コック・アンド・ローチズ(4)「レイン=アントニー」

「ローチズのジレンマ」

マジカル・ミステリー・ツアー [DVD]

 才能がありすぎる人間は、凡人がためらってしまうことを息を吐くようにやってのける。平気で人を踏み台にするし、自分の利益のために騙し欺き利用する。

 いや、そうじゃない。当人は何も他人を欺く気などないのだ。才能に突き動かされるままに行動したまで。傍から見れば、人を利用しているように見えるだけだ。結局は、本人がどう思っているか。ローチズのジャンとパウロも、そんな人間の一人だった。

 

 

全員が曲を書けるバンド

「コック・アンド・ローチズ」

20世紀後半から現在に至るまで、音楽界はポップとロックが牛耳っている。細分化するジャンルも、結局はこれらの要素が根っこにある。

そんなポップ・ロックを世界中に広めたのが、「コック・アンド・ローチズ」だ。

もはや説明不要のローチズ。解散から半生記近く経ち、メンバーも半分しか残っていない現在でも、知名度はミュージシャンの中で一番であり、CDも未だに売れ続け、世界中のアーティストからの尊敬を集め続ける。

解散後もすべてのメンバーがソロで成功、そこでようやく「ローチズは天才の集まりだった」と世間は知ることになった。

音楽があるかぎり、これからもローチズは愛され続けるだろう。

 

 初期のローチズは、事務所の意向もあってバンドのイメージ統一を大切にしていた。一例をあげると「清潔感」がある。メンバーは常にスーツ着用、髪は耳にかかる程度、目が隠れない程度の長さ、ヒゲ禁止といったもの。最初期は曲調も統一されており、ポップなラブソングでコーラスを入れるといった決まり事があった。ローチズはデビューして間もなくヒットを連発したので、曲調の縛りはすぐに解除されたものの、ファッションの縛りは数年間続いた。

 

 ただ、ローチズは事務所の想像を遥かに超える人気と評価を手にし、口を出せる状況ではなくなった。中期になると、メンバーの服装もラフになり、髪を伸ばすものも出てきた。曲調がアーティスティックになるにつれ、むしろ芸術家らしい自由な服装がマッチするようにもなった。しかし、変わったのはそれだけではなかった。ローチズは個性の塊であり、人気と地位を手に入れたことで自信をつけたこともあり、それぞれの個性が衝突し始めたのだ。

 

 始めのうち、それは曲調の幅を広げることとなり、バンドにとってはプラスであった。曲の大半はリーダーの「ジャン・ミズノ・レイン」とベーシストの「パウロ・マック・アントニー」、いわゆる「レイン=アントニー」の名義で書かれた。そこに、中期になって急速に作曲能力を伸ばしたギタリストのハリス・ジョーンズ、他のメンバーにはないコミカルな曲を書くドラムのグレイプ・コメットも加わった。

 

個性が混ざり合った『アイ・アム・ローチズ』完成

 

 中期の代表作『アイ・アム・ローチズ』は、よくも悪くもメンバーの個性が際立つ作品となった。2枚組のアルバムの屋台骨は「レイン=アントニー」名義の曲であるものの、アルバムは2枚ともハリスの曲で始まり、合間に挟むグレイプの曲がジャンとパウロの曲を食うほどの出来。2枚目の終盤はハリスとグレイプの自由奔放なメドレーとなっている。

 

 ハリスはもはやバンドのギタリストではなく、メインソングライターになれるほど成長していた。しかし、ジャンとパウロはその上を行く「天才」だった。ハリスは他のバンドに行けばリーダーにもメインソングライターにも、そして端正な顔立ちと流麗な歌声でフロントマンにもなれただろう。しかし、彼に足りなかったのは言葉では表現できない「何か」だった。

 

 ジャンは狂気的なセンスで聞く人の心を揺さぶり、パウロは圧倒的な演奏力と心地よいメロディーで聞く人を幸福にした。しかも、彼らはそれをいとも簡単にやってのける。まだまだこんなものじゃない、底なしだと、周囲に感じさせる。ジャンとパウロの存在は、ハリスにとってまさに「目の上のたんこぶ」だった。

 

 『アイ・アム・ローチズ』だってそうだ。これまでのジャンとパウロならば、ハリスが目立つようなアルバム構成は断固として拒否したはずだ。口で言わなくとも、文句のつけようのない曲をつくって自然と自分たちが中心となった。しかし、この時は違った。「たまにはこういうのもいいんじゃない?」といったところだ。ハリスが急成長したのは間違いないが、この状況はジャンとパウロが意図してつくっただけだった。

 

「現時点でのハリスの能力を最大限に発揮させて、その後でそのアルバムを超えるものをつくる。そうすれば、僕の評価がさらに上がる。陸上競技でもよくあるだろう? 一度相手に見せ場をつくってあげて、最後に追い抜く。僕にとっちゃ、バンドの歴史もドラマであり、アルバムの構成や曲の流れみたいなものなんだ」

 

 こう語ったのは、ジャンともパウロとも言われているが、その真偽は定かではない。

 

続く