コック・アンド・ローチズ(2)「革新的なアルバム」

2016年9月6日

「ローチズの名作アルバム」

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 自分のやりたいことをやるのか、周りが求めることをやるのか。これは人類の永遠テーマである。野生の動物が環境への適応を拒否すれば、すなわち死である。しかし、人間にはそれが許される。とは言え、我を押し通すのは簡単ではない。

 世の中には、やりたいことをやって周囲も満足させる人間がごくごくまれにいる。コック・アンド・ローチズもその一人。しかし、凡人がそれを真似する必要はない。要はバランスだ。我を押し通すことと協調すること。両者の比率をどれくらいに設定するかが、うまく生きるポイントである。

 

 

最も集客力のあるレコーディング・バンド

「コック・アンド・ローチズ」

20世紀後半から現在に至るまで、音楽界はポップとロックが牛耳っている。細分化するジャンルも、結局はこれらの要素が根っこにある。

そんなポップ・ロックを世界中に広めたのが、「コック・アンド・ローチズ」だ。

もはや説明不要のローチズ。解散から半生記近く経ち、メンバーも半分しか残っていない現在でも、知名度はミュージシャンの中で一番であり、CDも未だに売れ続け、世界中のアーティストからの尊敬を集め続ける。

解散後もすべてのメンバーがソロで成功、そこでようやく「ローチズは天才の集まりだった」と世間は知ることになった。

音楽があるかぎり、これからもローチズは愛され続けるだろう。

 

 20世紀の音楽界で最も成功したバンド「コック・アンド・ローチズ」。解散から半生記近く経った現在もその影響力は大きく、世界中で愛され続けている。あまりに売れすぎたローチズは空気のような存在となり、あまりに当たり前になりすぎて「本当に存在するのか」という哲学的な問がなされるようになった。いわゆる「ローチズUMA説」である。

 

 このような説が広まる理由は他にもある。一つは、ローチズはキャリアの早い段階でレコーディング・バンドになったことだ。全盛期のローチズはあまりに人気がありすぎて、ライブができなくなった。熱狂的なファンが殺到し、歓声というよりも絶叫で演奏がかき消され、バンドもファンも音楽を純粋に楽しむどころではなくなったからだ。

 

 このために、演奏力や作曲能力が急速に伸びていった時期に、ローチズのメンバーはスタジオにこもるようになったのだ。ライブは年に1回あるかないか。あっても、ファンによる混乱を防ぐためにゲリラライブかシークレットライブのみ。最も人気があるのに、誰もその姿を見ることができない。しかし、彼らがつくる音楽がどのバンドよりも一番素晴らしい。この矛盾した状況にひとまず結論を出すかのように、「ローゼズUMA説」がささやかれるようになったのだ。

 

革新的なアルバム

 

 中期のローチズは、完全なレコーディング・バンドとなり、名作を次々と世に送り出した。ただ、オーソドックスなアルバムは一つとして無かった。

 

 例えば、曲ごとに牛、鶏、豚、羊、ヤギ、馬、アヒル、七面鳥、カモといった動物たちの声を、バックで延々と流し続け、それらの動物を使った料理について歌ったコンセプトアルバム「ペットたち」。そらまでの音楽では、楽器以外の音、意図しない音、雑音を残すことはありえなかった。それを逆手に取って、常識を覆したのだった。

 

 このアルバムは動物保護団体からクレームが入った。そこでローチズのメンバーは、団体が支持する政党の党員を招待し、立食パーティーを兼ねたシークレットライブを開催。肉料理を嫌というほど提供し、ナイフとフォークの音と咀嚼音共々録音してライブアルバムを発表。売上金を団体に寄付した。これはライブアルバムであるとともに、「社会派アルバム」とも呼ばれ、ロックの精神を体現したとして高い評価を受けた。

 

 また、アルバム「黒胡椒大臣と傷心バンド」も革新的だった。当時、イギリスには「キング・ライオンズ」という全く売れないバンドがいた。押し一辺倒の単調なサウンドに、恋愛と友情と努力について語った歌詞を乗せ、妙な振付を加えるという、はっきり言ってどうしようもないクズバンドであった。そのくせ大手のレコード会社からの後押しを受け、誰も買わないのに広告だけは一丁前だった。結果、クソみたいな曲が定期的にラジオやテレビで流れるようになり、不快極まりない状況であった。

 

 そこで、常に時代の寵児であるローチズは、彼らの曲の権利をアルバム丸ごと買い取り、アレンジをほどこして再録音した。これだけでも前代未聞であるが、結果としてアルバムはミリオンセラーとなった。原曲や歌詞がクソでも、演奏、アレンジ、歌い方で作品は変化することを証明した。また、アルバムの中で全く別のバンドになりきるという試みも、これが史上初であった。

 

 ところが、このアルバムに対して「人気者のローチズが歌ったから売れただけ」とクレームをつけるものがいた。そこでローチズは、あらん限りの力を注いで10の新曲をキング・ライオンズに提供し、アルバムにまとめあげて発売させた。アルバムは見事にヒット。これにより、「曲さえ良ければ売れる」ことも証明。

 

 駄作を演奏とアレンジで名作に変え、名作で無名のバンドをヒットさせる。前例のない試みにより、ローチズの評価は盤石のものとなった。

 

続く

今日の格言

「ゴミの中からダイヤを探すんじゃない。ゴミをダイヤだと思い込むんだ」(コック・アンド・ローチズ)