『A Day at the Races(華麗なるレース)』QUEEN(クイーン)レビュー[解説,評価,感想]

「A Day at the Races(華麗なるレース)」(1976年)
オペラシリーズ第二弾!「手をとりあって」収録!
★★名盤★★

華麗なるレース

『A Day at the Races(華麗なるレース)』 – もくじ

  • アルバムレビュー・解説
    • 終盤の展開はキャリア随一!様式美の傑作
    • 収録曲/動画で試聴
  • 各曲解説・感想
    • 1.Tie Your Mother Down
    • 2.You Take My Breath Away
    • 3.ロング・アウェイ(Long Away)
    • 4.The Millionaire Waltz
    • 5.You and I
    • 6.愛にすべてを(Somebody to Love)
    • 8.Good Old Fashioned Lover Boy
    • 9.Drowse
    • 10.手をとりあって

アルバムレビュー・解説

終盤の展開はキャリア随一!様式美の傑作

 前作「オペラ座の夜」でついに世界のビッグバンドへと成長したクイーン。ボヘミアン・ラプソディに至ってはイギリスチャートで9週にも渡って1位に居座り、歴史的なセールスを記録した。本作は前作の構成、つまりオペラ的なドラマティックな要素を取り入れつつ、様々な曲調の楽曲で構成されている。一つ変化があるとすれば、ロイ・トーマス・ベイカープロデューサーから外れ、クイーン自身がプロデュースに回っている点である。一方、エンジニアであるマイク・ストーンは引き続き制作に参加している。

 前作の成功を受け、バンドとしての自信は絶対的なものになった。セルフプロデュースによって力を試しつつ、すでに新たな方向性を模索していたようである。加えて、この頃から個々のメンバーの制作への貢献度が高まり、意見がぶつかり合うことも多くなってきている。このアルバムではそれがいい方向に向かい、アルバムを豊かにしている。

 「オペラ座の夜」の陰に隠れてしまいがちな作品であるが、作品の完成度は非常に高い。アルバムの特徴をあげるとすれば各曲が持つ「様式美」じゃないだろうか? センスや勢いは「オペラ座の夜」に譲るとしても、個々の楽曲の洗練された音と展開は「華麗なるレース」、もっと言えば曲の叙情性は本作は抜きんでている。とりわけアルバムの後半は出色の出来である。ラストを飾る「手をとりあって」がその象徴だ。ちょっと仰々しい曲にも思えるが、それがある意味で本作の方向性だ。様式美とはそういうものだ。

収録曲/動画で試聴

【収録曲】
  1. Tie Your Mother Down(May) 4:47
  2. You Take My Breath Away(Mercury) 5:08
  3. ロング・アウェイ(Long Away)(May) 3:33
  4. The Millionaire Waltz(Mercury) 4:54
  5. You and I(Deacon) 3:25
  6. 愛にすべてを(Somebody to Love)(Mercury) 4:56
  7. White Man(May) 4:59
  8. 懐かしのラヴァー・ボーイ(Good Old Fashioned Lover Boy)(Mercury) 2:54
  9. Drowse(Taylor) 3:45
  10. 手をとりあって(Teo Torriatte (Let Us Cling Together))(May) 5:57
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各曲解説・感想

1.Tie Your Mother Down(May)

 ブライアン・メイお得意のハードロック・ナンバー。冒頭に1分ほどのインストが入り、静かにアルバムが幕を開ける。続いてハード・ロックのお手本のようなシンプルで力強いギターリフが曲を引っ張っていく。ヴォーカルも含めた各パートの演奏は非常にシンプルかつ明快であり、ナンセンスな歌詞も相まってオペラ座の夜とは異なる世界観をアルバムに与えている。

2.You Take My Breath Away(Mercury)

 アカペラに少々気味の悪いハイトーンのコーラスで曲は始まり、次いで死を感じさせるような悲しげなピアノが続く。ピアノとヴォーカルだけの静寂な世界で、タイトル「息ができないほど愛している」を見事に表現している。

3.ロング・アウェイ(Long Away)(May)

 ブライアン・メイがヴォーカルを取る、爽やかさの中に哀愁を感じさせるナンバー。12弦ギターの繊細なタッチも素晴らしい(「A Day at the Races (album) – wikipedia(en)」)。ここまでの3曲で、アルバムはすでに見事なバリエーションを披露している。

4.The Millionaire Waltz(Mercury)

『オペラ座の夜』の1曲目「Death on Two Legs (Dedicated To…)」の続編と言ってもいい、新たなマネジャーのジョン・リードについて歌った一曲。しかし、こちらは「共に金持ちになろう」という内容を軽快なワルツで表現している。当時の関係性は良好であったが、ジョン・リードは多忙が故に、真の意味でメンバーの管理が疎かになっていき、彼は1年半後に解雇される。ところが、そこでまたクイーンは金銭トラブルに見舞われる。解雇と引き換えに、多額の現金の支払いと共に恐ろしい契約(ここまでに発表したアルバムの印税15%を永久に払い続ける)を言い渡される(『全曲解説シリーズ クイーン』(2006)マーティン・パワー,シンコーミュージック・エンタテイメント,初版,p.79)。

 それはそうと、この曲はアルバムの目玉の一つといっていい出来だ。ピアノとリードベースのワルツは、中盤にはへヴィなギターと「ボヘミアン・ラプソディ」のフレーズが相まって強烈な静と動を表現している。後半ではワルツのリズムを引き裂くようなギターオーケストラが登場し、パワフルなヴォーカルに重厚なコーラスが加わり、なだれ込むようにして曲は終焉を迎える。

5.You and I(Deacon)

 シンプルなポップソング。対極をなすテクニカルなギターに色付けされ、あっという間に過ぎ去っていく。

6.愛にすべてを(Somebody to Love)(Mercury)

 前半の5曲から一転して、高らかに愛を叫ぶゴスペル・ソングがアルバムに見事な起伏をつける。中盤での早口でまくしたてるヴォーカルは、以降のフレディのヴォーカルスタイルを象徴している。情熱的なヴォーカルはそのままうねるようなギター・ソロへ引き継がれ、後半の重厚なコーラスパートでドラマチックな終焉を迎える。

8.懐かしのラヴァー・ボーイ(Good Old Fashioned Lover Boy)(Mercury)

『華麗なるレース』は終盤の3曲が素晴らしい。前作とは方向性が違うものの、決して引けを取らない、勝るとも劣らずの驚くべきできばえである。3分に満たない曲でこれだけ中身のある曲はなかなか書けない。アップテンポのピアノが曲を引っ張り、フレディのやさしい歌声は「ヘイ・ボーイ」「ウーララ」のコーラスで色付けされ、中盤からのエモーショナルなセクションへ橋渡しされる。独特の音色を奏でるギターで、もうあらゆることをやり尽くし、曲はシンプルな終わりを見せる。

 品の良いプレイボーイが1人称で語る歌で、なんとなく「キラー・クイーン」と対をなす歌にも聞こえる。あちらは高級コールガールで、いずれも題材の扱い方を間違えれば下品で滑稽な歌になってしまうところだが、その間違いは犯していない。歌詞を知らずに聞けば純情を歌うさわやかな曲と勘違いしてしまいそうだ。

9.Drowse(Taylor)

 単調なドラムラインとブライアン・メイのスライドギター、何よりロジャーの独特のかすれたハイトーンが、聞くものを幻惑的な雰囲気で包み込む。今にも眠ってしまい、アルバムはこのまま終わってしまっても良いという気持ちにまでなる。しかし、ラストには日本語を取り入れた大作バラードが控えている。これほどのドラマチックな終盤の展開は、クイーンのキャリアを通じて他にない。

10.手をとりあって(Teo Torriatte (Let Us Cling Together))(May)

Let us cling together as the years go by,
手を取り合って このまま行こう
Oh my love, my love,
愛する人よ
In the quiet of the night
静かな宵に
Let our candles always burn,
光を灯し

Let us never lose the lessons we have learned.
愛しき 教えを抱き

 この一節だけで日本人は気絶してしまう。当時リアルタイムでこの曲を聴けた日本人をうらやましく思う。世界のトップバンドがオリジナルアルバムのラストで日本語詞を取り入れるなど前代未聞である。ジョン・レノンですらそこまではしなかった。どういった経緯でフレディが日本を好きになったかは勉強不足でわからないが、英国のバンドとは思えない東洋的な旋律と素晴らしい日本語を披露している。

 ちょっと気を抜くとバラードを超えてブラック・サバスの恐怖サウンドになってしまいそうな、危ういメロディライン。しかしギリギリのところで踏みとどまり、ドラムのフィルインと美しいメロディが聞くものに救いを与える。流暢でありつつぎこちなさが残るフレディの声は賛美歌をイメージさせる。まさに救いの歌である。
 仮にフレディが生きていれば、毎年数億払って日本に連れてきて、この曲だけ歌って欲しいものである。そうすれば日本人の自殺者は減少するだろう。冗談半分真面目半分の、ラストを飾る渾身のコメントである。

洋楽

Posted by hirofumi