『超思考』(北野武)のレビュー・感想

2014年9月12日

とにかく内容が濃い!現代社会の矛盾を「北野武」が斬る!

超思考 (幻冬舎文庫)

もくじ

『超思考』のもくじ・概要

 

内容説明

バラ色の夢を語っても意味はない。人の世を生き抜く最低限の力をつけろ。思考停止した全国民に捧ぐ、現代社会を読み解く視点。

目次

日本総国民思考停止
医は仁術か、商売か
死刑の是非。生死の価値
そのハンバーガーは旨いか?
暗闇の老後をどう走り抜けるか
夢を売るバカ、探すバカ
芸術は麻薬だ
理想の国はあるのか
どっちにしろ幸せだ
唯一無二の価値はないか
人知の及ぶ範囲
飢える贅沢
本音という作り話
右向け、左!
師弟関係
俺の絵は売らない
爆発前夜
目に見えないこと
くそジジイとくそババア

引用元:超思考 / 北野 武【著】 – 紀伊國屋書店ウェブストア

 

【本の概要】

 2007年から2010年、「パピルス(雑誌)」に連載されたコラムをまとめたのが本書です。内容は、現代社会における様々な問題について、北野武さんが独自の視点から語っていくというものです。

 時事問題を扱っており、各章の冒頭には、ニュースのトピックスについて、簡単な説明が書いてあります。全体として、堅めで本格的なコラム集となっています

 各章のテーマを見ていくと、「核兵器」「医療」「死刑制度」「大量消費社会」「高齢化」「仕事」「芸術」「政治」「金融」など多岐に渡ります。主要な時事問題、現代社会のテーマを網羅していると言っていいでしょう。現代社会にある問題について、北野武さんはどのような考えを持っているか、じっくり読み進めていくことができます。

 

『超思考』のおすすめポイント

その国の政治のレベルは、国民と文化のレベルに左右される?

 まず、原爆について失言をした防衛大臣(2007年7月当時)が、中途半端な弁明をして批判にさらされたことについて

マスコミは利用するもの。叩かれたら、それを利用することを考えるべきなのだ。

批判にさらされるのは、社会の注目を浴びるってことだから、むしろ見せ場だと思えばいい。(中略)そこでうまく切り返して勝っていれば、一躍人気者になれたかもしれない。

そういう感覚が政治家やなんかから欠落してしまったのは、日本の文化が駄目になっているってことだ。文化的なことがじゃんじゃんなくなっているから、ちょっとでも変なことを言ったら、ハチの巣をつついたみたいな騒ぎになる。マスコミも政治家も、ワーワー文句を言うしか脳がないような教養のない人ばかりが目立つ。

引用元:北野武(2011)『超思考』幻冬舎,第9刷,pp.8-9

 最近の政治家は、信じられないような失言をする人が多いです。そもそも常識はずれなことを言うような人なので、後処理も失敗し、マスコミの批判に油を注ぐことが多いです。普通に謝ることのできる政治家すら珍しいほど。ただ一方で、批判一辺倒で中身のないマスコミや、それに流される大衆にも問題があるということ。批判をするか、誰かの意見に乗っかるだけで、中身のあることを言う人はどこにもいない。

 このように見ていくと、ダメな政治家が増えているのは、結局は日本社会全体の責任、文化の問題だというのが、たけしさんの意見です。これには私も賛成です。誰かの意見に賛成か反対かしかできない人が、最近は増えています。しかも、他人の意見に乗っかることを「自分の考えを持つこと」と勘違いしている人も多いでしょう。ニュースを見ても、まず自分で考え、安易に報道に流されない姿勢が大切だと思います。

 

医師の世界も世襲制?

 次は医療について。ここでは、日本の医師養成過程について、疑問を投げかけています。数年前から、医師のレベルの差が問題視され、医者選びをしっかりしようという風潮が出てきています。これについて、二世しか開業できない、勉強ができるものしかなれないなど、医師になる道の裾野の狭さに問題があるという話です。

健康保険制度は国民のためと言っているけれど、反対側から見れば、医者が確実に治療代を徴収するシステムでもあるわけだ。

健康保険制度が確立すれば、病院の収入は安定する。国が収入を保証してくれるようなものだから、こんな確実な商売はないというので、日本では医療が投資の対象になってしまった。だから医者は子供を医者にする。馬鹿でも金儲けができる仕事だから、子供の資質に関係なく医者にしようとするわけだ。

今だって医者は尊敬されていると言うかもしれないけど、仕事の内容で尊敬されている医者がどれだけいるか。ベンツに乗っているとか、家がデカイとか、金持ちだから尊敬されているというだけの医者が大半だろう。

引用元:北野武(2011)『超思考』幻冬舎,第9刷,pp.20-21

 勉強ができなければ医学部に入れないというのは、多くの人が疑問に感じているところでしょう。裾野が狭いがために、人材に偏りができてしまうのが一番の問題です。また、裕福な家庭や二世でなければ開業が難しいというのは、あたかも政治家の世襲制のようで、これも大きな問題です。

 医療が金儲けに利用されているのは、日本に限らず外国でも問題になっています。特にアメリカなどでは、薬を売るために、製薬会社と大学教授・医師が癒着しているなど、問題はかなり深刻です。

 医師という職業につくにあたって、ある程度勉強ができることは必要でしょう。しかし、現状はあまりに極端だと思います。学力は下限だけ定めて、判断力、コミュニケーション能力、意欲など総合的な基準から、人材を集めるべきだと思います。

 

生死と高齢化/死に蓋をした現代社会

医療が発達して、今の人はなかなか死ななくなった。(中略)人は死ぬという事実に蓋をして、社会の表面から見えなくして閉まっているのが現代社会だ。

人の命は地球より重いなんて意味不明の綺麗事を言って、子供に命の大切さを教えたつもりになっている。だから子供は混乱する。生と死は、切り離せるものではなき。死について教えないかた、命の価値がわからなくなるのだ。

他の生き物の命を奪って、人は生きている。生きるというのは、そういうことだと理解するところから、人は生と死の意味を考え始めるのだと思う。

引用元:北野武(2011)『超思考』幻冬舎,第9刷,pp.34-35

 これは死刑廃止論に関する部分から。生と死の問題について、子供にどうやって教えるかは難しいものです。たけしさんは、その背景にある「死に蓋をする」ことと「命は地球より重い」という綺麗事の間にある、大きな矛盾を指摘するわけです。

 確かに、命が大切と耳にタコが出来るほど言われるより、例えば幼い頃に祖母の死を目の当たりにする方が、よっぽど「命の教育」として意味があります。そもそも命の尊さは教えるものではなく、学ぶものではないでしょうか? そのためには、大人が余計なことをしないのが大切です。「死」を感じさせるものから子供を遠ざけてしまうと、せっかくの学びの機会を失うことになると思います。

 

 

 次は高齢化問題。子供が介護をしてくれるとは限らない現在の世の中。金のある人はホテル並みの豪華な介護施設を利用できるが、すべてがそうとは限らない。金のない人は、年金や介護保険を受け取り、自宅で細々と生きていくことになります。家族が面倒を見てくれるならまだしも、孤独に余生を過ごす老人も少なくありません。

 つまり、現代の老人問題は、老人の世話を金で解決しようとしているがゆえの問題であるとも言える。昔は年金も、介護制度もなんにもなかったのだ。世の中は今よりもずっと貧乏だったのに、老人問題なんてものは問題にもなんにもならなかった。大家族で、みんなが貧乏で、人と人が肩を寄せ合わなければ生きられない時代には、若い人が年寄りの世話をするのが当たり前だった。

引用元:北野武(2011)『超思考』幻冬舎,第9刷,pp.54-55

 これも先ほどの話、子供へ命の大切さを教えることと関係してきます。世の中が「死」に蓋をしてしまい、金で解決しようとした。しかし、金だけで解決できないことは山ほどあり、そもそも金も足りない。その結果、いざ介護のような問題に直面したとき、周囲の人が慌てふためいてしまうということ。「命を大切にしよう」と言っていたくせに、介護はしたくない。しかし金も払いたくない。死を抜きにした命の教育が、いかに役に立たないものかがよくわかるというわけです。

 

夢と仕事と芸術の話

 まずはお笑いにおける「夢」を売るビジネスについて。

 最近は安いギャラで使うどころか、そういう若者たちから金をとって芸人にしてやるという話になっている。テレビに出たがる若者がいる限り、このビジネスは延々と続けていける。上手いことを考えたものだ。芸人はやっぱり商売人には勝てないのだ。
 これは、芸能の世界というよりも今の世の中の風潮みたいなものだ。「絵は誰にでも描ける」とは言って、素人に筆を持たせてダルマだのジャガイモだのを描かせる習い事の商売が流行っているけれど、目の付け所は驚くほどよく似ている。あれも何を売っているのかというと、絵を描く技術を売っているのではなくて、「芸術家になった気分」を売っているのだ。

引用元:北野武(2011)『超思考』幻冬舎,第9刷,p.60

 最近はお笑い事務所が養成所を運営しています。実際にスターが誕生している一方で、その大半は売れずに消える。しかし事務所は毎年入学金や学費を安定して得られるということで、事務所にとっては非常においしい商売になっています。しかし、その歪も大きく、昔のように大スター、国民的な芸人が生まれにくくなっています。

 

 

 では、今度は「仕事」について。

 眠っている才能なんてものはない。才能はあるかないかのどっちかだ。自分が本当にやりたい仕事はなんだろうなんて、考えなきゃいけないってことは、やりたい仕事がないというだけのこと。
 探しているのは、自分が本当にやりたい仕事なんかじゃなくて、楽して稼げる仕事なのだ。そんなものがあるわけない。
 そんなものがあるわけないのに、さもありそうなことを言って、ニートを増やし、若者を安い労働力として使っているのが、今の社会の構造だ。使い捨てにされるのは、お笑い芸人だけの話ではないのだ。

引用元:北野武(2011)『超思考』幻冬舎,第9刷,p.64

 現在の20代後半から30代前半にかけての世代は、幼い頃に「夢はきっとかなう」「やりたい仕事をしよう」と耳にタコが出来るほど言われてきました。間違った教育が、社会全体に蔓延していたように思います。その結果、大量のニートを生み出した。しかしそれもよく考えてみれば、経営者にとって都合のいい人間を生み出すために、意図的に行ったのではとすら思ってしまいます。

 その反動か、現在の若者は妙に「現実的」です。相変わらず綺麗事を言う大人ばかりですが、それに流されない若者が増えてきています。世間では「ゆとり教育の世代」と言われている若者も、実際に話をしてみると現実的な考え方をしています。ゆとり教育は実は効果的だったのか、はたまた子どもたちが途中で嘘を見ぬいたのでしょうか?

 

感想

 時事的な内容の本ですが、時代を問わず、長く読み続けられる本だと思います。話題のトピックについて、ズバズバと核心をついていくたけしさんの話は必見! 現代社会を考える上で、一つのものさしが得られるということで、非常におすすめの一冊です。

 

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