メジャーリーグ(MLB)・プロ野球のドラフト制度の違い[戦力均衡,ウェーバー]

2017年11月9日

メジャーリーグ(MLB)・プロ野球のドラフト制度の違い – もくじ

  • 日米のドラフトとウェーバー制
    • メジャーリーグとプロ野球のドラフト制度の違い
    • 日米のウェーバー制の違い
  • 戦力均衡と自由競争
    • スポーツの魅力は「結果の不確実性」
    • 球団の収益も均衡化させる
    • MLBは戦力均衡、プロ野球は自由競争
  • ウェーバー制のドラフト導入と障壁
  • メジャーリーグの特殊なドラフト制度
    • 有望選手に活躍の場を与える「ルール5ドラフト」

参考文献:『パ・リーグがプロ野球を変える 6球団に学ぶ経営戦略 (朝日新書)

日米のドラフトとウェーバー制

メジャーリーグとプロ野球のドラフト制度の違い

  • MLB
    • 球団数:30
    • 選択順数:40
    • 指名人数:1200人ほど(30球団×40人)
    • 方式:完全ウェーバー方式
  • プロ野球
    • 球団数:12
    • 選択順数:最大10
    • 指名人数:120人ほど(12球団×10人)
    • 方式:一部ウェーバー方式

参考:こんなに違う日米のドラフト制度。日本は狭き門でも入ればチャンス

 他にも細かい違いはあるものの、日米のドラフト会議はこれだけ違いがあります。メジャーリーグで選択順数がこれだけ多いのは、下部組織が6~8もあるからです。日本では原則1軍と2軍のみ。球団数の違いもありますが、アメリカではかなりの人数を指名することになります。

 そして、最も重要と言っていいのが「ウェーバー制」です。

  1. 当シーズン終了時のチーム順位を基準とし、どの指名巡目でも常に、最下位のチームから順に選手を指名する
  2. 指名は即ち独占交渉権獲得を意味し、他チームとの競合(抽選など)は起こらない

(「ウェーバー方式」(wikipedia)参照)

 最下位のチームから順に指名していき、抽選を行わない。これが(完全)ウェーバー方式です。なぜ「完全」と括弧をしたかは、日米の違いを見ればわかります。

日米のウェーバー制の違い

  • MLB:
    全指名順で完全ウェーバー制
    ※指名権に関するFA保障:一部FA移籍に対して、補償として流出元球団にドラフト指名権が与えられる。(参考:MLBにおけるFA保障制度の仕組み
  • NPB
    1巡目:入札抽選
    2巡目以降:偶数巡目でウェイバー方式、奇数巡目で逆ウェイバー方式

  どうしてこのような違いがあるのか? それはメジャーリーグが掲げる「戦力均衡」主義のためです。簡単に言えば有望な新人選手を前年弱かったチームに振り分けるようにし、戦力を均衡させ、毎年優勝争いが過熱するためです。メジャーリーグはスポーツビジネスであり、客商売という意識が高いなどの背景があります。その辺について、詳しく見ていきましょう。

戦力均衡と自由競争

スポーツの魅力は「結果の不確実性」

 プロスポーツにおいて、最も大きな魅力は「結果の不確実性」です。例えばテレビでの放送について見ても、映画やドラマは優れたコンテンツならば再放送が何度も行われ、多くの人が楽しみます。しかし、スポーツではダイジェストや名場面はあっても、一試合をそのまま再放送ということはめったにないでしょう。

 この魅力を最大限に生かすとすれば、各チームの戦力が均衡しており、毎年どのチームが優勝するかわからない、といった状況です。この考えのもと、MLBは戦力均衡を基本として、ウェーバー制のドラフトを採用しています。

球団の収益も均衡化させる

 少し話が変わりますが、MLBではフランチャイズ(地域に根付いた球団経営/あるいは地域での営業独占権)を基礎としてリーグが成り立っています。フランチャイズによって、地域単位でのファンの定着とチケットや物品の販売による収益を確保します。

 その一方で、メディアを使っての営業、つまり試合などの放映権については、各球団とは別に、MLBコミッショナーが管理しています。このことにより、放映権で得た利益を各チームに分配しています。つまり、収益・利益の面でも各球団にチャンスを与えることで、地域ごとのファンに期待をもたせ、リーグ全体の盛り上がりを目指す、というわけです。

MLBは戦力均衡、プロ野球は自由競争、

 MLBは人材(完全ウェーバー制)でも利益(放映権収入の分配)でも戦力均衡を基本としています。その一方で、プロ野球は真逆の自由競争を採用しています。自由競争というと聞こえは良いですが、スポーツ界では事情が異なります。簡単にいえば、オーナーや球団に資金力があれば、金を使って強くなれる、ということです。それに加えて、地方の球団などは資金面で不利に置かれます。

 金があるのも実力のうちと考えるのもいいですが、資金力のある常勝チームに頼っていては、フランチャイズが不可能であり、結果が不確実ではなくなるので、リーグ全体の人気・利益も減少してしまいます。日本ではそれでも、テレビ全盛時代に読売ジャイアンツ中心のリーグが成り立っていました。しかし、今は視聴率も落ちていますし、人気球団の放映権に頼ったリーグ運営は難しくなっています。

ウェーバー制のドラフト導入と障壁

 では、日本ではなぜ完全ウェーバー制を導入しないのか。過去に何度も議論にはなったものの、現時点で実現に至っていません。と言うのも、導入にはいくつもの障壁があるからです。

【プロ野球へのウェーバー制導入の障壁】

  1. 労働組合の存在と、職業選択の自由
  2. FA権獲得までの年数の調整と、人材の海外流出
  3. 資金力を持った球団の反対

 1.については、ウェーバー制によって選手の所属先が自動的に決まってしまうと、職業選択の自由に反するのでは、という問題です。しかしながら、まず第一に、日本よりも強力な労働組合をもつMLBで、ウェーバー制によるドラフトが問題なく行われています。加えて、プロ野球チームを会社組織として見た場合、新人は440万、1軍選手は1500万円の年俸保証がなされており、平均生涯年収についても一般的なサラリーマンと同程度となっています。この2つの点を考慮すれば、職業選択の自由がウェーバー制反対の理屈にはならないとわかります。

 2.については、「選手が所属球団を自由に選べないなら、FA権を得るまでの年数を短縮すべきだ」という意見があります。しかし、当然それには球団も反発するでしょう。選手側の意見と球団側の意見が合致せず、そもそもウェーバー制を導入する土壌が出来ていないというわけです。参考までに、メジャーではFA権取得まで6年、日本では7~8年(海外は9年)となっています。仮にFA権取得までの年数を短縮すれば「海外FA権の方も調整するのか?」となります。そうなると今度は海外流出が増えると言う問題が起こるのです。議論すべきことが山積みとなっています。

 3.については、ウェーバー制が施行されれば、リーグ全体で戦力が均衡し、資金力のあるオーナーが常勝球団をつくることは難しくなります。また、裏金を使っての選手の強奪も不可能になります。お金のある球団にとって、旨みが無くなるというわけです。

メジャーリーグの特殊なドラフト制度

有望選手に活躍の場を与える「ルール5ドラフト」

  • 対象:高い能力を持ちながら機会に恵まれないマイナー選手
  • 選手起用・登録に関するルール:
    • 獲得した選手は、シーズン全期間で公式戦出場枠(アクティブロースター・25人枠)に入れる(故障者リスト入りを除く)
    • 怪我などの理由を除いて出場枠から外す場合には、選手は元のチームに戻る
  • 優先権:
    優先権のあるリーグ(隔年交代)のうち、レギュラーシーズン勝率の低いチームから順番に指名権が得られる。
  • 補償:
    獲得チームは、相手チームに金銭を支払う(参考:AAAの場合5万ドル)
  • ここ数年で当制度によって移籍・活躍した選手

 参考:ルール・ファイブ・ドラフト – Wikipedia

 ご覧のとおり、球界を代表する選手がこの制度で活躍の場を得ています。リーグ屈指の強打者ハミルトン、「高速」ナックルボーラーでおなじみのディッキー、そしてヤンキースの若手先発投手のノバです。

 選手にとってもチームにとっても、そして戦力均衡という意味ではリーグ全体にとってもメリットのある合理的なこの制度。日本でも良い選手が飼い殺しの状態になっていることはよく見られます。FAやトレードを待つより、各球団が積極的に活躍の場を与える方が、選手にとって良い環境だと率直に思います。