コック・アンド・ローチズ(3)「サイケデリック・ムーブメント」

2016年9月7日

「ヨガと紅茶とカレー」

マジカル・ミステリー・ツアー [DVD]

 巷ではいろいろな薬物が相変わらず出回っているけど、薬に頼っているようでは情けない。人間の体には様々なホルモンが分泌されていて、鎮静も興奮も思いのまま。健康体でのナチュラルハイに勝る薬は無いのである。

 

 60年代に多くのアーティストがドラッグに出を出す中、ローチズはヨガと紅茶とカレーでハイになり、名曲を次々と生み出した。徹夜でレコーディングなどの無茶もせず、早寝早起きで早朝レコーディングを日課にしていた。そう、「無茶」はしないのである。だから紅茶を飲むのである。

 

 

空前のインドブーム

「コック・アンド・ローチズ」

20世紀後半から現在に至るまで、音楽界はポップとロックが牛耳っている。細分化するジャンルも、結局はこれらの要素が根っこにある。

そんなポップ・ロックを世界中に広めたのが、「コック・アンド・ローチズ」だ。

もはや説明不要のローチズ。解散から半生記近く経ち、メンバーも半分しか残っていない現在でも、知名度はミュージシャンの中で一番であり、CDも未だに売れ続け、世界中のアーティストからの尊敬を集め続ける。

解散後もすべてのメンバーがソロで成功、そこでようやく「ローチズは天才の集まりだった」と世間は知ることになった。

音楽があるかぎり、これからもローチズは愛され続けるだろう。

 

 ローチズの全盛期はサイケデリック・ムーブメントと重なっている。というよりも、このムーブメントの「核」がローチズだったのだ。あえてムーブメントの「中心」と言わなかったのには理由がある。流行というのは、得てして表面的なものだ。ファッションなんかがいい例だ。ポリシーや精神性は後からつけるもの。しかし、ローチズは流行の精神性の部分を担い、表面的には流行とは異なることをしていた。

 

 説明がちょっとわかりにくいので、実際にどのようなことをしていたか説明しよう。サイケの始まりは諸説あるが、例えばアメリカのあるバンドのアルバムに収録された1曲と言われている。幻惑的なメロディーや疾走感のあるリズムが特徴で、それまでにない音楽だった。そこに、当時流行っていたLSDが結び着く。LSDを使用した際の幻覚作用を曲で表現しようというものだ。このように、幻覚作用をヒントにした新たな音楽の表現方法、それがどんどん広まっていったのがサイケデリック・ムーブメントである。

 

 ムーブメントの最初期、ローチズも新たな表現方法に注目した。ただ、当時のローチズのメンバーはインドにはまっていた。イギリス出身のバンドというだけあって、インドの文化は多少なりとも知っていたのだろう。メンバーの一人がインドのシタールという楽器を使用し、メンバーはその音色に魅了された。そこからバンド内でインドブームが起こり、香辛料や紅茶の収集を始めた。そのうち、自分たちで調合するようになり、自作の紅茶を飲みながらレコーディングし、昼にはオリジナルのカレーを食べ、昼食後はヨガで精神統一するようになった。

 

 そんなところに、サイケデリック・ロックが登場する。メンバーはその表現方法が、ちょうど徹夜でレコーディングをする時、紅茶リキュールで眠気を覚まし、ヨガで集中力を高める際に見る幻覚作用に似ていると感じた。同じ幻覚作用でも、LSDなどのドラッグではなく、ヨガと紅茶がきっかけになったというわけだ。

 

根強い人気を誇る名盤『ボンベイズム』完成

 

 サイケデリック・ムーブメントが徐々に花開く中、ローチズは新作を発表。サイケアルバムの名盤の一つとされる『ボンベイズム』である。

 

 インド色の強いこのアルバムは、バラエティに富む楽曲が「インド」というテーマで統一された作品となっている。前作『ペットたち』の流れを引き継いだ「ゾウトラクジャクコブラ」は、ゾウとトラの咆哮合戦から始まり、熱狂はやがて幻覚に達してクジャクの羽模様となり、最後はコブラの毒で曲が終焉するといった構成である。「ヨーガ」はその名の通り、ヨガをテーマにした楽曲である。ヨガの呼吸法に歌詞を乗せて歌った、シンプルなアコースティックナンバーだ。

 

 他にも、カースト制度を皮肉ったメッセージ性の強い曲「ピラミッズ」、ボストン茶会事件をテーマにした「ティーパーティー」、当時としては時代を先取りしたダンスナンバー「マハラジャ」、カレーに牛肉が無いインドと、カレーにイモを入れてしまう日本を歌った「カレー」、そして、当時の世界ではほとんど知られていない日本の三味線を使用した「アヘン」がある。この曲は少々ややこしい。

 

 まず、インドと清とイギリスでかつて行われた三角貿易をテーマにしており、ここでまたインドの楽器を使うのもアレなので、中国の楽器を使おうということになった。しかし、どういうわけかロンドンの骨董品店で三味線が中国の伝統的楽器として売られていたのだ。その結果、アヘンと言う曲名で、三角貿易を中国の視点から歌い、日本の三味線が鳴り響くという奇妙な作品となったのだ。

 

続く