「人間失格」だけじゃない! あえてすすめる太宰治のおすすめ作品!

2017年10月25日

はじめに(太宰治の作品について)

 太宰治の作品は、「人間失格」が一番有名でしょう。太宰治の代名詞とも言える作品です。しかし、太宰治の作品を他にもいろいろ読んでみると、「人間失格」はあくまで彼の一面であることがわかります。

 特に、太宰治は作品のバリエーションが豊富です。前向きで明るい作品、思わず笑ってしまう作品、昔話をアレンジしたもの、紀行文、少女目線の作品などなど。そして、そのどれもが非常にわかりやすい文章で書かれていて、随所に言葉遊びや冗談が散りばめられています。

 一連の作品を読んだあとには、「才能豊か」という言葉が頭に浮かびます。「人間失格」は傑作ですが、それだけで終わってしまうにはあまりにもったいない作家、それが太宰治です。ここでは、初めて読む人、あるいは人間失格しか読んだことがない人を意識しつつ、楽しく読みやすいおすすめの太宰作品を紹介します。

太宰治のおすすめ作品 – もくじ

  1. お伽草紙
    太宰治が昔話をアレンジ!
  2. 女生徒
    太宰治が10代の女子に変身!
  3. 斜陽
    戦後の貴族没落を描いたベストセラー!
  4. 新釈諸国噺
    落語家太宰治!
  5. 富嶽百景
    太宰治は富士山大好き!
  • 「太宰治のまとめ・年表」はこちら↓

お伽草紙

 「お伽草紙

 お伽草紙は、太宰がおなじみの昔話を現代風にアレンジしたという、異色の作品です。収録作品は、「瘤取りじいさん」「浦島太郎」「カチカチ山」「舌切雀」となっています。全体としては、昔話の中にある矛盾を見つけていき、そこを太宰がつじつま合わせをするように、上手いこと新たな解釈を加えていくというものです。

 特に浦島太郎やカチカチ山は見ものです。浦島太郎では、気取り屋の浦島に対して、江戸っ子のようなべらんめえ口調の亀が出てきます。この時点で衝撃的で、かなり笑えます。そして、竜宮に行けば絵本とは違う「本物の風流」が描かれていて、最後はきちんと玉手箱の真相についても語っています。
口の達者な亀と浦島のやりとりが、とても面白いです。

 カチカチ山については、狸とウサギの喧嘩を、男と女の争いとして描いています。醜男で間抜け、食い意地の張った下品なタヌキと、美しく純真ながら、残酷で情け容赦のないウサギ。ここから人間界における一つの男女関係を描いていきます。

 文庫本で一冊にまとまっていて、各作品も短編小説ほどの文量ですので、太宰治の入門として最適です。
とにかく面白いので、読んで損はないです。

 女生徒

 「女生徒

 この作品の特徴は、何と言ってもその独特の表現です。冒頭からラストまで、少女の一人称の視点による、内面の告白によって埋め尽くされています。ちょうど、女性の日記を覗いた時のような感覚に似ています。女の兄妹のいる男性なら、この感覚がよくわかるかと思います。最近ならSNSなどで赤裸々な日記を公開する女性がいますが、あの感覚にも似ています。

 このような文章は、普通の人が書いたら、だらだらとした単調な文章になってしまいがちです。その点、独特の文体で作品にまとめあげているのは見事です。特に、言葉の感覚、独特の心情表現、そして若い女性の感覚を的確に捉えて、見事に表現しています。時代は違えど、現代の少女が読んでも共感できるであろう内容になっています。ですから、若い人、特に女性におすすめの作品です。女性の心情や感情、あるいは感覚について、普遍的な部分を上手く捉えて描いると思います。

斜陽

 「斜陽

 ここまで短編ばかり続いたので、長編でしっかり読みたいという方に向けて、「斜陽」を紹介します。
「斜陽」は太宰の晩年の作品の一つです。1945年に東京空襲があり、7月に実家の津軽へ疎開。翌年11月に自宅のある三鷹へ戻り、その翌年に完成・発表された作品です。太宰は当時で38歳、翌年には「人間失格」を発表し、遺作となる「グッド・バイ」の草稿を残したまま、6月13日に玉川上水にて入水自殺します。

 発表された年月からすると、人間失格のような自省的で暗い作品をイメージするかもしれません。しかし、『斜陽』は決して明るい作品ではないにせよ、才能あふれる作品で、まさか翌年に自殺をするとは思えないほどの、傑作となっています。当時、斜陽はヒット作となり、太宰は一躍人気作家になります。太宰作品の中でも、一番に押す人が多い作品の一つだと思います。

 作品については、当時の時代背景が関係してきます。終戦と共に、貴族に対して預金の封鎖や財産税が課され、貴族は廃止されます。そんな戦後の混乱期の中を生きる、貴族一家が主人公です。父が死に、母と2人で伊豆の別荘に住む娘、そして、戦地から帰ってきた弟が主な登場人物です。お金が無くなっていき、生活が苦しくなっていく中で、娘は貴族としての誇りを強くしていき、たくましく生きていきます。その一方で、母は死に、弟は「庶民」になりきれず、金を浪費して酒を飲み、徐々に追い詰められていく、といった話です。

 作品の見所は、各人物の生き方の違いです。母は貴族のまま死に、娘はたくましく生き、弟は庶民になりきれず、といったように、同じ貴族でも生き方が分かれていくのが面白いです。また、貴族が廃れて行く一方で、庶民の中で金を手にする者が出てきます。作中では、田舎の農家出身の作家が出てきて、貴族出身で生活力のない弟や娘と対比されます。全体として、お金、肩書、出自、人格などの面で、裏腹な人物が登場してくるところに、作品の面白さがあると思います。人物、ストーリー、構成、時代背景、どれをとっても面白く、全体としてバランスのとれた作品です。

新釈諸国噺

 「新釈諸国噺

 こちらは、『お伽草紙』と同年に発表された作品集です。お伽草紙では昔話の再解釈となっていますが、こちらは江戸時代の作家である井原西鶴の作品を、太宰がアレンジしたものとなっています。しっかりとしたオチがあり、人情や粋といったものが描かれているため、ちょうど落語にでも出てきそうな話になっています。

 短い作品を集めたものですので、短い時間でささっと読むことができます。新潮文庫を始め、お伽草紙と一緒に収録されていることが多いです。

富嶽百景

 「富嶽百景

 富獄百景は、太宰が29歳の時の自身の生活をづづったものです。20代前半に華々しく文壇にデビューしたものの、当時の太宰は私生活や作品づくりに問題を抱え、幼馴染の女性と自殺未遂の末、断筆に入っていました。そんな中、浮上のきっかけを掴むべく、師である井伏鱒二を頼って、甲州の御坂峠にある天下茶屋を訪ねます。

 この作品の見どころは、何と言っても前向きな内容と、歯切れのいい文体です。その象徴とも言えるのが、随所に登場する印象的なフレーズです。

 

  • 富士には、かなわないと思った。念々と動く自分の愛憎が恥ずかしく、富士は、やっぱり偉い、と思った。よくやってる、と思った。
  • 富士には、月見草がよく似合う。
  • 富士にたのもう。突然それを思いついた。おい、こいつらを、よろしく頼むぜ。

太宰治

Posted by hirofumi