「アナログ」(ビートたけし)のあらすじ(要約)[解説,感想]

アナログ

※ネタバレにならないよう、結末部分はぼかしてあります。
※終盤までの大まかなストーリーを説明してあります。

登場人物

【清水デザイン会社】

 東京都青山にオフィスを置く、大手ゼネコン傘下の設計会社の一部門。喫茶店の内装、ホテル、ショッピングモールまで幅広く手掛ける。初代会長「清水一郎」は工業デザインの先駆者とも言われる人物であり、晩年に手を組んだ大手ゼネコンと共に立ち上げた。社長はじめ取締役は天下りか清水の身内で固めている。

  • 水島悟
    主人公。東京支社に勤める30過ぎのデザイナー。独身。誠実で真面目、落ち着いた性格の持ち主。口数こそ多くないが仕事は出来、依頼されたプロジェクトではいつも中心となって成果をあげている。デザインはパソコンでなく模型で行うなど、アナログを好む。幼い頃に父が病死し、母に女手一つで育てられた。
  • 岩本
    水島の上司。かつては画家志望だった私立の芸大出身。親のコネで入社し現在に至る。
    デザインの分野では有名だが、細かい仕事は部下に任せ、自分の成果にしてしまうところがある。過剰にカタカナ語を多用するお調子者。
  • 島田
    大阪支社の20代後半の男。コテコテの関西弁に、昭和のTVディレクターの出で立ち。気の良い性格だが、ちょっと時代とズレているところもあり、憎めない人物。
【喫茶店「ピアノ」】

 広尾にある清水デザイン会社がデザインした喫茶店。

  • みゆき
    悟がピアノで出会った品の良い美人。ひょんなことから悟と意気投合し、毎週木曜日に喫茶店で会うことになる。ネットやSNS、流行を好まない性格。クラシック音楽を好む。
【悟の友人・家族】
  • 高木淳一
    悟の高校時代からの友人。大手不動産会社の息子で、今は親の会社が所有するビルの1階にある、小さな不動産屋で働いている。ひょうきん者で女好き、物件を借りに来た客を口説くような人物。複雑な家庭事情を持ち、父親からは長男ながら距離を置かれているが、親のコネを利用して悟をいつも助けてくれる優しい面もある。
  • 山下良雄
    悟の高校時代からの友人。妻子持ち。ゲームセンターの機械や、プログラミングをする会社のサラリーマン。社内で姥捨て山と呼ばれる、UFOキャッチャーの景品などを作る部門で働く。
  • 悟の母
    悟を女手一つで育てた。今は埼玉の東松山にある特別養護老人ホームで生活している。
  • 悟の父
    神奈川の農家に生まれるが、家業は弟に任せ、工業高校を出て自動車部品工場へ就職。事務員をしていた悟の母と結婚するも、悟が小学生になる前にがんで急死した。

「アナログ」(ビートたけし) – あらすじ

「アナログ」デザイナー水島と、謎の美女みゆきとの出会い

 青山にオフィスを置く「清水デザイン会社」に勤める30過ぎのデザイナー水島悟。会社は大手ゼネコン傘下の設計会社の一部門で、喫茶店の内装、ホテル、ショッピングモールまで幅広く手掛ける。水島の上司岩本はそこそこ名の知れたデザイナーだが、その実、面倒な仕事は部下に押し付け、手柄は自分のものにすると言う人物であった。おまけに、カタカナ語を会話の中で過剰にするような人物。しかし、社内の同僚たちは、業界内での彼の力を知ってか、与えられた仕事をしっかりとこなしていた。水島もまた、自分の仕事を楽しんでいる様子で、プロジェクトの際には中心となって活躍し、徹夜してでも仕事を終わらせると言う、真面目な人間であった。

 そんな水島は、高校時代からの悪友である高木と山下と久しぶりに飲むことになり、行きつけの喫茶店「ピアノ」で待ち合わせをすることに。先に着いた水島は、ひょんなことから店に来ていた客のひとり「みゆき」と出会うことになる。品が良く美人のみゆき。彼女が持っていた雑誌には、水島たちがデザインした飲食店の特集があり、それをきっかけに二人は意気投合。みゆきが毎週木曜日に喫茶店に来ると聞き、「また会いましょう」と約束した。

 水島はみゆきに恋心を抱くようになり、連絡先を交換しようとするが、みゆきは「そうですね」と答えるだけ。苦し紛れに水島は言った――

「ふと思ったんですけど、お互い名前だけわかっていれば、携帯とかメールなんて知らない方が、余計なことで連絡を取ったり、用もないのにメールしなきゃと思うより、いいんじゃないですか? 何か秘密がありそうで、すべてを知った気になるより……」

アナログ』ビートたけし(2017)新潮社,第三刷,p45より

――とっさの言葉とは言え、水島もまたコンピューターなどに疎い「アナログ」な人間であった。連絡先を知らないままの約束に、何かしら心地よさを感じているようでもあった。

老いてゆく母

 水島は、小学生に上がる前に父親を癌で亡くしている。母は女手一つで悟を育て上げ、私立の大学にまで通わせてくれた。そんな母は今、埼玉の特別養護老人ホームで生活しており、日に日に体が衰えていた。

 ついこの前も、母は誤ってベッドから落ち、右手首を骨折。医者には弱っている腰を金具で補強する手術を勧められていた。人一倍親思いの悟は、老いてゆく母の姿を見て思わず涙を流してしまう。母と一緒にいられるのも、あとわずかな間だと、なんとなく感づいている様子だった。

良き友に恵まれた悟

 高校時代からの悪友である高木と山下。彼らと会う時は決まって仕事の愚痴や笑い話。そして、みゆきの話と悟の母の話だった。高木は大手建設会社社長の息子で、親が所有するビルの1階、小さな不動産屋で働いている。幼い頃に母を亡くし、腹違いの兄弟が二人。父親は高木とは距離を置き、弟を跡継ぎにした。そんな複雑な家庭環境で育ったのだが、ひょうきん者でいつも笑い話をし、何かと悟の世話をしてくれる優しい人物であった。悟の住むマンションを格安で紹介してくれたり、母が入っている施設も高木の親戚のつてだ。

 山下は唯一妻子持ちで、ゲーム機の製造やプログラミングを行う会社に勤めている。社内の姥捨て山と呼ばれる部署に在籍し、UFOきゃちゃーの景品などをつくっている。彼はいつも馬鹿げた商品アイディアを披露し、決まって女房と子供の話をする。頼りないが良き父親であり、高木とはいいコンビだ。

大阪支社とみゆきと母の死

 水島は人手不足のために大阪支社へ手伝いに行くことになる。わずか1週間とは言え、みゆきと会えないことに寂しさを感じ、彼女の存在が自分の中で大きくなり始めているのに気が付く。翌週は無事に会うことができ、クラシックのコンサートなどを楽しみ、充実した時間を過ごしていた。

 そんな中、水島のもとに高木から電話が入る。母親の容態が急に悪くなったとの話だった。その時水島は追加の仕事で再び大阪に出張中であり、急いで東京へと戻る。しかし、施設の最寄り駅についたところで、高木と山下に会い、母の死を知らされることとなる。意気消沈する水島の代わりに、二人は葬儀の手続等をしてくれた。

 葬儀の後で気持ちの整理がつかないまま木曜日になり、水島は2週間ぶりにみゆきに会った。ところが、水島はみゆきの顔を見た途端泣き出してしまった。二人はその後夜の湘南の海へと向かい、水島はそこでみゆきの胸を借りて大泣きした。その時のみゆきの顔は、母のようであり、菩薩のような包容力をもっていた。

大阪への1年の出向と、みゆきの失踪

 母の死後、水島とみゆきはほとんど毎週のようにデートをする仲になった。そしてみゆきとの出会いから数か月が経とうとしていたある日、水島は大阪への1年ほどの出向を頼まれる。みゆきと1年も会えないというのは、水島にはもはや想像が出来なかった。そして、水島は彼女へのプロポーズを決意する。いつもの二人に相談し、驚かれつつも一緒に指輪を選びに行き、いよいよその日がやってきた。しかし、みゆきはいくら待っても「ピアノ」にやって来ない。それも3週連続だった。

 突然姿を消してしまったみゆき。水島は彼女への思いを断ち切るかのように、大阪へと出向した。

あっという間の一年と、みゆきの過去

 1年が経ち、水島は大阪での生活にすっかり馴染んでいた。そして、まだ心の奥でくすぶっていたみゆきへの思いを経とうと、仏壇の横に置いてあった指輪を捨てることにした。そんなある日、水島は思わぬところで過去のみゆきを知ることとなる。

 高木と山下に事情を話し、二人の力を借りてみゆきの過去を調べてもらい、ついに彼女の過去へとたどり着く。それと同時に、あの日、みゆきが急に姿を消した理由がわかった。そして、みゆきに会いたい一心で、3人はみゆきの足取りを追い、ついに彼女と再開することとなる。

 思いもよらない事実が連続し混乱する中、彼女の思いを確認できた水島は、二人の幸せのために、大きな決断をし、新たな生活を始めるのであった。