーズンがあっても、様々な方法で「楽しませる球団」を作っておけば、ファンがすぐに離れることもないでしょう。新生ベイスターズの強みはまさにこれだと思います。

球場経営と球団経営の一体化

★執筆中……!!